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トルメリリンとキアラートの国境線を巡る規模としては比較的小規模の戦争は終わった。話によって侵略、戦争行為の停止、一定期間の停戦が決定しその条約の締結がされた。その中でキアラートの国の街であるゼルフリートはキアラートに返還され駐留していたトルメリリンの兵士も自国へと撤退する。それと同時にその時に捕虜の一斉返還もまた行われた。キアラートは一部の国境付近の街三つにダメージを受けた形であるが今回の戦闘においての賠償請求はしていない。話を順調に進めるためだ。かなりキアラート側の損害は大きいが、一方でトルメリリン側の損害も決して小さくはない。侵略するうえで消費した物資、キアラートに攻め込んだ兵士は相手の国の兵士たちに討ち果たされたものもいる。まあこれに関してはキアラートも同じだ。損害の差はあるにしても、両者の損耗で言えば、総合的にはトルメリリンの方が被害が大きい。最大の理由としてワイバーンの存在がある。ワイバーン部隊が倒され送り込んだワイバーンの多くが失われた。並の兵士数十人以上の戦力であるワイバーンが出払ったそのほとんどが失われた。それはトルメリリンにとっては大きな損失だろう。また、トルメリリンが支配した城の存在もある。アンデルク山に存在するアンデルク城、そちらがキアラートの物となった。それに関してはトルメリリンもキアラートに対し物申したいところではあるが今回のこと、侵略の際に使いそれを再度利用された場合の危険を考えると安易に返すことはできない。もちろんトルメリリンが利用できたと言うことはキアラートも利用できると言うことであるが、キアラート側はワイバーン部隊の運用が現実的ではない、という理由もあり簡単に利用はできない。魔法使い部隊でもそこまで登るのは簡単でないゆえに。今後のことを考えるとトルメリリンがワイバーン部隊で攻め込み奪還すると言う可能性もあるためキアラートも最終的には放置できないと言う問題もあったりするが。
とにかくそういう形でアンデルク山の城を奪取し相手方の兵力に損害を与え国境線の維持はできた、というのがキアラートの戦果となる。もっとも街に与えられた被害は大きくその復興に力を入れなければいけないのがなかなか大変な所であるが。そして今後の問題として奪取したアンデルク城の問題もある。アンデルク山に登るのは魔法使い部隊ですら難しいこと。その城に行くと言う時点でまずワイバーンに乗って移動しなければならないと言う問題がある。連絡することすら難しく訪れることすら難しく、人を運ぶのも簡単ではない。そんな場所に城だけあったところでどうにもならない。そんな場所に行きたがるもの自体がいないだろう。兵に命令したところでそもそも行くのが難しいのでどうしようもない。
だが……そもそも城を奪取したのは誰か、どうやって奪取したのか。それを考えれば手段がないわけではないだろう。城に行くことも難しく、維持することも難しい。それは現在のキアラート側における兵士や貴族たちにとって。しかしその場所を奪取した存在がいる、彼ならばそこに行ける。そして今やその城の主となっている。であれば。その城はその人物が管理し維持するべきであるだろう。そうキアラート側は考えたようだ。
「……俺を貴族にする、と?」
「ええ、そうです。あなたが冒険者であることは理解していますがこの城は今やあなたの物。城魔と呼ばれる存在である魔物である城、その所有者。あなたはそれを手放すつもりがないのでしょう?」
「正確に言えば手放すことができないわけじゃない。俺が死ねば城魔の意思の主が空白になるからその時に彼女に触ればこの城の主となる」
「……ですがあなたは抵抗なさるでしょう。こちらもならばあなたを殺そうと乱暴な手を打つつもりもありません、いえできません。この城を奪った冒険者です。たくさんのワイバーンとそれを駆る兵士がいた所を攻め込める兵士や冒険者はそうはいない、したとしても奪える実力者などとてもとても。それにこの山を数日で山頂まで徒歩で登ると言う時点でその実力がうかがい知れるところです。私たちも絶大な実力を持つものを使い道のない行くこともできない城一つを奪うために殺したくはない。ですが、この城は放置しておくわけにはいかない。トルメリリンが我が国キアラートに攻め込む際に横から攻め入ることがしやすくなるこの城は奪い返されないように守らなければならない。ゆえにこの城に守りの兵を、管理する物を置かなければいけないのです」
「………………なるほど」
アンデルク城に来て公也と話をしている人物はこの国の王城にて働く者。大臣……というほど偉くはないがその意を汲み今回の対話、交渉に来たその部下である。色々と話をしたが、要は内容は公也を貴族にする、ということだ。ついでに冒険者ランクの上昇も話の中にあったがそれはこれまでの様々な功績を加味してのもの。貴族位とはまた別物。
通常冒険者のランクは冒険者ギルドに対する貢献で決められる。たとえAランクの魔物を倒す実力を持つ冒険者でも、冒険者として仕事をせず冒険者ギルドに貢献しないのであればそれはあまり冒険者ギルドには価値のない、意味のない存在となる。ゆえに単に実力が高いからと言って冒険者ギルドに高く評価されるわけではなく、それだけではランクが上がらない。だが、実力者はある程度までならランクを上げることはある。余所に取られると冒険者ギルドには損だ。そして今回の公也のように国家事業において大きな功績をあげた人間も冒険者ギルドはランクを上げることがある。そもそも公也の場合悪霊の群体退治などでも活躍をしている。国にとっては冒険者ギルドで大成せず低く見られているよりうちに来た方が出世できる、とその成果から勧誘してくる可能性がある。そうされると冒険者ギルドとしてはそれだけの戦功をあげられる人間を失うことになるので大きな損となる。ゆえに冒険者として活動してもらおうとランクを上げるのである。
