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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
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「ちっ! やはり効かんか!」


 ガルジェイスが裁きの魔物に斬りかかっている。その斬撃は確かに魔物に傷をつけるがその傷はすぐに回復する……強大な一撃である技の一撃ですらもすぐに回復されたのだからその結果は当然。多少の傷では問題なく回復されるだけだろう。


「ならば! 炎はどうだ!」


 片手で剣を振るうその剣に炎が纏われる。炎による傷口を焼くという攻撃手段……傷の回復を不可能にするために焼く、というのは特に傷の性質に関わらず回復する相手にはそれほど効果はないだろう。ただだた斬られたよりは傷口が酷い状態になるため回復を遅らせることはできる……もっともそれは本当に少しだけ、わずかな時間。戦闘に影響しない程度の時間、ダメージの規模も大したことのないレベルである。そしてそれで回復能力が衰えるようなこともない。


「っと! ったく、効かないな! ならば……呪ってみるのはどうだ!」


 次に振るわれた剣は蠢く黒い何かを纏う。先ほどは炎、今度は呪い。ガルジェイスの振るう剣、技はその都度違う技を纏う。

 ガルジェイスの技は剣の技である。その技は種類を選ばず、あらゆる剣の技……炎を纏う剣、氷を纏う剣、呪いを纏う剣、強力な一撃を振るう剣、レーザーのような光線を放つ剣、その種類は様々である。通常技というものはその人物の性質に由来する。フーマルが振るう剣は本人の性質である水、氷の方面に特化しているものだ。サフラは雷を使い超強力な矢を放ち、セイメイは闇を剣とともに振るう。セージは加速による超高速の攻撃を行える。それぞれの持ち得る性質、特性……つまりは才能に由来する。

 だがガルジェイスの振るうそれはあらゆる剣の技になる。才能による偏りはない……わけではない。ガルジェイスのそれは剣でしか振るえない、つまりは剣に特化した技と言える。だからこそ剣技としてしかその技は振るえず、その代わり剣の技であればあらゆる方面に振ることができるわけである。とはいえ、ガルジェイスのそれは少々特殊で弱い剣の技としては様々な方面に振るえるというだけだ。その才能は剣の技、剣の一撃、ただ最強の一振り、強力な剣の一撃に向いている。他の剣の技はそこからのおこぼれ、派生ともいえるものでしかない。

 ガルジェイスの才能による最大最強の技は既に二度見せている両手での剣の一撃。全力で振るうそれである。超強力な一撃で森の一角を薙ぎ払えるくらいの攻撃、その強力さゆえにガルジェイスは剛剣と呼ばれる。その強力な技と派生した弱いが様々な属性、性質に振ることのできる技があるがゆえにガルジェイスは高ランクに上がるに至った。本人の剣の強さは相当なものである……もっとも今回の相手には、多少の強さでは通用しない。その剛剣の一撃も相手の頑強さをぶち抜くことはできず、回復の余地を残してしまう。一度放ってすぐに、というわけにはいかない。ガルジェイスの強力な一撃は残念ながら連撃はできない。結構なためを必要とするものであるがゆえに。


「どくのですよ!」

「っ! おお!?」

「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」


 ガルジェイスが剣の技を振るい、傷を与えてすぐにメルシーネがガルジェイスに叫ぶ。そしてガルジェイスが体を退けてすぐ、それまでいた場所を熱線が突き抜ける。


「熱っ! なんだこれ!」

「けほっ……ブレスなのです。竜が吐いてくる炎のブレス……を圧縮してぶっ放したのです」

「とんでもねえな……結構焼け焦げている。だが……」

「回復しているのですね。ついでにそちらのつけた傷も回復しているのです」

「だいぶ遅くはなってるがな。あれは一応回復阻害の呪いにしておいたんだが」

「とんでもない技なのですね。割と何でも剣でできる感じですか」

「そちらに言われたくはないな……しかし殺しきるのは厳しいか?」


「うりゃーっ!」


「……気の抜ける奴だ」

「リーンはこちらの攻撃に巻き込まれても気にしないのです。当たらないに越したことはないですけど」

「さっき体が焼かれていたように見えるんだが……」

「あれは簡単には死なないのです。あれで人間なのだからおかしな話なのですよ」

「そうかよ……」


 ガルジェイスの呪いを纏う剣でつけた傷も、回復阻害もあっさり上回る回復能力で傷を回復される。呪いを無効化するとか、その影響を無理やり切り離すみたいなことをせず、自身の回復能力で呪いの阻害を上回るという恐ろしさ。少なくともはガルジェイスでは阻害は厳しいとみるべきだろう。

 一方でメルシーネのブレス……熱を集めた超高温の熱線、一般的にイメージする竜の吐く炎よりもさらに強力な触れた物を焼き尽くすような熱線での攻撃。竜のブレスは圧縮と放出の力。一般的に炎にするだけの熱量と塵などの燃える物ではなく、熱量のみを、膨大な熱量のみを集め……それを圧縮したまま放出する。それによる熱線である。もっともこれだけの熱量の圧縮や放出を行う場合、体への負担が大きくなる。一応人の姿でも身体的に大きな問題はないが、竜の姿の時よりはある程度性能が落ちる部分はあるしそもそもからしてメルシーネの圧縮放出の力量では流石に厳しい面もある。呼吸器、体内部にも影響が出るため連発はできないし次のブレスにも現時点では暫く影響が出る。

 そしてリーンはそんな二人の検証、色々な試しを気にせず斬りかかっている。どんな強力な相手も、回復能力を持つ相手でも斬り続ければいずれは尽きる……リーンの<不屈>ゆえにいつまでも戦い続けられるし、自分が攻撃で傷ついても回復するし死んでも復活する。ガルジェイスやメルシーネの攻撃に巻き込まれても問題なく戦い続けられる……まあ巻き込まれないのが一番だが、そうなったとしても問題ないため先ほどからずっと戦い続けている。裁きの魔物も肉弾戦をしないわけではない。その腕を振るいリーンを潰したり叩きつけたり弾き飛ばしたり握りつぶしたり、いろいろしているが死なない、倒れない、ずっと挑み続けている……ある意味ではメルシーネやガルジェイスよりも相手方から見れば恐ろしいものとして見られているかもしれない。


「とりあえずもう一度あの一撃を放ってみるか……?」

「無理はしないほうが良いとは思うのですけど……それにしても、ご主人様は何をしているのですか」


 メルシーネは後方にいる公也の方を見る。公也は裁きの魔物と、空を見ていた。







「キイ様? 特に問題はないの?」

「ああ…………」

「あの魔物、キイ様なら倒せるでしょう?」

「そうだな。やろうと思えばいろいろやりようはあると思う」

「……でも動かないのですね。何か考えがあって?」

「…………考えってほどの物でもない。ただ、なんとなく思っただけだよ」


 公也は裁きの魔物を見ている。その強さ故に一撃で倒すならば超強力な攻撃を必要とすること。並大抵の技、魔法では倒せない。公也には既に幾らか実績のある倒す手段がある。空間魔法による圧縮でもすれば流石に倒せないというわけもないだろう。黒い仔山羊と違い裁きの魔物は大きさ的に消費がそこまでではない。それで倒してもいい……のだが、一つ、相手の強さ故に思いついていることが公也にはあった。


「あれなら試してもいいかなって」

「……試す、ですか?」

「ああ。杞憂を現実のものにするのをちょっとな」

「……杞憂?」



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