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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「雷の槍!」

「っと」

「貴様! 邪魔をするな!」

「何をそんなに焦ってる? 自分の強さをさんざん語っていたくせに」

「我が強いのは事実だ! しかしそこの女が使おうとしているものはあまりにも異常すぎる! ここで止めなければいかん!」

「悪いが、邪魔をさせてもらうから」

「貴様! そんなに死にたいか!」


 ユーナイトが夢見花が魔法の準備をしている状況を見てすぐにそちらに攻撃を仕掛けようとする。しかし公也はそれを止める。流石に魔法では間に合わないので<暴食>の力を使い魔法を食らいながら。その様子にユーナイトは怒りを見せる。そもそも最初の魔法使用の時点で焦りが見える様子だった。


「あの魔法を使わせるわけにはいかぬのがわからんか!」

「さあな。どんな魔法を使うなんて俺にはわからない。ただ魔力をすごく持ってかれたからそういう規模、レベルなのはわかるが」

「ならば貴様が止めるべきだ! 貴様も死ぬぞ!」

「……どんな魔法かはわからないが、流石に俺が止めるというわけにもいかないのはわかるだろう。俺はお前の敵、そしてあの子の味方だ」

「死んでも構わないというわけか……! ならば死ね! お前を殺しそれからあの女を殺せばいいだけだ!」


 そう言ってユーナイトは魔法を行使する。その魔法構築、行使の速度は極めて速い……しかし公也の<暴食>であれば認識した時点で対応できる。そうしてユーナイトの魔法の行使を公也が防いでいる間……夢見花は超大規模の魔法を準備するのであった。




「月よ。天に在りし夜を払う光の星よ。魔を象徴する衛星よ。大いなる星、我らが大地の星に連なる星よ。我が力、<月>を現す星よ。我が力にて招来しその力を見せよ」


 夢見花は<月>という能力、象徴によって極めて高い魔法の力を持つ。この<月>は天、この世界の最上に位置する世界の層に存在する神の持つ力、その一つが大本である。様々な世界に神はその力を分けて降らせ、そのうちの一つが今夢見花の持っているもの。象徴を宿す力、その存在の名はユーニティ。全ての魔法を支配する根源的な存在……という設定を有する神の力である。能力は様々だが書物、魔導書の存在であるともされ、あらゆる魔法を支配するというのは様々な世界に存在する魔法を観測し自身に記述することによって全ての世界の魔法の記録を刻んでいるからである。神の記憶、記録、そういったものもまた記載するものであると。

 そしてその象徴である<月>はもともと様々な形で魔と関係が深い。例えば夜の魔物の類と縁が深いのはよくある話だろう。満月の日にその本性を現す狼男、あるいは満月の日に力を高める夜の怪物たち、原典ではないかもしれないが吸血鬼の類も世界によっては月の影響を受ける。もとより月は太陽と同じように信仰の象徴になりやすい。またその存在が夜に現れることから夜の分野、夜に関わる仕事からの信仰などもあるだろう。まあこの辺りは本題ではない。

 月の力、というのは結構色々と特殊なものであり、その力はそれなりに限定される。そもそも属性や要素としては月はそこまで極端に強いものではない。光としての性質なら昼と夜の在り方から太陽の方が強いだろうし、星としての大きさも科学の発展した世界では月は自身が住む大地の星よりも小さい星であり太陽よりも小さいものであると判別されている。星としての力は小さく、光もそもそも太陽の光の反射、信仰的にも月と太陽では太陽の方が一般的には強いだろう。しかしそれはあくまで太陽と比べてであり、星としては大きな力を持つものである。そもそも自身の大地のある星に近いことからその力の繋がりは太陽よりも大きいだろう。近い分の影響力、作用が存在する。これは満ち潮や引き潮が月の影響を受けてのもの、という話からもわかるもの。それだけ近いものであることから星として与える影響は大きく、その力の関与も大きい……また光としての云々で見れば太陽の光を反射してその姿を現す点から鏡としての性質、反射能力を持つ者と考えることもできるかもしれない。この世界、<月>の力に関しては対太陽の能力としても扱われる部分があり……と、また話がずれてきているので本題に戻す。

