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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十二章 終末の獣
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4




「…………ふう。普通に仕事をするのは疲れるな」

「普段はしないものね?」

「…………はい。すいません」


 アンデールにて公也は特にどこかに行くこともなく国政に携わっている。普段はあまりやらないというか、ハルティーアに任せてどこかいろいろ行ってあれこれやっていることがほとんどだからあまり触れられない。戻ってきたときに重要な案件に触れて処理する、あるいはバーっと何か公也でないと大変な仕事を行うくらいで書類仕事や運営などは基本任せきりである。別に労働をしても公也が肉体的に浸かれることはほとんどない。疲れたというのは多分に気分的なものである。まあ普段やらないからこそ、ゆえにハルティーアに嫌味な感じで言われるのである。


「今はこちらのことも落ち着いてきたし、向こうのことも特に何もないみたいね。こちらとしては少しゆっくりできてうれしいわ」

「そうみたいだな。一応あちらには時々夢見花が行っているが……たまの機会には行って色々と見て回りたいが、今は特にな」

「またそういう……キミヤのことは止められないけど、諸々の面倒は勘弁してもらいたいわね」

「わかってる」


 一応こちらに害はないが、公也の様々な活動行動はその弊害が大きい。こちらの大陸のことであればできれば控えてもらいたいというのがハルティーアの本音だろう。公也自身別に問題を起こそうとして行動しているわけではないが、その立場ゆえか、あるいはその能力故か、またはその本質的な存在によるものか、大体は問題事を招いたり向こうからやってきたり引き起こしたりする。


「ハルティーアさん!」

「ノエル?」

「あ、もしかして王様と逢瀬? 邪魔しちゃいましたー?」

「違うわよ。仕事中よ。そっちこそどこ行ってたのかしら? 仕事中でしょう? あなたの仕事は私の手伝いとかいろいろあるでしょう?」

「あ、えっと、別にサボってるわけじゃないですよ? あ! そうだ! 来客です! だからここに呼びに来たんです!」

「……来客ね。そういう話はなかったと思うけど」

「いえ、その、ハルティーアさんを呼びに来たわけですけど、実際に用があるのは……」


 そういってハルティーアの所にきたノエルは公也の方に視線を向ける。


「……キミヤ? お客様はどこの誰かしら? アンデールにどこかの誰かが来たなんて報告はなかったと思うけど」

「……カルメンさんです」

「冒険者ギルドの? どういうこと……いえ、それならキミヤに話が行くのは分かるけど……」


 アンデールの冒険者ギルドはかなり昔にできた最初の出張所から拡張して言った形であり、その冒険者ギルドのトップ……アンデールにおけるギルドのトップもその当時から変わっていない。当人にギルドの長としてやっていけるだけの能力があるからこそだが、それゆえに今もその人物とは長い付き合いである。今回みたいにまあまあ来ることはある。とはいえ、それほど重要ではないことの方が多い。なんだかんだ長い付き合いだからこそ気安く対応できるというか。とはいえ、大体の場合はハルティーアに行くことが多い。冒険者ギルドとして公也に依頼するようなことはほとんど滅多にないと言える。

 だが今回彼女は来た。ただの一個人としてきたのか、冒険者ギルドの長としてきたのか。その内容次第で話は大きく変わる。いや、大抵はむしろ後者の方が多い……問題はその内容と深刻さ次第である。






「お時間いただきありがとうございます、アンデール王」

「いや……仕事はあるが別に忙しいわけでもないし。それよりも、そちらがこっちにわざわざ来たということは……」

「重要な案件です。いえ、かなり大問題と言いますか……」

「そこまでか」

「あまり重要でないならお呼びすることもあります。個人で遊びに来て話をすることもありますが、そういうものでもありません。私は今ギルドをまとめる長として、このアンデールのギルド長としてここにきています」


 カルメンはギルド長としての立場で来ている……ギルド長として公也に依頼を持ち込む、話をするというのは別に珍しくもない。公也はランクとしては最上位の冒険者であり、それゆえに依頼は来る。とはいえ、大体の場合は公也でなくてもいいような依頼もあるが。そもそも公也に依頼をするにしても冒険者としてギルドの方に来てほしい、底で話をして拒否権もあるような内容であるというのがほとんどだ。公也の場合は拒否権の有無はあまり関係なく興味で選ぶことも多いが。


「……それだけ重要な内容なのか?」

「はい。冒険者ギルドにおいて最重要なもの……今回の話は依頼、という形ではありません。冒険者ギルドとしての要請となります」

「要請……」

「その前にまず今回の件についての話をすることになるでしょう。今回アンデール王……キミヤ様のところに来たのは禁域に起きた問題に関してです」

「……禁域?」

「まずはその説明に関してからですね。一般の冒険者はまず禁域に関しては説明されません。ギルドの職員にはある程度説明されますがその詳しい内容について知っている人も少ない……私のようにギルドの長になる場合やある程度の権限を持つ場合などはその場所に関して聞くことになります。禁域は冒険者ギルドに指定された進入禁止地域……周辺は多少干渉することはできますが冒険者も、冒険者以外も原則立ち入りが禁じられる地域のことです。この大陸にもそれなりの数が存在し、現在も禁域として伝えられています」


 禁域。冒険者ギルドによって決定された人の立ち入りが禁じられた地域。


「……それはなんで?」

「禁域に関してですか?」

「ああ、えっと、なぜ禁域に? 危険地域……あるいは保護地域だからか?」

「禁域の指定に関しては私はあまり詳しくありません。現在指定されている禁域の多くは過去……数百年以上前から続いているものばかりです。ごく最近に禁域に指定された場所も三百年ほど前、だそうです」

「……だが指定するだけの理由はギルドの方にあると思うが」

「新たな指定の可能性ですね。私は厳密には知りません……こればかりはギルドの方でも多少協議されることになるのでしょう。ですが……指定される最大の要因はそこに存在する危険、だそうです。冒険者とは何か、諸説あり色々と話され、また個人でも違い冒険者自身色々意見はあるようですが……多くの過去の話、それを紐解けばわかることもあります。冒険者は英雄譚の英雄となり得る存在……この世界の危機を回避する、危機に打ち勝つ存在。私たちもそこまでの気持ちで冒険者を見ているわけではありませんが、そういう立ち位置に冒険者があることは理解しています」

「……世界の危機とは大層なものだな」

「私もそう思います。でもそうでなければ……あらゆるすべての人々を立ち入らせないようにする理由がわかりません。冒険者ギルドの職員から上位の冒険者まで、あらゆるすべての人物が入れないのが禁域ですので」


 禁域の指定は世界の危機に関わるもの……確かに公也の言う通り大層な話ではあるが、それくらいでなければギルドも大々的に動くことはないのかもしれない。もっとも現状では詳しくは分からない。カルメンもわからないが、もしかしたら冒険者ギルドもわかっていない可能性がある。禁域の指定が最後でも三百年以上前、それだけの時間情報伝達だけで済まされていたことはどれだけ正しく、そしてどれだけの情報が伝わっているものか。資料などの残りもどの程度あるだろう。その点で不安に思わなくもないものである。





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