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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十三章 遺産
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3



「そもそも封印と言ってもこれは中にいる存在を押さえ込むものじゃない」

「え? それはどういう……」

「外からの来訪者を弾く、防ぐ、遮る、そういうもの。中にいるものを封じる仕組みじゃない」


 封印と言ってもそれは扉を封ずるもの……中にいる存在を近づけない、その動きを封じ押さえ込む、そういうものではない。外からの来訪者……外部から中に入ろうとする者に対し作用するものであり、内向きではなく外向きへの作用となる封印。つまりは扉を外から開けようとする存在に対して作用するもの。なぜ中にいる者を封じるものではないのか……という点で疑問だが、それはそれで別の理由がある。


「なんでそうなっているの?」

「わからない。ただ、迂闊にこの中に入らないようにするためのものだと思う」

「……中に何かを封印しているんでしょう? それだと中にいる存在は自由ってこと?」

「扉の中がどうなっているかわからない。ごく狭い範囲に封じされていて出られない……とは思えない。扉の内からは開けようと思えば開けられる。もっともこの扉自体魔法陣なし、魔法の力なしでも開けるのは簡単ではないけど、それでも開けるのは難しくないはず。でも出てこない」

「……どういうこと?」

「外の不毛な状態、地脈の力……外が不毛な状態になるほどの力を使っている。それはなぜか? 自然が一部消え去るほどの規模の力を何に使う? 封印? この封印は仕組みはそれなりに複雑、五重というかそこそこ厳重ではあるけど、魔法としての力としてはそこまでの魔力を使うほどではない。魔法は発動するときと維持するときでは消費魔力が違う。世界に影響を与え魔法を発動させその現象を引き起こす時が一番消費が多く、その維持には発動時ほどの消費はない。もちろん維持する時間が長ければ長いほど消費はお菊」

「長いわ。重要な点だけを話して」

「扉の魔法陣、その魔法を維持するのに地脈の力はそれほど必要ない。この辺りの自然が消えるほどの影響を与える地脈のエネルギーは別の何かに利用されている」


 この辺りの自然環境を一変させる、不毛の地帯にするほど大地に流れる力を使っているのは扉の封印へではなく内部の別の何かに、ということである。それが何かは流石に外から見ても夢見花ではわからない。あるいはユーナイトならもしかしたらわかった可能性はないとは言えないが、それは今更な話だろう。想定されることは扉の封印とは別に内部に存在する何かの封印に使われていること。可能性としてはそれが一番高い。ただ最悪を想定するのであれば中にいる存在が地脈の力を吸い取っている、内部の機構を利用して自らに力を集めている可能性もある。もっともそれならとっくの昔に封印から脱しているだろうし、そもそも扉の封印が内向きではない時点で中にいる存在に対する危険はある程度対応されているのだろう。中にいる存在は危険ではないわけはなく、封印されている以上は危険な存在であり、その危険な存在を何とか押さえ込んでいるのが地脈の力による何か、機構によるもの、そういうことになると思われる。


「そう……よくわからないけど、それならこの扉自体は解放しても問題ないと?」

「現時点での断定はできない。開けたらいきなり別の機構に作用するかもしれないし封印とは別に開けることによって経年劣化による崩壊や破損が起きる可能性だってある。内部にいる存在も隔離されているから大人しいだけで外と繋がれば、あるいは私たちが中に入ることで覚醒する可能性もある。今すぐに解放することは良いこととは言えない」


 この扉がいつ封印されたのか。少なくとも百年二百年ではないだろう。エルデンブルグはそれなりの歴史がある国でありこの扉に関してこれまで一切記録に残っていない、というのもあり得ない話だ。いや、仮にエルデンブルグが存在している間にこの扉が作られたのであれば、の話である。この場所に関してこれまでのエルデンブルグの歴史で調査された、探索した、発見の話すらない。隠されている……ということもないだろうが、少なくともここまで来た冒険者や魔法使いがいなかった、という可能性はある。ただ、それはそれで可能性としては薄い。一応調査はされたが魔法陣自体はわかっても魔法使いでもお手上げで一切触れることがなくなり、その結果忘れ去られたという可能性はあり得なくもない、という感じだろうか。

 ともかく、エルデンブルグが存在している間にこの扉が作られたのであればそれはエルデンブルグの歴史に残っているだろうということになる。そもそもエルデンブルグの国内に存在するのだからエルデンブルグが存在している時に作ったのであればそれはこの国の魔法使いたちが作ったということになる。それが記録として残っていないとすれば国が興る前に作られたとみるべきだ。もしかしたら可能性の一つとして歴史から抹消された、という可能性もないわけではないが……それならそれで魔法使いの技術としてこの扉の作成、そこに存在する魔法陣に関しての記録やそれにかかわる技術くらいあってもおかしくはない。ならばやはりエルデンブルグができる前のもの、と見るべきなのだろう。


「つまり……どうすればいいのかしら?」

「ちゃんと準備して中にいる何かに対しての対応ができるようにしてから調査するべき」

「結局調査はする必要があるのね」

「放っておいても構わない。放っておけばとりあえず問題は起きないと思う。今まで大丈夫だったのだからすぐにどうこうとなるわけはない。ただ、この場所に関して本当に一切何も情報がないのかは調べておいた方がいいと思う」

「……そうね。一応この国にあった以上はこの国に情報があってもおかしくはない」

「冒険者ギルドに情報があったりしないか? 確か……何かそういうやばい者に関しての取り扱いもギルドはしてたと思うぜ」

「冒険者ギルドか……一応何とか戻せてはいるけど、関係改善はまだまだなのよね」


 冒険者が調査している可能性に関してはあり得ないとは言えない。ただ、国として冒険者ギルドに資料提出、情報提供を呼び掛けるようなことはないわけではないのだが、エルデンブルグはついちょっと前まで冒険者ギルドが存在しない状態だった。魔法使い至上主義のため冒険者という者を排し魔法使いによるギルドを作った。一応前身として冒険者ギルドの形骸が幾らか残っているものの、冒険者ギルドとの関わりではなくなっている。戻ってきたとはいえ、冒険者ギルド側のエルデンブルグへの心象は良くないと言わざるを得ない。そのため情報提供を呼び掛けてうまく情報収集が可能かはわからない。ただ、冒険者ギルドは大昔から存在する組織でありエルデンブルグにない情報も持っていてもおかしくはない。そういう点では念のため呼びかけてみるのも悪くはない選択になるだろう。正直やり辛いところはあるだろうが。




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