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キアラートとトルメリリンの国境線を変えるかもしれない大きな戦い、大規模なものではないが小規模な戦争とも言えるような戦い。その結果はキアラートの勝利に終わった。
と、簡単に行ってしまうとあれなので細かくその内実を話すことにしよう。
まず公也がトルメリリンが見つけ自分たちの物とし、ワイバーン部隊の駐留地、中継地点として利用していた山……アンデルク山に存在していた城魔、現在はペティエット・トライアと名乗る城魔の意思がいた城……仮称アンデルク城とするその地を奪取したことが大きな契機となる。アンデルク城はワイバーン部隊の駐留地、そこを奪取したと言うことはつまりワイバーン部隊もどうにかしたということ。今現在ワイバーンたちは生きているしそこにいた兵士も生きてはいるものの現時点では使い物にならない。そして彼らが押さえられているということはワイバーンが飛んでこないと言うこと……つまりジェルシェンダの安全がほぼ確約されると言うことだ。元々抱えている近隣の山から来る魔物や、トルメリリンがゼルフリートから歩いてくる、あるいはゼルフリート側からワイバーンに乗ってくる可能性もある。決して安全だと断言できるものではない……が、それでもジェルシェンダの安全性は飛躍的に高まったと言える。
そのことに関してはワイバーンが飛んでこなくなった時点で何があったのかと疑問に思われ、またその時点でロムニルとリーリェの二人は公也がなんとかしたのではと推測、最終的にはアンデルク城からワイバーンに乗ってキアラートの兵士であると言う冒険者に渡された印章をつけ、キアラートの国旗っぽい物を何とか作ってそれをはためかせて公也が飛んできたことでようやく詳しいことが報告されることとなった。もっともその内容が真実であるかは流石にいろいろと疑問に思われてしまったが。
だが真実かどうかをいちいち言及しても仕方がない。公也がキアラート側であると言うことは事実、その公也がワイバーンに乗ってジェルシェンダに来たと言うのも事実。ちなみにヴィローサとフーマルはアンデルク山に残っている。フーマルはワイバーンに乗ることがまだできそうにない、ヴィローサはワイバーンの抑えと場合によってはアンデルク城に残る兵士を毒で逃がさないようにするためである。フーマルはそちらの抑えの役目も一応担っているが戦力的にはヴィローサのような出鱈目な能力があるわけではないのであくまでヴィローサの手助けとして考えられている。普通に山を下りるのは山中の危険、移動時間の関係で公也が却下したためそちらはできない。
そうして公也がジェルシェンダに戻り報告をしたことでキアラートの軍隊はゼルフリートへと向かうこととなった。そしてゼルフリートの前にトルメリリンの軍と相対する。しかしそこで戦うことはしなかった。彼らとしてもできる限りゼルフリートを無傷で取り返したいしジェルシェンダでの戦いもあり損耗がそれなりにある。できれば戦いたくないと思っているわけである。だが簡単に戦わないで取り換えると言うのは難しい。ではどうやって取り返すのか? そこで行うのが交渉となる。
交渉と言っても本来は交渉はかなり難しい事柄だろう。現状兵士たちを向かい合わせている状態でどうやって話し合えと言うのか。そもそも交渉と言っても何を題材に交渉するのか。一つはアンデルク山に存在する城魔の城の奪取、それによるワイバーン部隊を捕えていること。一部は死んでしまっているが一応結構な人数の兵士が生き残っている。ワイバーンも一応残しているがワイバーンは流石に返すのは厳しいかもしれない。また城自体の返還がどうなるかについては今の所判断はできない。ともかく相手方におけるアドバンテージである城魔の城の喪失は大きい。そしてもう一つはジェルシェンダを取り返した際に公也たちがまとめて捕まえた全兵士の存在。兵士たちは全くと言っていいほど死んでいない。その兵士たちを返還する、それを題目としてゼルフリートにいるトルメリリンの兵士たちと交渉した。