まあ、公也の場合簡単に冒険者を止めるようなことはないだろう。彼にとってはただ一つの仕事に縛り付けられお金を稼ぐ、栄誉を得るよりも何よりも多種多様な分野における知識の収集の方が価値が大きいのだから。そういう点では今回の貴族になると言う提案は公也がこのアンデルク城に縛り付けられると言うことであまり望ましいことではない。
だが一方で公也はその提案に対する魅力も感じている。それは貴族になることに対しての魅力というより、この場所を自分の好きに支配し領地づくりができると言うことの方が大きい。貴族になり領地を経営する、というのは公也はしたことがないことであり、また冒険者として活動していても絶対にできることではない。そういう点では本当に経験することがありえないような物事であり、それを経験できる機会を逸するのは正直遠慮したいところである。しかし貴族として縛られることのデメリットも公也としては痛いものだ。
「…………」
「あなたにはぜひ貴族になってもらい、この地を治めトルメリリンからの攻撃を防ぐ護りとなってもらいたいのです」
公也を利用したいと言う考えが透けて見えるものの、公也がこの城を失わずに済む手段を提示してくれると言うのは少しありがたい所でもある。まあキアラートとしても公也を殺し城を奪ったところでその維持やらなにやら面倒が大きい。ワイバーンを従えるところから始めなければいけずそれは決して簡単ではない。公也を殺すのもそう簡単にできることではない。今やCランクと認定される冒険者、それも想定するならそれ以上の実力を有する冒険者。魔法使いとしてもかなりのもの、一夜でジェルシェンダに入り込みその中にいた兵士たちを捕まえた。もちろんそれはすべてが公也だけの手によるものではないが、それだけのことに参加し活動していると言う時点で相手をするのは大変なことだ。だから公也に頼む。本来ならあり得ないような貴族にするという餌まで用意して。
「……一つ、この条件をのんでもらえるのなら。この地を治める貴族となりトルメリリンから攻め込んでくる可能性のあるワイバーン部隊を撃退する役割を引き受けてもいい」
「それはありがたい! それで……その条件とは?」
「俺の冒険者としての活動を妨げない、自由にあちこちに出向くのを許容すること。貴族としてこの地、この国に完全に縛られないようにしてもらう。それが条件だ」
「…………それは」
公也が求めた条件は一つ。公也という存在の自由。冒険者として冒険者の仕事を行い魔物を退治するためにあちこちで向く、様々な仕事を行う、時には国の外に出て他国で活動する、そういったことだ。そして同時に貴族として縛られないようにすること。条件は一つじゃなくて二つではないだろうか? ともかく、つまりは公也の冒険者としての自由を容認すること、それが公也の求めたことである。
「………………」
「あなたで判断が難しいのならば上司に連絡し相談すると言い」
「あ、はい、そうですね。今ここで簡単に決められることではない……貴族になった場合、その我が国の貴族であるあなたが余所で活動する場合の問題など、またその間のこの地のことを考えるとやはり難しいものと思われますが……」
「その条件を認められないのであれば貴族にはならない。それでもいいのか?」
「それは…………その場合この城の所有が認めにくくなります」
「誰かに渡すつもりはない。奪いに来るのならば……容赦はしない」
「………………相談してきます。あなたがそのような行動に出る可能性があるということも伝え、そのうえで判断させていただきます」
「ああ、そうしてもらおう」
そういうことで今すぐ貴族になるかどうかは決定しなかった。もっとも、公也を貴族に……というのはほぼ確定してしまっている。そうしたほうがキアラートにとっては安全だからだ。これに関して言えば、ロムニルとリーリェの側から公也という存在に対しての実力、能力の報告があったというのもある。そしてその傍にいる妖精の存在に関しても。それらを総合し公也を敵に回すのは得策ではない、場合によってはキアラートに大きな損害となり得ることがわかっている。貴族にするのは単に守りとして用いるだけではなくキアラートに縛り付けると言う目的もある。なので自由の容認も恐らくされるものと思われるが……簡単に決められることではないのは事実であり、どうなるかは今のところまだ決定していないことである。
※主人公貴族になる。まあつまりは貴族にして明確に自国の存在にすること、城に配置して防衛のために利用するなどの目的。これだけの戦力を他国にとられると困る。
※主人公としては貴族になることは貴族生活の経験という点で悪くないがそれだけに縛られるのは許容できない案件。冒険者としての自由も欲しいというわがままさ。
※なお主人公は単独で国を滅ぼせる。暴食の能力はそれだけ大規模の行使、対象を選ばず使えるものである。さらに言えばヴィローサの存在も大きい。水源を毒で汚染するとかもできるだろう。ある意味災害規模で危険な二人である。




