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「結局受けることにしたのね……なんかごめんなさい」
「いや。別にマギリアが気にすることでもないし……どちらかというとマギリアは相手に受けさせるよう頑張る立場だろう。個人的にあの女性に対して好意的には見づらいが……あれはあれで正しいやり方なんじゃないか?」
公也はファリアの依頼を受けることにしたようだ。それは報酬が目当て……ではもちろんなく。別に受けずとも報酬自体は貰えるわけであるし、お金に困っているわけでもない。今回の依頼はエルデンブルグの危機……とまではいかずとも、今後悪影響を受ける可能性が高いものである……最悪本当に危機になってエルデンブルグがなくなり魔法使い至上主義が蔓延る可能性もある。夢見花がそれなりに遊びに来る場所であり、またアンデールとしても海の向こうの大陸ではあるが友好関係……マギリアを通してのみではあるが一応繋がりのある国、自分たちが助けた国であるという点も含め守っておきたいという気持ちがある。また魔法使い至上主義が蔓延った影響が他の国に出てくる可能性もある。流石に公也たちのいるアンデール……海を越えた場所までは影響がないかもしれないが、来る可能性もないとは言えないかもしれない。そして何よりも公也自身が他国に興味があるということ……未知、新たな知識を求め理由さえあればあちこち行きたいのが心情にある。
大体はそれらの理由である。とはいえ、それが個人的事情なものごとであるとか、手を付けると危なそうとか、何か面倒ごとに巻き込まれそうだ、という場合は手を出さない。今回はそれに該当しないかと言われると……微妙なところであるが、
「公也だけで行く?」
「ああ。その方が動きやすいからな」
「……夢見花もいた方が魔法使いとしてはいいんじゃないの?」
「むしろ二人で移動している方が怪しくないか? 凄腕魔法使いが二人……至上主義を求めて、というには少し野心が見えづらい。男女の二人だと……ただの一緒に旅をしている人物に見られにくいだろうし、恋人や伴侶として見られるならば安定を求めるもの……至上主義みたいなものを求めてやってくる、というのも変じゃないか?」
「そう見られるなら、でしょうし……二人の魔法の実力を考えると……あり得なくもないとは思うけど」
「でもその分怪しくもなる。それだけの魔法使いが知られず無名でいたというのも変な話」
「それは……そうかもしれないわね」
公也と夢見花は一緒にいれば夫婦、恋人……には見えないが、男女二人で一緒に旅をしていればそういった目で見られてもおかしくはない。流石にそういう関係で魔法使い至上主義を求めて旅をする、というのは少し考えづらい。もちろんあり得なくもないし、二人が魔法使いとして凄腕である、とんでもない魔法を使える魔法使いとして極めて実力が高いということであればそういうこともあるかもしれない。しかし今度はそれだけの実力を持っていて有名ではないという点がおかしな話になってくる。魔法使いも冒険者もいきなり名をあげることはあるが、それでもある程度は過程があってしかるべきである。二人ほどの実力を持っているのに何もせずいきなり魔法使い至上主義を求めてくるというのはさすがに疑問が浮かぶ。隠れ里で過ごし自らの実力を理解していないとか、あるいはその力を隠していたとか理由はなくないのかもしれないが……そうなると至上主義を求めてくる、というのもそちらの理由から考えづらい面も出てくる。もちろん可能性という点で絶対にありえないとまでは言えないものもあるが、やはり理由としては確実なものではないというか、微妙なところがある。
どちらかというと男性一人の方が野心……いろいろな特典、力による支配、横暴、好き勝手、そういった魔法使い至上主義の恩恵を求めるという点ではいいだろう。まあ公也の場合はそれはそれで問題があるといえばある。Aランク冒険者という立場で魔法使い至上主義を求めるか、という話になるしAランク冒険者であるのに名前が知られていないという点もある。一応名前が知られていないというのはあり得なくもないが、少しはその噂くらいは聞こえていいし少なくとも冒険者ギルドは知っている。そういう点で怪しまれる可能性はある……が、冒険者に関しては冒険者証を見せなければいいだろう。
まあ公也の一番の問題はこの世界における常識、感覚に対する認識の違いと……その性格、性向だろう。魔法使い至上主義を求めるには善人気質が強いし、その特典を受ける立場として相手側を仰ぐというのもあまりしないだろうという点。一応人に対してまあまあな対応はできる、時場所場合をある程度は弁えるだろうが、やはり我が強い。その点であまり潜入には向かないと言わざるを得ないような気がする。
「まあ、そこまで気にしなくてもいいだろうけどな。俺はそういう方向性で情報収集をするつもりはないから」
「……? どういうこと?」
「別に相手の下について内に入り込む必要はない。情報収集する手立ては色々とある」
「魔法は流石にばれる可能性が高いと思う」
「ユーナイトみたいに魔法の結界、探知をしているとは思えないが……まあ、そちらに関しては誤魔化す手段は考えてる」
「そういうことができるの? というか、できるならなんでユーナイトの時は……」
「事前に知らないのに準備できるわけがない。今回はそういうものがあるかもしれない、と考えて向かうから準備はできるわけだ」
「……まあ、準備不足ではあったかもね。でもあの時はそれなりに行動が前倒しになった問題もあると思うのだけど?」
「否定はできないな……」
「仮に事前にある程度調査できてもほとんど意味はなかったと思う。私のことはばれていたわけだし、見つけられずとも警戒はされていたはず。魔法の発動がバレれば結局ばれるし侵入をごまかしても魔法の方で判別されていたはず。それでも準備不足は確かだったと思う……魔法に対する誤魔化し、侵入などの感知、探知を誤魔化す手段、そういったものをすぐに作る。別に公也も今すぐに向かうわけではないと思う。ならそれくらいの余裕はあるはず」
相手の国に直接侵入し魔法による探知や調査……あるいは侵入する際に探知などの相手側の手を防ぎ入り込むなど、色々と考えてはいる。決して公也が相手の下についてこそこそする、とかそういうことはしない。いや、こそこそはするが……あくまで行動は自分から、好き勝手やりたいようにやる感じである。決して街中でうわさを聞き、相手の重要施設などを下見しこっそり、というものではない。いや、けっこうこっそりはするかもしれない。ただ、公也の場合は魔法を用いてこっそりとするだろう。公也の魔法であればそういうことも無理やりできなくはない……魔法が万能に近い便利なものであり、豊富な魔力を持ち魔法に関することに詳しいがゆえに、いろいろできるからこその強引な手段である。それが良いとは決して言えないが……それでどうにかなりそうだから悪いとも言いづらい。まあ、決してファリアの考えたやり方、方針ではないだろう。思いっきり相手方をひっかきまわしそうなものである。