キアラート側としては今回の最大の目的はゼルフリートの奪還。兵士の返還や戦争による賠償請求の棄却など、様々な選択、可能性をいれつつ、国境線を引きなおさないで済むようにゼルフリートだけはどうしても奪還しなければならない。そういう形で精一杯トルメリリンとの交渉を行った。トルメリリンとしても兵士たちが生き残っているとなると徹底抗戦というわけにもいかないだろう。キアラート側は兵士たちの生殺与奪を握っている。トルメリリンがそれらのことを考慮せずゼルフリートを返さないとなるとキアラート側も彼らの命を奪う可能性はないわけではないだろう。そうなると流石に両者とも戦うことを止めるわけにはいかなくなる。止まらないまま両国の大規模な戦争になり得るだろう。ゆえにトルメリリンもその話に乗っからざるをえなかった。
そうして両者の話し合いが成され、キアラートとトルメリリンの争いは終わり両者兵士を引かせゼルフリートはキアラート側に返すこととなった。もちろんそうなればキアラート側もジェルシェンダにいた全兵士を返還する。一部捕縛した後死亡したり弱った者もいるが、それはほんのわずか。全体から見ればほんの数人と言ったところでありそれで文句を言うこともない。またアンデルク山にいた兵士もワイバーンを利用してジェルシェンダに連れて行きそこからトルメリリンへと返還した。
しかしその話し合いで問題になったことは賠償金や街の返還など云々よりも、アンデルク山のこと。キアラート側としてはアンデルク城は持っている利点がない。山を登らなければいけず、またトルメリリンに攻めるにも今度は山を下りなければいけずその難易度は魔法使い部隊を用いても高い。そもそもそれができるのならば苦労しない。ゆえにアンデルク城自体にはキアラートは価値を感じていない。だが返すと言うわけにもいかない。今回トルメリリンがジェルシェンダに対しての橋渡しとして使っていたようにアンデルク山はトルメリリンの側にとってはキアラートを攻めるのに極めて役に立つ城だ。ワイバーン部隊を駐留させるのにもっとも有効的な場所だ。今はその存在がばれたため使いづらいが別にジェルシェンダだけに限らずゼルフリート攻めにも使おうと思えば使えるだろう。またジェルシェンダ以外の街、近場の街であれば行こうと思えば行けなくもない。ワイバーン自体飛行距離を伸ばそうと思えば伸ばせる。そういう意味ではアンデルク城を返すことはキアラートの国の土地にとって極めて危険なことであると言える。それゆえに返すことができない。
そして何よりも大きな問題があった。一応これは公也がロムニル、リーリェに話し、報告をするなかでしっかりと報告した事柄でもあるのだが……アンデルク城は城魔と呼ばれる城の魔物、その意思体である今はペティエット・トライアと名乗る女性に触れることで城の持ち主、彼女の主となることができると言うルールが存在する。そして公也はその彼女に触れて彼女の主となった。その主の契約、その破棄に関して公也が死ななければ破棄できないと言うルール。一応これはトルメリリン側も知らないことではあったので何とも言えないが、少なくともこのルールのせいでトルメリリンに城を返すのであれば公也ごと渡すか公也を殺して城の主をいない状態にして渡さざるを得ない……それを容認できるかどうかが別の問題であるということだ。
特に公也を殺して渡すことはまず不可能に近い。公也の暴食による影響もあるが、公也はフーマル、ヴィローサが一緒だったとはいえアンデルク城を奪取した冒険者、三人で山を登り城にいた兵士たちを捕まえワイバーンすら単独で押さえている存在。その実力、能力に関してはとても優秀と言っていいだろう。殺すのはもったいないしそんな冒険者をトルメリリンに渡したくはない。そういうことでアンデルク城に関してはかなり大きな問題として取り扱われ、どうするかをより詳しく話し合うこととなった。
もっとも、そのトルメリリンとキアラートの話し合いで決定された判断に公也が従うかどうかはまた別の話となるが。
※キャラセリフのない説明回。
※城魔を奪った時点で実質キアラート側の勝利が確定。問題は戦後処理。奪ったもの、奪われたもの、確保した人員などの取り扱い。そして賠償などの問題など。特に城魔の今後の取り扱いはキアラート側には大きな問題。城を残す限りまた同じことが起きる。
※アンデルク山、そこにある城なのでアンデルク城。特に意識していないが山名は国名を考えるとちょっと無意識に関連付けたかもしれない。
※三人でアンデルク山を登り切った上に城にいた兵士とワイバーン全部をどうにかしたっていうのはちょっと強さ的にやばいという話。
※国同士での話し合いだが、城魔自体は主人公の所有物という扱い。他者がどう見るかではなく、主人公側、城魔側の認識の問題において。




