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お金というものに対する執着は人間など通貨を扱う者、社会を営みそこでお金という概念がないと成立しないものである。オルフグを黄金に変えた魔物はカネ、カネという言葉を発し黄金に変えていた。キンではなく、カネ。黄金は金、キンであってもカネという言い方をするものではないだろう。だが黄金はお金でもある。金は金属として極めて価値の高いもの、見た目から稀少価値などその性質ゆえに様々な有力者が財貨として有するものである。大量の黄金を持ち込めば運が良ければ量次第だが億万長者も夢ではない……とは言いすぎだが、お金持ちにはなれるだろうというものである。もっともやはりそれは結局のところ人間社会、お金が使われる社会でなければ成立し得ないものだろう。
では魔物はなぜそのような言葉を発し、相手を黄金に変える性質を持っていたのか。この暗黒の森に蔓延る魔物たちは特徴を持つ。それは執着あるいはトラウマである。足による踏み付けの魔物は足というもの、あるいは踏みつけるという行為に対する執着。ゆえに足だけだったし踏みつけることに特殊性があり強化するようになっていた。また踏みつけるごとに回復するのも常に綺麗な足を維持する、あるいは踏みつけることで良くなるという性質があったと考えられるだろう。馬車の魔物は馬車へのトラウマ……正面からぶつかれば上から踏みつけられるようになっていたのはつまりは踏みつけが馬車の絶対的な恐ろしさであるというもの。ゆえに踏みつけは回避できないし即死、完全破壊を行う性質を持っていた。他にも雷の魔物は雷への恐怖やトラウマ、見えない存在しないような魔物はそういったあり得ないはずのいない存在への恐怖、ドロドロで不定形な魔物はそういった感じの者に対する嫌悪や恐怖などが元だろう。執着よりは恐怖やトラウマの方が性質としては大きいかもしれないが、ともかうそういったものがこの暗黒の森の魔物の特徴、性質、発生起源にある。
さて、なぜそのようなものが魔物の発生起源になるのか。魔物にそんなものはない、あったとしてもそんな多様なものはないはず。そもそも足やお金への執着は魔物が抱く者とは考えづらい。では誰が抱くものかといえばそれは人間だろう。つまり人間のトラウマや執着が発生起源にある……例えば、この暗黒の森につい最近入り宝探しに並々ならぬ執着を持っていた冒険者、とか。彼ならお金への執着を持っていてもおかしな話ではないだろう。もちろん彼に限らずお金に対する執着を持っている者は多いだろうから彼の持っていた執着だとは断言できるものではないのだが。まあ、そういった人間の執着やトラウマを使用しているということになる、という話である。なぜそんなことをしているのか、どうやってそれを実現しているのか……そのあたりの話は相手の正体、その性質や明確なことがわからないため何とも言えないところであるが。
「……おい。なんか見えたぞ」
「魔物か?」
「いや……人工物だ。なんだこれ? 遺跡……っつーにはちょっと違うか」
「祭壇? 儀式場?」
「そっちの方がイメージには近いかもしれん……だがなんでこんなところに?」
「わかりきったことだろ。ここにいる魔物、ここが禁域に指定される原因の魔物をどうにかするためのもの、なんじゃねーの?」
「魔法使いがいれば……いや、魔法使いでもわかんのかこれ?」
「聞いてみるのが一番だろうな。おーい! キミヤ! ちょっとこっちきてくれー!」
ガルジェイスたちはオルフグの黄金化という死んでいた危険のある事態からかなり警戒して先を進むようにしていた。後方のルーウィックも、真ん中にいる公也たちも十分に周辺に注意しながら進んでいた。歩みは遅いながらしっかりと進み、問題にも対処しながら……消耗はありつつも犠牲もなく進むことができている。魔物事態は厄介で特殊能力を持ち脅威となり得る相手だがそれでもまだ対応できないわけではない。Aランクともなれば油断せず警戒を怠らなければ問題にはならない様子である。
「……これは」
「何かわかるか?」
「……魔法の何か、と言われるとたぶん違うと思う。だが…………明らかに何か意図的に組まれたというか、作られた場所だし、何らかの意味は……あるのかな?」
「それを聞いてるんだけどなあ……」
「これ自体に意味はないかもしれません。形として作った、用意しただけの可能性はないわけではないでしょう」
「わかりやすく場を整える、というやつでやらないとは限らないな」
祭壇や儀式場、そういったものは作ってあるからと言って必ず何か効果を持つわけではない。少なくとも公也はこの地のそれにそういった効果を感じてはいない。魔法は一般的に魔力を必要とするもので長い間維持するには地脈などの利用が必要不可欠。なのでそういった技術を持たない、あるいはそういった技術を使えない場においては魔法による効果を及ぼす場を作る可能性は低い。もしかしたら過去には何らかの効果があった可能性はあるが既にその効果が切れている、という可能性もないとは言えない。
「だけどこんなものがあるということは……」
「この辺り、ということでしょうか」
「そうなるんだろうな……というか、なんとなくわかるだろう、お前らも」
「…………底知れぬ気配を感じますね」
「確かに……強大な何かがいるのはわかるな」
流石にここまで来るとこの禁域に存在する禁域に指定される凶悪さ、強さを持つ魔物の気配がわかる。それは今のところ強く感じるものではないが……それは明確に、活発に動いているわけではないから、だろう。人間が入り刺激され起きるまで至ったが、今のところそれが動き出すような状況にない。何時か動き出すだろうが、今すぐ積極的に活発に動くわけではない。だからこそ今倒すべき、と考えるところではある。ただ刺激してしまうとはっきり覚醒しかねないという点では危険もある。だが倒さなければ危険という点において今どうにかしておくべきことになるだろう。
「……全員で行くのか?」
「それが一番いいはずです。私としては仲間がいないと全力を発揮できない問題もありますが……」
「俺は仲間はおいて行きたいが……おいて行った方が危ないかもしれんな。守れるかもわからんが……」
公也としてはできれば仲間は待機させておきたい気持ちがある。しかしルーウィックはチーム戦、仲間がいるからこその強みがあるようで連れて行きたい。ガルジェイスはオルフグの件が尾を引いて残したい気持ちがあるが、この暗黒の森でAランク冒険者であるガルジェイス、公也、ルーウィックなしで他の仲間たちが無事にやれるかが不安なところであるため連れて行きたい。同時に連れて行って守れないかもという点で不安はある。
「……できる限り守りを固めて全員連れて行くのが無難か」
「確かに場合によっては戦いに参加させることができるかはわかりませんからね」
「相手次第だな。ま、とりあえずまずは様子見だ。確認してダメそうなら離れたところで待たせるしかないだろ」
とりあえず今ここで置いていくことはしない。戦いに参加するかはともかく、連れて行かざるを得ないという点では仕方がないことだろう。




