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公也が貴族になることが決まった……………………色々な話し合い、相談、ロムニルやリーリェを交えた交渉、決定されるまでにいろいろなことがありつつも最終的に公也は貴族になる。もともとそうなることは決められていたわけであるが。貴族になる都合上貴族位の授与、使用人兼監視としての人員の配属とその運搬、そのほかの貴族との関係や冒険者ギルドとの会談、やるべきことはいろいろとあるし改めて決めたりするべきこともいろいろあるが、ともかく貴族になると言うことは決定し公也はこの地、アンデルク山のアンデルク城に住みそこで形ばかりの領地経営を行うということである。領地の名前、貴族としての名前はアンデルクの名からつけるべきだろうか。
細かい話に関しては今後決めることである。ともかく公也がこの城の主となり、この地の王……いや、領主となるわけである。そのことに対しヴィローサはにっこにこの笑顔を浮かべ喜んでいた。
「これでキイ様は立派な王子様ね!」
「……いや、ただの領主だ。ここの国の王とその子供である王子はちゃんと別にいるからな?」
ヴィローサは自分のことをお姫様、助けられた囚われの姫と称して公也のことをそれを救けに来た王子様、白馬の王子様という形で表現しその愛情を向けている。別に公也が王子であることなどは関係なく、ヴィローサは公也に助けられその時に生まれ、歪んだ形のまま壊れた愛を公也に向け続けている。それゆえの反応だ。
「ああ、やっとキイ様はお城を持てたのね……ふふ、これで本当に王子様、立派な立派な王子様……………………ねえ、キイ様。少しお話があるの。夜にキイ様のお部屋に寄らせてもらうけどいいかしら?」
「ああ、別にいいが……」
少し怪しい雰囲気を漂わせながらヴィローサは公也に話しかける。別に公也には断る理由もないので認める。
「ありがとう! ふふ、うふふふふ」
「…………大丈夫か?」
かなり上機嫌な様子のヴィローサに公也は戸惑う。しかしこの後しばらくは公也の言葉にも反応せず、本当に珍しい様子のヴィローサがアンデルク城では見られるのであった。
そして夜。ヴィローサが公也の部屋を訪れる。一応部屋自体は公也とヴィローサ、ロムニルとリーリェ、フーマルでそれぞれある程度離れた部屋になっている。なおヴィローサは一応公也とは別の部屋をあてがってはいるが……夜に部屋に侵入し勝手にベッドに入って添い寝している。あとペティエットに関しては前にペティエットが繋がれていた部屋にいてこれまでと特に変わりはない。まあベッドや布団などの日用品くらいは部屋に入れている。
「お邪魔してもいいかしら?」
「ああ。いつも夜に勝手に入ってくるのはそうやって聞いてきたりしないのに律儀だな」
「もう! ちゃんとしたお話をしに来たんだもの、きちんと礼儀に則って行動します」
夜に勝手に入るのはいいのかと疑問ではあるが、ヴィローサもそういうところで妙に律儀だったりする。そんなところで律儀な所を見せたところで何か意味はあるのかは疑問であるが、どちらかというとヴィローサ自身のおかしな部分が表れているだけ、と言ってもいいのかもしれない。
「キイ様、キイ様もベッドの上に座って」
「……隣に座ればいいのか?」
「うーん……本当は向かい合ってちゃんと話すのが一番だけど、隣り合って、でもいいかしら。ベッドの上に座るのはちょっとお行儀が悪いかもだし……」
「細かいことを気にしなくてもいいと思うが……まあそういうことなら横でいいな」
そう行ってヴィローサ、公也は部屋のベッドに隣り合って座る。そして公也はすぐに本題に入った。
「それで。話ってなんだ?」
「もー……ちょっとは雰囲気に浸らせてよー……まあ、あまりゆっくりしすぎて夜の時間が無くなるのも困るわね。それじゃあ、お話……ううん、私からキイ様にお話したい事、お伝えしたい事、これからのことについて。ここで、私はキイ様との関係をしっかりと決めておきたいと思うの」
「……関係か」
「ええ。私はキイ様についてきているだけ、キイ様は私がついてきているのを容認しているだけ…………私とキイ様の関係は、実は何も存在していないんだもの」
ヴィローサはあくまで公也についてきているだけ…………実の所公也とヴィローサの間にはこれと言って関係性がない。仲間と言えば仲間なのだが、お互い……いや、公也の方はいつでもヴィローサを捨てて、殺して、始末して、その関係を終わらせることができる。ヴィローサは一方的に公也を慕い、愛し、傍についているだけのただのストーカーに近い付きまとっているだけの存在だ。その関係は決して両者の間にしっかりと関係が結ばれているものではない。