 夢見花の持つ<月>の力は大本の<月>からの欠片。その力は強くはあるが大きくはない。この世界において極めて高い魔法の能力、才能を与えていて他世界の魔法のことも知識としてあり、優秀な魔法使いとしての力を夢見花に与えたがどれだけうまく利用してもそこ止まりである。ユーナイトのような異才には勝てない、そういう場面もある。そしてどれだけ技術を研鑽し能力を高めても……<月>の力をどれほどうまく最大限に利用しても不可能な点が一つ存在する。それは魔力量である。魔力の総量というものは生まれ持って決まっており、高めることはできない。でなければ後天的に魔法使いになる手段の開発が行われているだろう。秘匿されている可能性はあるが恐らくそれはないと思わざるを得ない。例外的に公也の<暴食>で魔力総量を増やしていたりするがこれは極めて例外である。

 夢見花の魔力総量は普通の人間に比べれば高いが、それでもこの世界の範疇としてでしかない。もちろん魔法使いが一人二人で間に合うものではないが、ユーナイトに負ける程度、というと少々あれだが結局はその程度だ、まあそれでも極めて高く、大きな魔法も何度も使えるほどにあるもの。普通ならそれで苦労することはない。しかし、一例として挙げるが公也の使った空間魔法のような超大規模の超威力、作用として大きく世界に干渉する魔法はどうしても必要魔力が大きくなる。そういった魔法を使う際、夢見花の魔力量では絶対に足りないのである。どれだけの才を持っていたとしても、魔力量というものによる魔法使用の限度は存在する。

 ただし、夢見花の場合は例外的な手段を持つ。これは別に夢見花だけではなく、この世界の住人でも持ち得る可能性のある手段であるが、今の所殆どうまく利用できている存在はいない様子だ。何かと言えば地脈の力を使うこと。この世界をめぐる魔力を使うのであれば魔力量は無限に等しい。もっとも一度に引き出せる魔力量の限度や膨大な魔力を扱うゆえに扱う者に対するものの負担があったりするので無限に使えるわけではないが。しかしそれは地脈の流れがしっかりとした場所、魔力を引き出しやすい、地脈からの漏れが大きい場所などでなければいけない。出先である魔法使いの国ではまず不可能、一般的に街のある場所は地脈の流れがそこまでではないことがほとんどであるためそういった力の引き出しは難しい。そもそも夢見花は塔を通じてその力を引き出すようにしており、その地脈の管理機構を塔で行っている。当人でもできるにはできるが手間も時間もかかるため今この場ですぐには無理だろう。だからこそ、夢見花は公也と契約しその身に宿す膨大な魔力を貰ったわけである。


「大いなる月よ、月よ、月よ。我が意に応えその力を見せよ」


 月で使える魔法、月魔法と言えるような魔法はそこまで多くはない。月の性質を利用した物、月を象徴とするもの……前に一度夢見花が使った月に吠えるものみたいな存在を呼び出すとかそういうものがあったりするものの、この場においてはそこまで大きな力ともいえない。いや、あの時の相手が相手でありユーナイト相手では十分な力であるのだが……そもそもあれは公也の力を借りずとも呼び出せるもの。まあ実質規模としてはそこまでではないからこそだろう。時間制限もあるし、そもそもあれは性質上それに関わる存在の興味の影響も一要素としてある。まあそちらはまた別の話。この場において夢見花が使用する魔法とは何か。


「星は天にありて。夜に浮かび、空に浮かび、大いなるその姿を見せり。しかし星は離れたところにありて。我ら地の者には手の届かぬ果てにありて。我らは見ることしか叶わじ」


 先に行った通り、公也が使った空間魔法は膨大な魔力消費であった。あの規模の攻撃的な世界に大きく干渉する魔法であの消費である……今回夢見花が公也からもらった魔力量もそこまでではないがあの時より低いが膨大と感じる魔力消費であった。そんな規模の魔法を夢見花が使おうとしているわけである。ではそれは何かといえば……つまりその規模、超大規模の魔法……この国全体とまではいかないが、この城を、いやこの都市を消し飛ばす危険のあるような超大規模な魔法。


「しかし今日、我らはその姿を拝み、その身に手を届かせる。星は空にありて。我はその星を堕とす。我らが住む大地に。振りし月よこの地に爪痕を刻め」


 それは月を落とす魔法。天にある月を、この大地に降らせる魔法。


「ムーンフォール」


 "月落とし"である。



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