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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
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 魔法で何でもすることはできない。夢見花も公也も、そのほか多くの魔法使いもおおよそ魔法に関してそう言うのは変わらない。根本的に魔法はこの世界に現象を起こすもの。その現象が多岐にわたるためできると思えることも多い。しかしできないものも明確にある。魔法を利用する形でいくらかできなくはないし、性質を変えるなどで実現できるものもあるが……例えば死者蘇生の類。ネクロマンシーの使う霊体に関する魔法技術の応用他、別に肉体を用意するなどでできなくもないが、根本的に霊体となった存在は本人とは厳密には別のものであり、本人の蘇生はできていないと言える……かもしれない。ただ、疑似的には死者蘇生に近いことはできるということならば、魔法でできないことはないともいえるかもしれない。まあ別に死者蘇生に限らず様々な魔法でできないことはあるが。

 さて、今回オルフグは黄金へと変えられてしまった。魔法や特殊能力、呪いなどによる状態変化、異常である場合、それが常時……現時点で変化し続けるタイプの継続する状態変化ならば治療ができることもある。しかし肉体を完全に黄金に変えるという形で変化してしまった場合、言うなれば死んでしまった人間を蘇生するようなものになる。死者蘇生よりも難易度は高いかもしれない。肉体が黄金に変化してしまったためそれを治療しなければそもそもどうしようもないのだから。では黄金を元々の人間の肉体に変化させれば解決するのだろうか、と言われればそうではないという話になる。たとえどれだけ元の肉体に近い人間の体を黄金を変化させて作り上げたとしても、それは元の人間と同じになるだろうか。組成的に同じだとして、それは元の人間と同じ人間になるかわからない。そもそも黄金を人間の肉体に変化させるということ自体魔法ではまず無理だろう。そこまでの物質変化は魔法とて無理に近い。不可能とは言わないが…………公也の全魔力を用いてもまともに金属を人間の肉体そのものに変化させるのは無理だろう。

 だが魔法は使い方次第、現実的ではないやり方を行わずとも……もっといい手段がある。ただ、それができるかどうかは公也自身もわからない……それに関わる式は一応把握はしているためできる可能性は高いだろう。


「…………いや、なんとかできるかもしれない」

「本当か!?」

「……いくら魔法でも完全に変わってしまった人間の治療はできないでしょう? もはやこれは彼ではなく、人の形をした黄金なのでは?」

「治療の魔法では絶対に治せないと思う。だけど……治すとかそういう方面でなければ手はあるかもしれない」

「具体的には?」

「特殊能力の影響を受ける前に戻す。できるかはまだわからないが」

「………………もしや、時間を巻き戻すのですか? 時間を操る魔法は一応話だけは聞くことがありますが、御伽噺、伝説のレベルのものですよ?」


 時間を操る魔法……魔法としてはあり得ない魔法である。しかし公也の場合植物の成長の魔法に時間に関わる詠唱を使っている。決して時間そのものを操っているわけではないものの、それが時間に関わる分野であるという事実に変わりはない。


「そのあたりは詳しくは知らない。ただ……無理やりでもやろうと思えばできると思う。魔法はある程度は魔力で押し通せるからな」


 魔法はそれぞれの才能、得意分野、世界への影響力、その他いろいろな要素で魔力の消費量が変わる。わかりやすい例はネクロマンシーの使う霊体関連の魔法。この分野は特異な魔法使いでなければ碌に使えないし魔力の消費も大きくなる。また公也が使う魔法の空間魔法、それによる大規模空間圧縮。範囲が広くなり対象への影響も大きく、層であるがゆえに絶大な消耗を強いられた。夢見花は<月>の力を持つがゆえに月に関わる魔法、あるいは月に関わらせるように魔法構築を行うことで魔力消費を大きく減らすことができる。これは減らす方面の話だが、要は才能や資質で魔力消費が変わる。

 時間に関わる魔法が使われないのは結局のところその魔力消費が絶大だからだろう。公也のような特殊すぎる存在、圧倒的な魔力を有している存在でもなければ難しい。もしかしたら夢見花や既にこの世にいないがユーナイトであれば使える可能性はある。しかし一般……普通の魔法使いでは不可能と断言してもいいだろう。もちろん特殊な例でできることはある。話した通り才能や資質が左右するがゆえに、その方面に特化した魔法使いであれば……時間系統の魔法は可能だろう。ただ、過去や未来に行くような時間の魔法を使うことはできない。世界への影響力というのが大きな要素であり、世界そのものを変えるような魔法はおそらく不可能と言っていいだろう。ただ、物の時間を戻す、あるいは進めるていどであれば……不可能ではない。これは植物の成長に時間を進める要素を加えることができているという点で証明されていると言っていい。


「魔力ですか」

「何でもいい。頼む」

「わかった…………戻れ戻れ、時よ戻れ、彼の者の変化を起こる前に、その存在の時のみを元の時に、彼の生ある時に戻せ。リターンマジック」


 公也の詠唱、呪文……それとともに、オルフグに変化が起こる。黄金であった肉体は元の命ある肉体に。


「オルフグ!」

「ん……? え? ガルジェイス? あれ、ここ……って、あれ? あの骸骨野郎は……」


 彼の記憶はちょうど黄金に変えられる直前に。まあ戻すのに魔力が必要となる以上はその消費を最低限にするのは当然だろう。別に無理にそれ以前に戻す意味もない。黄金になる直前でちょうどいい。ガルジェイスがオルフグの復活に喜んでいる中、公也は眉を顰めている。


「大丈夫ですか?」

「……別に何か問題があったわけじゃない。ただ、時間魔法は魔力の消費がちょっと……な」

「どれほどです?」

「……同じ魔法を後三度も使えない。二回使えばほかの魔法も大分制限がかかってくるほどの残り魔力になるな」

「ほう……ちなみに普段魔法はどれほど使えるのですか?」

「結構でかい魔法をいくらでも使えるが」

「…………結構な高名な魔法使い、それ以上の魔力量といったところですか? 具体的な数値は不明ですが……いえ、少なくとも……推定はやめましょう。あまり正しい数値を起こせそうにないですし。ですが魔力の消費は結構なもの……三度しか使えない、となると三割ほどですか? そうなると……他の魔法も使えなくなるようなほどの消費になるのであればあまり使うようなことになるわけにもいきませんね」

「……そうだな」


 流石に時間の魔法は魔力の消費が絶大であったようだ。ゆえに何度も使えない。オルフグの復活に喜んでいるのはいいが、ガルジェイスにはまた同じことが起きないようにと言っておかなければいけないだろう。そしてルーウィックたちも死亡するような事態に関してはならないように注意する必要がある。まあ、それに関してはこの場にいる誰しもが当然そうするべきと考えるものだろうが。




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