今ヴィローサがしようとしているのはその関係のしっかりとした清算。結ぶにしても、切るにしても、始まるにしても、終わるにしても、ここでヴィローサの想いは一つの形として成り、二人の関係に決着をつける。
「キイ様。私はキイ様のことを愛しています。キイ様のことを、この世界の誰よりも愛していると、心の底から想っていると、そう自負しています。今まで私はただキイ様の役に立つために、私がキイ様のことを王子様だって、自分を、囚われたお姫様である自分を救ってくれた王子様だって、そう言って、慕って愛してどこまでも、ずっと、永遠に、傍にいたい、そう思いながらここまできました。仮にキイ様の役に立つなら殺されてもいい、食われてもいい、魔法の実験に使われても、魔法の道具に作り替えられても、どんな形でもあなたのためになるのならそれでいいと思っています。怖いとすればただ無為に死ぬこと、あなたの役に立たず、何の意味もなくあなたに捨てられて終わること。それ以外なら、あなたのためになるなら、私はどうなってもいいし何でもする。本当に、何でもするわ」
「…………俺はヴィローサにそこまでのことは求めない。色々と妖精に関して知りたいこともあるし、やりたいこともないわけじゃないが……ヴィローサを殺してまでは求めない」
「そう、そうですか。でもね、キイ様…………私は本当にキイ様のためになるなそれでもいい。それが私の想い。でも、他の私の想いもある。私はキイ様に求められたい、私がキイ様を求めたい、愛したい、愛してほしい、一緒にいてほしい、永遠を誓ってほしい、傍にいてほしい、愛を伝えたい、恋を求めたい、体に触れたい、壊されたい、気持ちよくなりたい、気持ち悪くなりたい、犯してほしい、侵されたい、犯したい、ああ、キイ様、私はキイ様のことが好き、好き、好き、好き、好き。だから…………私をキイ様の物にしてください。ずっと、手放さない、あなただけのものにしてください」
「……………………」
「恋人でもなくてもいい。お嫁さんでなくてもいい。あなただけのお姫様でなくてもいい。たった一人の存在でなくてもいい。ただの道具でも、都合のいい女でも、気が向いたときに使うだけのものでも、それでもいいのです。私はあなたと誓い合いたいのです。一緒に、永遠に、愛を、好きだと、あなたに、心の底から」
ヴィローサの求めるもの、それは愛。正確には想い合うこと。愛を近い、相手の物となること。絶対に別たれない、絶対に分かたれない、壊されない絆を結ぶこと。言うなれば男女の思慕の果てにある睦みあいを行うことである。相手に自分を残し、相手を自分に残す。お互いがお互いを受け入れ合う。受け入れ取り込み求めあう。そうして自分自身を相手に刻み込む、相手を自分に刻み込む。ヴィローサの望むのはそういうことである。
※最低位領民無しとはいえ、一応貴族は貴族。一国一城の主=王=王子という理論。根本的には自分を姫にたとえたうえでの対する存在としての王子という扱いなので実際にどうかは関係ない。
※関係の清算。今までのまま、曖昧なままどういう立場か決まっていないままでもいいかもしれない。しかし、このままではいけない。そう考えたヴィローサの行動、告白である。
※ヴィローサが主人公に抱く思いは厳密には愛情とは少し違うものかもしれない。彼女が囚われ、妖精とのしての力を失い、人に近い状態にあるとき、彼女は恐怖を感じた。人としての恐怖。それは毒である。妖精としての彼女を侵す毒であり、妖精の力を取り戻したとき、彼女はその毒の影響を受ける。そしてまた彼女は自分自身、妖精の毒で人の部分を侵してしまった。自分自身を壊すような人と妖精の毒、それぞれが妖精と人の部分を侵し彼女は壊れるところであった。そこに救い主として現れた主人公、自分を助けた主人公を拠り所とした。ある意味では親のような存在としての刷り込み、ある意味では御伽噺の英雄のような存在への憧憬、ある意味では心を救った神に対するような信仰、様々な要素が絡み合い、新たに今の彼女として新生するうえでの根幹部分に根差すものとなった。ヴィローサにとって主人公は自分にとっての全て、なのである。彼女にとってそう思うものではあるが、そこから発生する気持ちとして一番表せられるものが愛という内容である。だから彼女は主人公のことを愛している、と思っているのだろう。厳密な意味では事実とは違うものの、それもまた事実の一部として正しいものではあるかもしれない。
※一番いいのは愛されること、愛し合うこと。でもそうでなくてもいい。自分のすべてを相手のために使うえるのならば。一番だめなのは、何にもならないこと。それは本当の意味で無為に終わることである。たとえ食らわれても、ぼろ雑巾のように使われても、相手のためになるのならばそれは価値のあること。だがそれにすらなれないのならば。自分のすべてに意味はない。




