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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十三章 遺産
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『しかし、完全な耐性を獲得するようにした結果の問題点がある。物理攻撃、魔法攻撃、この生物を害する危険のある攻撃手段に対して可能な限り耐性を獲得するようにした。それは明確な攻撃手段だけに限ったものではない。精神魔法、洗脳魔法、その他実際に現象を引き起こす……この世界における物理的な形にならない現象も、だ。いや、我々がこの生物にそういったものに対する耐性を得るようにしたし敵に向ける前に耐性を持たせるため色々とやったわけなんだけどね? あらゆる物事に対する耐性を持つ、というのはなかなかに厄介な効果でね。魔法に対する耐性も当然できる……さて、それでは我々はどうやってこの生物を操作するのだったかな?』

「……魔法による操作が」

「耐性の獲得。操作を受け付けなくなった」

「……それって意味がないんじゃないの?」

「意味がないどころか……やばい生物が暴走状態にあるってことだよな」

「それってやばいんだよな?」

「やばい。耐性を持たせた、という時点で魔法による殲滅もできないんじゃないか?」


 あらゆる魔法に対する耐性を持つ……耐性を獲得する……当然操作する魔法に対してもそうなる。最初はそうではなかったが、魔法による操作を受けるうちに捜査魔法に対して耐性を得たらしい。操作できなくなるまでに他の魔法による攻撃を持ちいて耐性を獲得させたことが彼女らにとっては裏目になったという感じである。


『魔法による操作を受けなくなった。この生物を殺すにも魔法に対する耐性を持っている。物理攻撃にもだ。いやあ、凄いね。頑張って殺そうにも殺しつくせない。最初は小さく作ったんだけど、スライムらしく色々食べるうちに大きくなっていってね。魔法の耐性も併せて、強大な攻撃を用いても死なない死なない。さて、どうしたものかということになるんだよ。もちろん施設ごと隔離するのも一つの手だ。こんな場所に施設があるのも最悪山をぶち壊して施設ごと生き埋めにすればどうにかなるだろうという考えの元だね。まあ本気でそうするつもりはなかっただろうけど、最悪そうすることも考えて最初は作っただろう。まあ、私たちが作ったあれはそんなので殺せないんだけどね?』

「……スライムだからか、耐性を持ってしまっているからか」

「でもスライムでも微小な隙間を抜けることは難しい。密閉……まずはいかずとも生き埋めで封じることは不可能ではない」

「……スライムだぞ。あいつらは一応何でも食べる、見たいな話じゃないか?」

「いくら魔物でもそこまで出鱈目ではないと思うけど」

「でも魔物だからあり得ないとはいえない。そもそも今回のこれは魔法生物。食事がどうかは不明」

『仮に生き埋めにしたところでこの生物はあらゆるすべてを食べる。全てだ。この施設はもちろん、山なんて食らいつくしてしまうことだろう。増殖量は喰らった量に見合うほどの増殖はしないとはいえ、食べればその分だけ増殖する。特に物質的に存在している……そうだね、個として大きなものはその増殖量は大きいようだ。水とかでも増殖量は抑えられるけど結局のところ食らいつくされるし増える。普通のスライムであれば水の中に封じるとかできないこともなかった。凍らせてその内で、みたいなこともできるだろう。この生物は耐性を持ってしまっているし水なんかも食らいつくすから結局のところ封印はできない。この生物は空気ですら食べることができるんだ。どうあがいても封印することは無理……人間が絶滅する、という話も納得がいくだろう?』

「世界そのものが危うい」

「そんな生物を作って機嫌よさそうに言うのはどうなのか」

「傍迷惑すぎるわ……」

「でも封印されてるみたいだけど」

「そうだな。今のところそれが暴れ出した様子はない……なんでだ?」


 頭に超がつくような危険生物を作り出した……研究者側の意見、考え、そういったものはこの際無視するとして、それだけの生物ができてしまったその災害ともいえる危険は今のところ封じられている。作り出した当人が言うには殺せないし人が絶滅する危険のある生き物、あらゆるものを食らう存在であるということらしい。いったいどうやって抑え込んでいるというのか……それが浮いている時点である程度の推測はできる。


『幸いというか、どうやら空気……気体は喰らうのが極めて遅いらしい。固体は速く、液体は多少遅くなり気体はそれよりもさらに遅い……スライムらしくそれ自体を圧縮すれば大きさをかなり抑えられる。現状は虫に対して使っていた空中保管技術を用いて封印することが可能だった。いや、彼らが自意識を持たなくてよかったよ。誘導さえできれば罠にはめるのは簡単だった。おかげでその装置に誘導で来たんだ。まあ、貴い犠牲はあったけどね。何でも食べるとはいえ好みはあるようで、有機物……特に生物がいいらしい。なんでも食べるというのはこの世界の物質に限った話ではないのかもしれない。まあそのあたりの検証はできないから考えないでおくよ。流石に今後も私が研究室長とかやっていける可能性は低いだろうし。個人研究はするけどね。ああ、まあ、ともかく空中に空気の噴出で固定し抑え込むことができた。空気をあまり食わないという点で、さらに言えば空気の流動で一度に食べられる量も抑えられる……いや、下手したら増えるのかもしれないかな? そこはわからないけど、それによる圧縮と固定で抑え込んだ。それにより時間に余裕を持たせることができたわけだ。正直言って抑え込むことはできてもこれ以上の対応はできない。魔法で倒せない、物理的な手段で倒せない。どう倒せって? これを相手にぶつけられればよかったんだけど、残念ながら操れないからね。私たちでも倒せない。封印するしかない。施設ごと破棄し、永続的に世界の力を使い施設の運営を維持する。必要ない部分は封鎖し重要施設のみを維持し続けられる環境を構築し……最終的に扉を封印し未来の者に頼むこととしたのさ。もっとも私たちが作り上げたこれを倒せるとは思えないけれどね。一応封印を解いてここに来られる……そんな人物がいれば、という感じで期待をしているわけだ。この時代の魔法使いたちよりももっと優秀であれば何か倒す手段があるかも、とね。君たちがそうであることを祈ろう……後何か話すようなことはあったかな。この辺りでいいだろうか。ああ、私もまだやるべき仕事があるからそろそろこの記録を残すことを終わろうか。記録を切って……』


 そこまで話したところで映し出されている映像が途切れる。どうやら映像を記録するのを止めたようである。ここまでが記録された映像であり、またボタンを押せば再度映し出される映像だろう。彼女がこの映像記録を撮っていた時点ではまだ騒動は完全な終結には移っていなかったが今後どうするかのある程度の予定は立っていたようで、現状公也たちがいた場所来るまでにあった施設の封鎖や扉の封印などに関しても触れていた。

 そして何よりも重要なこと……この施設に封印された巨大なスライムの魔物に関して。世界を滅ぼし得るあらゆるものを食らう魔物。公也がかつて遭遇した暴食蟲はその性質上一定サイクルで活動するため世界を滅ぼすには至らなかった。また寿命もあり、増殖ペースは危険だが何れは死に絶えるだろう生物だった。しかし、今回のこれは魔法生物……しかもスライムベースであるがゆえに寿命の概念は薄く、世界が終わるまで死なない危険もあるかもしれないもの……果たしてスライムに寿命はあるのか。ともかく世界が終わるまで生き続けあらゆるものを食らう世界を滅ぼす可能性のある魔物……終末の獣、獣ではないがそういった世界の終わりを担う可能性のある存在。それをどうにかしなければ何れは世界が終わる、そんな存在を何とかしておかなければいけなかった。




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