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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
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「ところでよ」

「……何だ?」

「噂の王様の強さを俺は知りたいな」

「……ふう。またですか? 私と会った時もそうでしたが」


 ガルジェイスが公也に話しかける。その内容は公也の強さを知りたいというもの……その言葉を聞いてルーウィックはため息をつく。であった実力者の強さを知りたいというのは冒険者であれば別に珍しくもない感情である。ただ、それで相手の強さを知りたいからと喧嘩を吹っかけるのはAランク冒険者としていかがなものか。別に乱暴に無理やり襲って確かめるというわけではない。あくまで話を振り、相手が同意すれば試すという程度の物だ。ただ、わざわざ戦って確認しないでもいいだろうというのがルーウィックの考えである。一緒に協力し行動していればどうしてもその戦闘の様子、実力を確認できる。もちろん事前に確認しておこうという考えは分かるがAランクの冒険者という明確な強さを示されている相手にしなくてもいい……上位ランクの冒険者はある程度名が知れてその強さ、能力を知られてしまうことも多い。その都合上隠している能力も多く、本気を出すのはあまり好ましくはないだろう。また本気で戦いあえば相手を殺しかねないということもある。

 とはいえ、実のところルーウィックはガルジェイスと戦っている。そもそもどちらが強いかを示す戦いでもなく、相手の実力を確かめたいというもの。その強さを示せばガルジェイスも退くだろうとすんなり受けて戦い、すぐに終わらせた。


「お前の時は楽しめなかったな」

「楽しむものでもないでしょう。それともお気に召しませんでしたか?」

「……いや、お前の場合はもう時間がかからなくてなあ。それに力という点じゃ俺が明らかに上だし」

「ええ。ですが力が強さのすべてを決めるわけではないので」

「……そういう話はいいだろう? 戦いたいってことでいいのか?」

「ああ。別に本気で戦うわけじゃないぜ」

「本気で戦えば殺し合いになりますからね。しかし……そちらは魔法使いでは? 魔法で戦うとなるとまともに戦えるとは……いえ、Aランクにもなる冒険者であれば魔法使いでも魔法しか使えず近接戦闘ができないというわけではないでしょうけど、彼を相手にするのは流石に……」


 魔法使いの冒険者は実力が低い場合魔法しか使えないという場合が多い。しかし上位のランクとなると仕事の都合上魔法しか使えないとやって行けないことが多く、どうしても直接戦闘能力を獲得する、あるいはせめて自衛はできる程度の実力をつけるということが必要になってくる。そしてAランクともなれば自分の強化を行うなり魔法を上手く利用した近接戦ができるなり何らかの防御能力を持ち得ているということがあったりするだろう。

 だがそれでも近接戦闘をメインとする相手と真っ向から戦うのであれば魔法使いが主である側の方が厳しいだろう。魔法使いには魔法使いの間合いがあり、大抵の場合はそれは遠距離、近接戦をメインとする相手の間合いでは普通は不利なものである。


「いや。気にしないでいい」

「そうですか? 問題がないならいいのですが」

「そもそも俺は別に魔法使いというわけでもない……一応は」


 そう言って公也はミンディアーターを抜く。


「腰につけていたその剣、気になっていた。魔法使いという割には杖みたいなものも持ってないしな?」

「これは一応杖の代わりにもなってくれるが……剣である以上、当然剣として使うべきものだ。魔法に比べればそこまで際立ったものでもないが、一応俺は剣士でもある。多少力押し寄りだけどな」

「なんでもいい。その実力を確かめられるならな?」


 そう言ってガルジェイスは剣を構える。公也の方は特に構えはしない。


「そっちから来ていいぜ?」

「そうか? なら……」


 公也は地を蹴る。


「行く」

「っ」

「ぞ!」


 思いっきり力強く加速し、ガルジェイスに迫る公也。そして剣が振るわれ……ガルジェイスはそれを受け止める。


「速いじゃねえか!」


 受けたまま、ミンディアーターを押し返すように剣を振るい公也吹き飛ばす。そして後ろに吹き飛んだ公也が着地した時……既にガルジェイスが公也の前まで来ていてその件を振るっていた。


「っ!」


 剣を受けながら逸らし……たと思ったら次の攻撃が公也に迫っていた。


「っと!」


 それも弾き、一気に地を蹴って後ろに退く公也。


「おいおい? 魔法使いじゃねえのかよ」

「それはさっき否定したと思うが?」

「それにしてはちょっと強くないか? それで魔法も使えりゃそりゃAランクになるくらいの強さは得られるわな」


 ガルジェイスは近接戦メインの冒険者である。そんな人物とまともに打ち合える……流石に殺すつもりではないとはいえ、それでもある程度は本気で公也に勝つつもりで戦っていた。それなのに公也はあっさり受けて退避、戦い続けることが可能な状況にある。それはつまりガルジェイスと同等、あるいはそこまでいかずとも引けを取らないくらいには強いということになる。そして公也は話に合った通り魔法使いであるという認識の方が強い。近接戦でガルジェイス並の強さを持ったうえで魔法も使えるというのは優秀どころの話ではない。Aランクの冒険者として認められるのも納得といったところだろう。


「まだ戦うつもりですか? 軽くとはいえ相手の実力は見たのでしょう」

「ああ……そうだな。これ以上は流石に本気になりそうだ」

「そういうことですのでガルジェイスとの戦いはこれで終わりとしましょう」

「ああ、それでいい」


 息をつく。これ以上戦うこともできるが、近接戦だけで見ればガルジェイスは公也もなかなかやり辛いくらいに強い相手。公也の身体能力であればまずガルジェイスに負けることはないが……どこまで力を上げるべきか、本気を出すべきか、そしてそうした時果たして相手が無事でいられるかいろいろ不安のある部分だった。また戦い自体を無意味に行いたくもない。そういうこともあってルーウィックが止めてくれたのはありがたい話だった。


「ではこれで」


 そうルーウィックが告げ……かけた。


「終わりですね」

「……危ないな?」

「流石に気付かれましたか……いえ、流石にAランク冒険者というべきですか。若干不意打ち気味なのですが、対応できるとは」

「嫌味かよ? それ、俺は対応できなかったんだが?」

「できる方が少ないのであまり気にしないでいいですよ」


 ルーウィックが公也に対し剣を向けていた。既に抜かれ、それは首に……当てられる前に公也が掴んでいる。少なくともそのまま首を斬る、ということはできない。かなり唐突な行動であり下手をすれば敵対行動かと思わなくもない行動である。しかしこれもまた試しの一つ……ガルジェイスが力で実力を確かめるというのであれば、ルーウィックは己の行動に対処できるかどうかでその実力を確かめたということなのだろう。




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