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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「ほう。なかなかの一撃だ」

「なっ!?」


 ユーナイトに強力な一撃を叩き込んだルスト……しかしその一撃はユーナイトに届くことはなかった。薄い障壁……ユーナイトとルストの間にそのようなものが立ちはだかっている。恐らくは魔法による障壁。魔法使いとして優秀でありどんな魔法相手にでも即時対応できるユーナイトであれば、それくらいの障壁を作ることはできるだろう。ただ、魔法使いであっても魔法を使うのにはいくつか必要な条件がある。過程を飛ばすこともできるが必然的に魔力消費が大きくなり、ユーナイトの魔力量であってもただ魔力だけで障壁を作るのはなかなか厳しいものがある物だ。さらに言えばルストの一撃は極めて強力、それだけの一撃を防げる障壁は魔力だけで作ろうとすればその消費はかなりのものとなってしまう。もちろん緊急避難として作るのであればそうなるのは仕方ないにしても、あまりにもあっさりと作られルストの一撃を防いだそれに関しては攻撃を加えたルストも驚いたし、ルストに支持をだしたマギリアも驚いた。


「まさか! 今のは完全に不意打ちだったはず! 仮に攻撃に気づいてもあの一撃を防げるだなんて……!」

「魔法、だな。あの障壁は」

「いくらなんでも詠唱も呪文もなしに、あの一瞬でルストの攻撃を防ぐことのできる魔法なんて使えないわよ!」

「それは……確かに必要な魔力がとんでもなくなるな」


 マギリアの言には公也もまた同意する。ルストは魔法に対し即時対応できるがそれは魔法の内容を見るだけで一瞬で把握できるから。そしてそれに対応できる魔法を瞬時に構築できるから。極めて高い魔法看破と魔法構築能力、それゆえに魔力消費も少なく魔法を使えるからこそ、威力の高い強力な魔法も作れるからこそ、彼の強さはこの国で一番。層魔力量も他を凌駕しその強さに拍車をかけている。

 だがマギリアの言った通り、ルストの一撃を防ぐにはあまりにもその防御の魔法は早すぎるものだった。魔法であればそれだけの即時対応ができるにしても、魔法でないルストの攻撃を防ぐ、という選択をとるには思考が遅れてしまう。また、詠唱と呪文もなしにルストの一撃を防ぐ魔法はあの一瞬で作れるはずがない。魔法構築を早くできるにしてもその消費が大きくなるためどうしても難しいものとなる……のだが。


「最初からあの魔法を使っていた」


 夢見花はユーナイトを見ながらそう断言する。事前に魔法を発動していたなら確かに攻撃を見て発動する必要もない。維持に魔力が必要とされるものの、無理やり魔法を構築するよりはましだろう。しかし魔法使いであれば使用されている魔法は判別できる。少なくともそれだけ強力な魔法であればその気配を一切感じないと言うこともないはず。


「使っていた? それならわかるはず……」

「私の魔法と同じ。魔法使いでもその魔法の気配に気づかないように隠蔽していた」

「なんですって……?」


「その通りだ。お前が使っているその防御の魔法と同じものだな。この国に入ってきたとき、お前のその魔法構築をみて参考にさせてもらった。実に面白いものだったぞ」


「……パクられた」

「直接目で見たわけではないはずだが……」

「それでも魔法構築を見抜ける。そんな魔法に関する能力、技術、才能……天才、異才と言ってもいいくらいの存在」


 夢見花でもそれだけ評価する程度にはユーナイトは極めて魔法使いとして異質な天才ともいえる存在である。他に類を見ないような者であることは事実だろう。


「さて。いつまでそこにいる? 波動よ」

「ぐあっ!?」


「ルスト!」


 衝撃破……そこまで強力なものではなく、ただ近くにいた魔法使いではない存在を遠くに吹き飛ばす程度の空気の波の魔法。結局ルストの一撃はユーナイトの障壁を越えられず、そこにさらに力を加えていたのだがそれでも破ることはできずにいた。ちなみにこの障壁は大本は魔女の使っていた魔法である。真似できない魔女の魔法はともかく、普通の方法で作られた魔法は幾らでも真似できる。夢見花のそれも大体は真似できる。魔法使いとしては特殊である二人、この世界の物ではない魔法の知識のある二人の魔法を見たためかさらに強力な存在となったのが今のユーナイトだ。


