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「っ!? なんだあれ!?」
「馬車? おいおい、ここは森の中だろ。何で馬車なんか走ってるんだよ!?」
「いろいろおかしい!」
「おかしいのはわかるがあれは例の魔物だろ! っつーか来るぞ!」
森の中を駆け進む馬と引かれる車。馬車、というわけだがこんな森の中、木々が多数存在し未知もまともにないまっすぐ進むのが難しい中を進んできているのはどう考えてもおかしい。馬がいくらうまく木々を避けれるにしても車の方がそれにぶつかることだろう。それが当たらず進む……木々が避ける、というわけでもない。馬車がなぜか木々を避けている感じでその軌道は馬が引いた通りではない。どう考えても魔物だろう。そもそもこの森に人の手が入っていない、手前側、冒険者たちが来た方から来るならまだしも森の奥の方から来るそれが人の使っているような馬車でないのは明白である。この森に入り込み生活している他種族がいる可能性はないとは言えないが、それでも明らかにおかしいその馬車がそういった普通の存在の者のものであるという可能性は無いと言っていいだろう。
「馬を狙うか?」
「確かに馬が動かしてるんだから倒せばいいと思うが……」
「あの速さだ。狙いにくい」
「っていうかこっちに来てるけど?」
「よし、俺が前に行って止めよう。それが一番いいはずだ」
「確かに馬が突進してきた程度なら受け止められるだろう」
一人、ガルジェイスの仲間であるエンベラーが前に出て馬車……その前を走る馬を受け止めようとする。
「駄目だ! おい! 避けるぞ!」
「え? なんで」
「相手がどんな特殊能力を持っているかわからないだろうが! まともに当たるな!」
「そ、そこまで言うなら避けるが……」
「後ろの! キミヤにルーウィック! 馬車が向かってくるから対応しろ! 真正面からぶち当たるなよ!」
受け止めようとしていたエンベラーを止め、ガルジェイスは避けるように指示する。そしてそれは後ろの方にも伝達する。彼らを狙いは知ってくる馬車である。ガルジェイスたちが避けたならばその後ろにいる公也、そしてルーウィックたちの方に向かうことになる。そちらが準備できずにぶつかり死ぬようなことになるのは本意ではない。
「どうするのです?」
「……正面衝突させるか」
ガルジェイスたちが避けるなら公也たちが受ける、後方にいるルーウィックたちは人数の多さから避けづらいだろうし、そもそも走る馬と車、馬車ということで倒すこと自体が面倒という点もある。公也の魔法であればそこまで難しくはない相手……だと公也は推測し、魔法で壁を作りそちらと衝突させるつもりである。
「土よ壁を生む、それは遮る硬き障壁。ストーンウォール」
公也が土の魔法によって地面から硬い石壁を作り出す。馬車はガルジェイスたちが避け前に何もない状況、その石壁の方へと一直線……避けるような様子がない。
「…………っ」
その様子を見て、というわけではないが……公也はなんとなく嫌な予感を感じる。いや、もしかしたら馬車が石壁を避ける様子を見せなかったこともその予感の要因だったのかもしれない。
「ご主人様?」
ミンディアーターを公也が抜き、いつでも振るえるように構える。そうして少し、馬車が石壁に……衝突する瞬間、ぐしゃりと上から石壁が潰されるように破壊された。
「はあっ!」
気合を入れてミンディアーターを振るい、馬車、馬と車の両方を一刀両断にする公也。ばしゃりと馬と車は二つに分かれ、公也たちを避けて行く……車の方もまるで生物であるかのように開いた中身が肉で構成されていた。
「……今の、もしかしてかなりやばかったか?」
「あの壁はたぶんかなり硬いはずだったのですよね? それをあっさり壊すっていうのはやばいのですね」
「強いとかじゃなくて上からつぶれてたように見えたけど……」
「ああ。あれはたぶん……」
「……正面衝突すればああなった可能性があったな」
「さ、避けてよかった……わるい、ガルジェイス。助かった」
馬車……馬の方か車の方か、そもそも両方合わせて一体の魔物なのかは不明だが……ともかく馬車は走ってきて正面衝突した物を踏みつぶす特殊能力を持っていた。それがどういった者かは不明だが、かなり硬いはずの石壁すら踏みつぶして破壊する……大きさも関係ない、その問答無用な一撃を相手は持っていた。公也の作った石壁の硬さが人間の硬さより劣るようなことはなく、前からならともかく上からの攻撃ともなればいくら前からの攻撃を受け止めることができるにしても耐えきることはできないだろう。そもそも特殊能力というものはかなり理不尽なところがある。精霊や妖精のそれはかなりわかりやすいが、問答無用で死を与えたプルートや相手が何であれ抵抗することができない毒の発生を行うヴィローサなど……相手の防御など無視した踏みつぶしを行える可能性がある。だからこそ硬い石壁があっさり破壊されたと考えることも可能だ。
「ああいったやばい特殊能力持ちがいる可能性があるな」
「一度会った木のあれはよくわからなかったけど……」
「あれももしかしたらやばい能力持ちだった可能性はある」
「そうとも限らないと思うぜ? いるやつ全部がそんなやばい能力持ちばかり、っていうのはないんじゃないか?」
「そうだな……そう考えてもいい、かもしれない。だがそれは確実にそうだと言えることじゃない。油断して死んだら洒落にならんぞ」
「うーん……確かに」
「常に相手はやばい能力を持っていて舐めてかかれば死ぬ、攻撃が当たれば死ぬかもしれないと考えて注意して行動した方がいいだろう」
「わかった」
特にこの暗黒の森は単一種で強力な魔物が多く、またその特殊性、特殊能力持ちが確定であるという問題がある。それが致命的なそれでないとは限らない。常に注意し警戒し、できる限り相手の攻撃を食らわず戦っていくのがいいだろう。




