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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十三章 遺産
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 行き先はエルデンブルグの元友好国、現在敵対関係に移行しつつある国……名前はアスモネジル、その国へと公也は向かっている。魔法使い至上主義を謳う国、エルデンブルグに倣い魔法使い至上主義を掲げている国ではある……しかし、途中の街などによって公也が感じたのはそこまで魔法使いが強いとは感じないという事実だ。別に実力が高いという意味で強い、というわけではなく立場的なものである。そもそもエルデンブルグと違い、アスモネジルでは冒険者ギルドが健在である。魔法使い至上主義を受け入れそれを推し進めると言ってもかつてのエルデンブルグほどではないようだ。


「ふむ……あまり魔法使い至上主義が浸透していないのか。そもそもユーナイトみたいな異常な存在なしで魔法使い至上主義を推し進めるのは難しいはず。だけどそれでも無理を通している……というほど極端、無理やりというわけではないと思うが。まあ、まだここは国でも端の方だし、そこまで浸透していない……というのはあるのかもしれない。魔法使いの数もどうだろう。エルデンブルグから流入したという話だが……どれほど入ってきたのか、そもそもの数は? わからないことが多い。まあ細かいことは放っておくか」


 わかったことと言えば現状はアスモネジルではそこまで大した魔法使い至上主義の影響はない、ということだろう。やはり魔法使い至上主義を推すうえで必要なのはそれを確実とする大きな力……エルデンブルグにおいてユーナイトが担った部分である。ただ、この国がそういったことを一切考えずにやっているとも考えづらい。そして今公也がいる場所はあまり国の中心とは言えない端の方……魔法使い至上主義を推し進めるのが国のトップ、王やその近辺であるならばその影響力が届いていないためあまり浸透していないとみることはできなくもない。


「中心地……まあ、王都、王城、そのあたりまでいかないとわからないだろう」


 そういうことでアスモネジルの王都を公也は目指す。




「……旅人? それにしては……荷物が多いし人も多い」


 王都の方を目指していると逃げていく旅人……夜逃げでもしたかのように結構な荷物を持った人々がいた。


「話を聞いてみるか」


 公也は移動は魔法で飛行して……メルシーネは今回連れてきていないため効率的に微妙な飛行魔法によって移動している。それ自体は別段悪いものではないが、身一つで移動するし魔法を使い維持するため魔力の消費もまあまあ大きい。あまり長い間はやりたくない……公也であれば別にそこまでの消耗にはならないだろうが、あまり積極的に消耗したくはない感じである。

 なので、というわけでもないが下りて人の話を聞いてみることにした。形としては未知の向こうから歩いてきたように、普通の旅人に思えるように見せかけて……多少妙に思えるかもしれないが、魔法使いならばアスモネジルに来ていてもおかしくはないので言い訳はできる。


「何やら荷物が多いようだがどうかしたのか?」

「ん? あんた……旅人、いや、魔法使いかい?」

「……別に魔法使いが旅をしていてもおかしくはないが……ここ最近は俺のようにこの国を移動している魔法使いは多いのか?」

「ああ。あんたも……魔法使い至上主義とやらが目当て何だろう?」

「まあ、一応はな。多少興味があってきてみただけだ。場合によってはすぐに去るさ」

「珍しい。ああ、でもまあ、あまりそれは俺たちにゃ関係ないよ。あんたもあまり魔法が使えるからって変に自信を持たないほうがいい。やばいことになることもあるからね」

「……やばいこと?」

「実は、俺たちはな、街に向かってきた放浪魔から逃げてんだ。俺たちの街を襲うことになりかねないってんで、まあ逃げるっつーか避難ってのが正しいかもな。でもやってることは夜逃げのようなもんでよ。住んでいる家を捨てて、街を捨てて、荷物だけ持って逃げてんだわ」

「……放浪魔」


 一度だけ、あるいは他にも放浪魔に値する何かに公也は遭遇している可能性はあるが、明確に公也が放浪魔として相対したことがあるのはドラゴケンタウロス……この世界に来てかなり時期が浅い、始めのころに出会った相手である。放浪魔とはこの世界を放浪する魔物……普通の生物ならば一定の場所に定住しそこで生活する、生活圏、生息圏が存在する。もちろん渡りをするような生き物もあるがそういった生き物も別に毎年行く場所を変えるわけでもなく、一定の範囲をサイクルで移動するものだろう。そういったものではなく、当てもなくあちこちを放浪する魔物、それゆえに放浪魔である。

 この放浪魔は最低でもCランクの魔物、と言われる魔物である。公也が相対したドラゴケンタウロスもCランク冒険者が複数パーティーで挑んで何とか倒せるような相手……単独で町一つ程度ならば容易に破壊してしまうような強さを持つ。そしてBランク、Aランクと上がって行けばその脅威は上がる……特に放浪魔は高ランクの場合は大体が巨大な魔物であることが多い。小さく強いという脅威ではなく、大きく強いという脅威、それゆえに危険度が高い。


「冒険者も魔法使いもいるだろう」

「相手がでかいんで勝てるかもわからんって言われてな。逃げて戻ってきたとき街が残ってれば戻ればいい……冒険者ギルドの方で俺らには逃げるようにって指示を出してきたんよ。魔法使いもそれなりにいたけどよ、あいつら口だけっつーか全然強くなさそうだし、冒険者もまあ、Bランクがいるかいないかくらいっぽい感じでな。Cランクくらいの冒険者も多くねえ、それで勝てるかわかんねーってことで……逃げるしかなかったっつーわけだ」

「なるほど」

「あんたも……ま、俺からは何も言えねえけど、無理にこの道の先に進む必要はねえ。魔法使いの権利だとかそういうものを求めて王都に行くなら別の道を行きな。あんた性格は悪くなさそうだし、変な口うるさい馬鹿な魔法使いよりはよさそうだから言っとくぜ」

「……結構辛辣な言い口だな」


 こちらに来た魔法使いもエルデンブルグにいた魔法使いのようにいろいろ問題を起こしたりするようである。ただ、エルデンブルグでもどうしようもない魔法使いがこちらに来たところでエルデンブルグの時ほどの権利もないこの地であちらほどの横暴はできず、またこちらに逃げ込むような魔法使いはあまり実力を持たないものの方が多く、そんな魔法使いでは大したこともできないようだ。冒険者ギルドが残っているのも大きく、冒険者と魔法使いで微妙に対立している部分もあり、場合によっては冒険者が魔法使いの取り締まりを行っている……ある意味ではエルデンブルグよりは悪くない魔法使い至上主義の状態というべきだろうか。もっともそれは魔法使い至上主義とは言えないような気もするが。




「放浪魔か……」


 話を聞いて、そのまま道を進む公也。折角忠告してくれたが別に公也は気にしていない。ぶっちゃけ放浪魔というものの方に興味が向くほどである。少なくとも公也がその魔物にやられるということもない。強さという点で見ればユーナイトの方が放浪魔よりも強いだろう。あるいはこれまで遭遇した様々な相手、魔物、そういった者の方が恐らく強い。そういった相手との戦いを経験しているため大して恐ろしいとも感じない。


「行ってみるか」


 そういうことで放浪魔を観察に公也は向かった。





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