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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
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 暗黒の森の魔物にはある程度特徴がある。様々な種に分かれているがすべてが特殊能力を持つ……という特徴もあるが、それ以上にかなり特徴的なものがある。馬車の魔物が最もわかりやすいだろう。魔物というものはかなり特殊ながら、基本的には生物寄りのもの。鉱物を主体としたゴーレムや核を持ちそれを心臓あるいは脳のように機能するスライムなどの類、結構特殊な例は有れどもあるていど生物的なものであることがほとんど。これらを生物というのか疑問はあるかもしれないが、なんというか一応は個の生き物として考えれば生物として見れるだろう……では馬車とは生き物だろうか? 馬車の馬の部分は生き物かもしれない。しかし車の部分は生き物ではないだろう。馬車の魔物はその車の部分すら生き物とした魔物であり、そういった面でも魔物らしい。だがそういった魔物が普通に発生するものだろうか。もちろん今回の魔物は作られた魔物であるためそういった魔物が生まれてもおかしくないかもしれないが、さてこれは普通に作られるにしてもあり得る魔物だろうか。馬車とは人工的なもの……それが魔物として生み出されるということ自体がそもそもおかしいのではないだろうか。

 人工物が魔物として生み出される、ということもおかしなものだが足が魔物として生み出されるというのもおかしなもの。その魔物の特殊性よりも、その魔物の形態や性質こそが異常なもの。それこそがこの暗黒の森の魔物の特徴、作られた魔物の特徴である。そして特殊能力にもその特殊性は反映されている。足の魔物は踏みつける行為に、馬車の魔物は轢かれることに。まあ、特徴があると言ってもこれだけではわかり辛いだろう。もっともその特徴を反映した魔物は他にいる。


「ん……? ありゃ」

「人間……なわけないよな」

「骸骨に見えるな。肉的な感じだけど」


 ガルジェイスたちの前から一体の骸骨っぽい存在が歩いてくる。両腕を伸ばし両手を前に伸ばしながら。骸骨のように見えるが、水分が抜けたミイラのようにも見えるかもしれない。少なくとも人型である魔物であり人間とは違うとはっきりわかるものではあった。もっとも、一番の異質はその魔物が喋っていることだろう。


「カネ………………カネ…………」


「妙なこと言ってやがる。金?」

「そう聞こえるね……」


 骸骨は口から音を発する。それはカネ……金と言っているように聞こえるもの。魔物がお金を求めるものか、と思う所だ。


「……どうする?」

「襲ってくる様子は見えない。戦う分には楽そうだな」

「おう、そうだな。よし、やるぜ」


 骸骨は特にガルジェイスたちに対して攻撃しようとする動きも見せないし、そもそも動きが遅く相手が攻撃してきたところで避けるのは難しくなさそうである。ゆえにこそ、今までの魔物が魔物だったがゆえに警戒が薄れる。油断する。


「はあっ!」


 骸骨に向けて剣を振るう。自分に向かってくる剣に対して……骸骨は視線を向け、その腕を剣の前に。普通ならば、当たってしまえば斬れてしまう。斬れずとも骸骨に近い肉体の魔物であるがゆえに容易に折るなり貫くなり粉砕するなりできそうなものである。しかし、剣は触れた途端、金色に光り出した。


「なっ!?」

「おい! 剣が変なことになってるぞ!」


 剣は剣の形を保っている。だが金色に、光り輝く金属の光沢を持った金色の物質となった。


「カネ」


 黄金である。金となった剣はその切れ味を格段に落とす……のだが、それでもまだ相手を倒すのに十分なはずだ。剣を振るったオルフグも力を込めている状況である。しかしその力が通らない。力がかかっていないわけではない。しかし剣はその肉体を通らない。カネカネ言っているからだろうか。金である剣を通さない、ということなのかもしれない。それがなぜかは不明だし、そもそも剣が黄金になるのもよくわからない。そういう特殊能力なのだと思うしかないだろう。


「カネ」


 そして相手の魔物はそのままオルフグに。その手を。


「――――――」

「っ! オルフグ!」


 オルフグの肉体は黄金へと変わってしまった。


「カネ! カネ! カネ!」

「お前! 死、ねえああああああああああああ!!!」


 ガルジェイスが剣を両手で持ち、上に掲げるように構える。そしてそれを振り下ろした。


「うおっ!」

「っ……流石にいきなりは危ないって!」

「……見通しが良くなったな」

「これはやばくないか?」


 ガルジェイスの仲間たちはそのガルジェイスの技をよく知っている。そうであるがゆえにあまり技自体には危険を感じない。しかしその影響は大きい。ガルジェイスの振るった技は一直線に、森を薙ぎ倒していた。オルフグを黄金に変えた骸骨の魔物はその一撃で消し飛んだようでもう姿形もない。その跡、轟音、森への影響は大きなものであり魔物が寄ってくる可能性が高い。そういう点でも問題は大きいと言える。


「はあ、はあ……っ、オルフグ!」


 だがそれよりも。ガルジェイスたちの仲間であるオルフグが黄金に変えられたままであるという事実。魔物を倒しても戻ることはなく、黄金のままである問題。これをどうにかしなければ何も解決はしない。






「キミヤ! どうにかできないか!?」

「いや……魔物の特殊能力でこれは黄金になったのか?」

「だろうな。そこは俺もよくわからん。だが魔法で何とか治療できないか?」

「無茶を言いますね……できますか?」

「わからない……いや、これが何らかの異常というなら治療はできなくもないが……」


 魔法による治療というのは現実的な治療である。魔法的なもの、呪いなどの特殊な力による作用、そういったものを治療することはできる。ただ、それは現時点で常に作用している者でなければならない。例えば魔法的な効果を受け魔法により変換状態を維持されているなど、そういった状態であればその魔法を無効化するか上書きするなどして消し去ることで変換状態を解除、元に戻るということになるだろう。

 しかし今回の場合、特殊能力による作用……言うなれば一方通行的な作用と言えるものだ。肉を焼けば焼けた肉となり変質した蛋白質は元に戻らない……それと同じで特殊能力で変換されたものは既に特殊能力の効果が終わった結果なのである。ゆえに特殊能力の解除などで元に戻すことはできない。これが肉体への悪影響、毒などの以上ならそれを回復したり取り除いたりで治療はできる。だが完璧に肉体全部が黄金にされてしまった場合、治療する余地がない。それは人の形をした黄金でしかない。生き物ではなくただの物質に過ぎないのだから。


「無理、なのか…………」


 魔物との戦いを主とする仕事である冒険者には仲間に犠牲が出ることも珍しくはない。ガルジェイスも今まで何度か経験しているが、それでもまだ余裕のあるというか……ある程度心を落ち着ける余地のあるものだった。しかしあまりにも唐突に、一瞬で死んでしまったに等しい状況……納得のいかないものである。まあこんなことになることは決して珍しくもない。今回はそうなってしまったというだけの話である。



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