「魔法使いでない存在に我がやられるはずもない。確かに魔法使いでないにしてはそれなりに強力なようだがな」

「有象無象の魔法使いよりは遥かに優秀よ」

「魔法使いでない時点で劣等であるのに変わりないだろう」

「……そんなわけないじゃない! そんな考えだから碌でもない使えない魔法使いばかりが増える! 使える魔法使いでない冒険者たちなどの優秀な人材が出て行くことになるのよ!」

「出て行くとは実によくないことだな。我らに仕えることこそがその務めだろうに」

「……っ!」


 やはり互いの意見の合わないユーナイトとマギリア。まあ、今のユーナイトに獲ってマギリアは興味の対象ではない。ルストも自分を脅かすような存在でもないとわかっているし、マギリアにはこれ以上の手札がない……あるといえばあるが、そもそもそちらはマギリアの手札とは言えない存在である。


「さて。そこの魔法使い……ふむ、貴様もそうだが、男よ、貴様も魔法使いだな?」


「公也のことも魔法使いだと見抜いた?」

「見た目からすれば全然そうだとは思われないんだがな」


「魔法の気配……強い魔力の気配も感じるのでな。その程度分からずに魔法使いは名乗れぬ」


「わからない奴らの方が多かった気がするが……」


 そのあたりの話はユーナイトの耳に入らない……自分にとってどうでもいいことは聞こえない都合のいい耳らしい。あるいは本当は色々と本質、問題を理解はしているが自分の意思、思想を押し通すため全ての考えを無視しているだけか。そのあたりは他人にわかったことではないが、ともかくユーナイトは公也の言を聞くこともなく、一つの提案をする。


「貴様らも魔法使いなのであろう。ならば我がもとで魔法使いとしてその力を振るうつもりはないか?」

「……勧誘か」

「そうだ。貴様たちのような強力な魔法使いであればこの国でも上位の魔法使いとなれるだろう」

「…………確かにそれは事実であるかもしれない」

「そうだな。魔法使いとしてなら他の魔法使いよりは確実に上に立てるだろう」

「ちょっと!?」


 公也と夢見花は確かに自分たちはこの国の魔法使いよりも上の立場に立てるだろうという事実がある。それを端的に述べた。


「ほう。であるなら」

「だけど……悪いが、そちらに仕えるみたいなことはできないな」

「ふむ。それはなぜだ?」

「いや、俺は一応この国ではない別の国で王様やってるし……」

「ほう?」

「は?」


 魔法使いが云々、という以前に公也は他国の誰かに仕える、というのは根本的に間違っている立場にある。公也は王であるがゆえに、他国に仕えるということはできない。一応こちらの大陸ではないし隠して仕えることもできるのかもしれないが……まあ、そちらに関してはあまり重要ではない。そもそも公也としても別に仕えるつもりはもともとないので結局それは一つの理由という形になるだろう。


「俺の住んでいる国は魔法使い以外もいる。この国みたいなやり方は合わないし……俺が嫁に迎えている女性も魔法使いじゃない。そもそも魔法使い同士が結婚し子供をつくっても魔法使いになるとは限らない。そういう点でもこの国のルールは適用しづらいだろう」

「……それは」


 魔法使い至上主義の適用の難しさ、適用する上での嫁やら家族やら臣下やらの周りの問題、そういった様々な複雑な問題を抱えていることもあり、結局公也は魔法使い至上主義を導入するつもりはない……というか、そもそも魔法使い至上主義の問題、欠陥もあると思っているため無理である。



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