表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
1408/1638

27





 魔物の能力は別に人間だけを対象にするものではない。基本的な対象は人間であるが別に人間以外、人種以外に通用しないわけではない。実際ヴィローサは何でもないように見えるがメルシーネはそうではない。メルシーネは魔物であり人ではない。一応は獣人の一種として外部対応しているが実際には違う。しかしそんな彼女も影響を受けている。つまりヴィローサが妖精だから影響を受けていないというわけではない。対象として選択されるのは基本的に人などの知性、思考能力を持つ存在。さらに言えばその罪の意識、認識も重要なものになるだろう。もし生まれたての赤ん坊がいれば対象として選ばれない可能性はある。ただ子供はそうでないこともあるだろう。これは悪い、良くないという意識があればそれは悪いことの認識、罪の認識に繋がる。ゆえにそういった認識を持たない状態であったり思考能力的にそういうものに至らない種は対象にならない。

 まあ、そういうものなのでヴィローサも対象になるのだが……そういった様子はない。一応罪のない存在であれば対象にならない可能性はあるが、ヴィローサは流石に罪がないとは言えないしそもそも生きているだけで罪である、という認識を魔物の方が持っているため生者である限りは対象になるだろう。当然ヴィローサは死者ではない。なぜヴィローサが何の影響も受けていないのか。


――汝は罪なきものか。


「その罪って何なのかしら? よくわからないのですけど?」


――生きていることは罪である。汝は死者か? 生者か?


「ふふ、見ればわかるのにね。生きているけれど? でもあなたのいう罪っていうものはないんじゃないかしら? ここにいる皆様のようにならないのだから」


――おかしき話。汝に罪は見えぬ。罪を持たぬもの、初めて逢うに至り。


 魔物も驚くような存在……この世界に存在する中本当の意味で罪を一切持たない生き物はいない。恐らくは魔物自身それを理解しているからこそ、ヴィローサの存在は本当によくわからない存在となっているだろう。罪を持たない赦された存在、自分の力の及ばない相手であり自分が赦した相手ではない存在。


――しかし何故立ちふさがる。罪ある者に許しを。赦し、生まれ変わり新たな生を未来を。それこそ正しい形。


「はあ? そもそもなんでキイ様に罪があるとかいうのかしら。キイ様にそんなものはないわ。ふざけたこと言わないでもらえる?」


――今そこに倒れ伏すことこそ証左。


「関係ないわ。キイ様に罪なんてない。そもそもなんでお前なんかがそういうことを言ってくるわけ?」


――我が運命、我が力にて。


「だからキイ様を苦しめるわけ? そんなの私が許さないわ」


 ゆらりと、ヴィローサからオーラのようなものが現れる。いや、何かが集まっているような、そんな感じに見える。普段見せないヴィローサの本性、見た目も若干変わるような妖精の本性を現しながら力を使っている。ヴィローサの力は毒の力、相手の体内に毒を発生させるようなこともできるが今回はそういうものではない。何かを集めるように、周りからヴィローサの方へと移動している……もちろんそれは毒、彼女の力を考えればそれ以外にはあり得ない。


「……ヴィラ? 何を」

「私はキイ様に害する存在は許さないわ。でもあれ相手にどうにかできるわけでもなし。その力を止められるわけでもなし。自分の強さの自覚はありますもの。だからこそ、私にできることをやるだけです」

「……ほんとにどういうことだ?」


 ヴィローサの最もそばにいる公也は自分の体が問題なく動くようになっていくこと、罪を持つ者を対象にする力の影響を受けなくなっていくことを感じている。一体それはどうやってやっているのか……ヴィローサの力を考えればどうやっているのかなどわからないわけではないが、果たしてなぜそれでできるのか、という理解できなさがある。


「なんだ? 体が軽くなっている……」

「これは…………彼女の力ですか?」


「……結構な出鱈目なのですね。最初から無事な時点で想定はできましたけど」

「はあ……なんとかなった?」


 そしてその影響は公也だけではなく、周囲のすべての人物に。


「……これは」


――何が。


「罪とは何かしら? 私にとっては……罪とは毒よ」


 罪は毒である。かつてヴィローサは公也の中に存在していた罪悪感を毒として取り出した。それと同じ、ヴィローサにとっては人の持つ毒の要素はすべて毒。身を侵す罪悪感、悪意、嫌悪、トラウマ、その他毒として見做すことのあらゆるものを毒としてみなせる。流石に干渉してくる力自体を毒として見做すことは……一応できなくはないのだが、そこまで干渉できるほどではない。そればかりは力同士のぶつかり合いのような形で干渉はできない。

 最も公也に対してかつてヴィローサがやった時ほどの影響力はない。毒として取り出したのはあくまで一時的なもの。罪として見なされる力の干渉を受けている要素のみ。人の持つ罪悪感は生きている限り消せないし、生きていることが罪とされるならば生きている限り罪は消えない。もちろんそれはあくまで魔物がそう見做しているだけだが、それゆえに力による干渉の影響力は大きい。ただ、その鑑賞対象とされるものをヴィローサは毒として見做し、己の元に集めた。それゆえに魔物は罪への干渉ができなくなった。少々ヴィローサの能力の特殊性、強さが異常な気もするが、それこそが彼女が生きながらにして再誕したがゆえの彼女の特殊さもあるからこそだろう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