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キアラートの国、その王城。今その場に結構な人数の貴族、城に勤める多くの役員、王などが集まっている。そしてそこで行われているのは儀式的な行い。儀式と言っても差し支えないが、それ自体は形として行うことが重要な物でありそれ自体は省いたとしても決して問題のないものでしかない。ただやはり貴族や王族など、権威を持つ者にはそういった儀式的な行いは重要な物である。形として明確に表すからこそ、その権威を維持できる。
そこで行われているのは少し前に起きた戦争に近い戦い、国境付近での争いにてキアラートに勝利をもたらし奪われた街、書き換えられる可能性のあった国境線を守り更には敵の城まで奪った勝利の立役者である一人の冒険者を貴族にするための儀式である。一応書類上などキアラートの国としては既にその一人の冒険者を貴族としては登録したがやはりそれを多くの人間に認知してもらわなければ意味がない。そういうことでわざわざ貴族たちを呼んで儀式を行うのである。なお民衆へと知らしめる行為は今の所行わない。
もちろんこの一人の冒険者とは公也のことである。民衆へと知らしめることは公也の領地の問題であまり行いたくはないと言うのがキアラートの心情だ。そもそも場所が悪い。その場所に領地ができて貴族が治めている、と言われたところで移動自体ができそうにない。知らせたところであまり意味はない。貴族の間だけで知られていればそれで十分、と言ったところだ。むしろ下手に知られる方がデメリットとなる可能性もあり得る。
まあ重要なのは建前、形として貴族として認めたと言う事実である。そのための儀式であり王まで参加しているわけである。
「冒険者キミヤよ。面を上げよ」
「はい」
「其方はこれからキアラートの貴族の一員となる。民を治め国家に奉仕する貴き者の一員として、貴族として正しき行いを成し我らが国の一層の発展に尽くせ」
「承知しました」
「其方には其方が治める地からアンデールの家名を与えよう。其方は今からキミヤ・アンデールである」
「……はっ」
公也としては一応元々名字を持っていたため、貴族としての家名を与えられると言うのは何処か微妙な感じである。さらに言えばその名前ももう少し何とかならないのかと思わなくもない。もっとも公也にとってどのような名前がいい名前かと言われれば判断に迷うところであり、もっといい名前を自分で考えろと言われてもまた難しい。彼が考えた二人の女性名も関連するものから付けた物であり仮に公也が家名をつけるならば元の名から連想したものか、あるいは王と同じく治める土地の名前からになる。
「これより今ここにいるキミヤ・アンデールはわが国キアラートの貴族であることをジームント・エストーエフ・キアラートが宣言する! これに反対するものはいるか!」
しん、と場に静寂が満ちる。王が言った言葉を覆すような度胸のある貴族などそうはいない。また公也が貴族になることには納得がいっていない、受け入れられないと言うものはそれなりに多いものの文句を言うことはできないと仕方なく受け入れており、そもそも今回のことに関しては貴族を呼び寄せる時に事前に話し合いをしてこうすることが決まっていると言うことを通達していることでもあった。それゆえに今この場で文句を言う者はいない。仮にいたとしたらその貴族は公也が治める予定となるアンデルク山の管理を命じられる。アンデルク城に移動することすら大変でありまた相手がワイバーン部隊となる可能性も高く、城を奪われるような事態にでもなればその貴族の責任問題、場合によっては財産の没収、最悪貴族位の剥奪を受ける危険もある。そこまでいかずとも爵位を下げられる可能性はあり得る。ゆえに誰も下手なことはしない。公也に押し付ける方がいいのである。
「ではキミヤよ! これから貴族としてその辣腕を振るうがいい。其方の治める土地は決して簡単に治めることのできる土地ではないが其方であれば良き地にできると我は信じている。しかし其方もいきなり貴族となり一人で貴族としての仕事をするのは難しいだろう。ゆえに王城から其方の元に派遣する者たちを選別した。後で紹介することになるだろう」
「心遣い感謝します」
「うむ。これから励むがよい」
おおよそそんな感じに話は進んだ。具体的にどのような形で貴族になる儀式が行われたかはもっと色々と複雑な手続きややり取りがあったと思われるが細かくその内容を記述すると長くなるので今回は大雑把に一部抜粋という形である。
その後は貴族たちが集まったと言うこともあって交流を兼ねた会食が行われた。そこに公也もいたわけだが、冒険者ということもありどうしても場から浮く。そんなな公也に対し嫌味に近づく貴族、あるいは公也が領地を得たことに対し大いに文句のある貴族などが公也を馬鹿にしようとしてきた。もっとも公也もある程度貴族の礼儀に関しては事前に学んでおり相応に対処した。また同じく領地を持つ貴族からは領地を持つ苦労を分かち合おうと言う形で話し合うことにもなった。また公也の得た領地、アンデルク山に関してのことを知っている者はそこを治めることになった公也に対し同情や憐れみを持ちそこから話を始める者もいた。
そんな感じで公也はキアラートの王城で貴族との色々なやり取りをしながら過ごしていた。ちなみに王城に来ているのは公也のみだ。貴族として認めると言うことで公也だけが招待されており、そこに妖精であるヴィローサはたとえ問題ないとしても行きづらい……いや、さすがに妖精は来ること自体が問題視されるだろう。フーマルに関しては獣人だが別にそれは問題ないが語尾にっすというものがくっつく三下口調なうえに貴族がいる場に出向く時点で精神的にアウト、ダメだと言うことでついていくことを辞退した。ロムニルとリーリェに関しては魔法使いで元々公也の監視を含むアンデルク城に詰めることもまた一つの役割であり公也という大きな防衛の手立てが王城へと出向くのだからその間彼らが代わりに守りに努める必要があると言うことで来なかった。まあ本人たちには貴族とのやり取りが面倒だと言うのもあっただろう。
そんな感じで色々とありつつも貴族らしい歓待や貴族らしいやり取り……と言っていいのかどうかはわからない者の、公也はその立場、立ち位置を認められ貴族としてキアラートに籍を置くことになった。そして部下となる人間……恐らく監視することも込みで公也の下に就くことになる人間を連れてある程度の物資を購入しつつ、公也はアンデルク城へと戻る。なおワイバーンに関してはかなり扱いが難しいらしく公也の元に残されている数は少ない。今回ワイバーンで人員を運ぶにあたり籠をわざわざ作ったうえで公也の魔法による軽量化の付与などいろいろととても手間がかかった。仮に彼らの中に公也の監視としての要因がいても簡単にアンデルク城からの報告を行うことはできないだろう。もっとも世の中には魔法、伝書鳩、あるいは隠密系の技術を持つ人間など、やろうと思えばアンデルク山を下りる、下りなくとも連絡を伝達する手段を持つ者はいないとも限らない。特殊能力の存在もあるのだから。
まあ、あまり公也が難しく考えても意味がないことである。部下としてつけられた人間は王城で公也の仕事の手伝いを担う人間として選出された者たちである。その選出には王城の上位の職責の者、それに王も関わっている。仮に文句があったとしても突っぱねることはできない。ましてや公也は周りに部下となるような人間もいないし部下として取り上げる領民もいない……それなら部下もいらないのではと思わなくもないが、貴族として絶対にやっておかなければならないあれこれもあるゆえにしかたのないことであった。
※なんだかんだで形式っていうのは重要。
※王様の話す言葉って書くの難しい。ラグナ系王様になる理由がなんとなくわかる。




