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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「あそこか?」

「らしい。しかしこんなに魔法使いたちを集める意味はあったか? 魔法も使えない奴らなんだろう?」

「俺たちの仲間がやられたんだ。多少は警戒するべきだろ」

「ふん。警戒する必要なんてない。これだけの数をそろえられている以上どんな相手でも雑魚同然だ」

「確かに。魔法で圧倒すれば楽に倒せる……今後同じように抵抗してくる奴らもいないだろ」


 魔法使いたちがおよそ十人ほど。現時点で公也たちを襲うために送られた魔法使いはそれだけの数である。多いか少ないかで言えば、まあ一般的には多いと思うところだろうか。ただ戦闘する、という事実において魔法使いたちだけ十人ほどというのは少ないというか、バランスが悪いというか。少なくとも公也とセージたちの人数に対することを考えれば若干数が上なだけで本来ならこの数で、というのはあり得ない。ただ、現時点で十人ほどというだけでまた魔法使いを送る可能性はある。戦力の逐次投入となる、愚策ともいえるやり方ではあるが、そもそも公也たちの実力を正確に把握しきれていない点と魔法使いたちの強さに対する信頼、魔法使いの方が魔法を使えない者よりも上というこの国の考え方の影響、そしてこんなどうでもいいような強さと悪い考え方をする魔法使いたちを始末してくれることを期待して一部の上の人間がこの人数で送り出した、という事実もある。


「なあ。そいつらあそこにいるんだろ?」

「らしい」

「ならよ。あの建物ごとぶっ殺せばよくね?」

「お、それは楽だな」

「いや、それは死んだことの確認ができない。建物が完全につぶれた状態で生きているとは思えないが……」

「そもそも建物を破壊するのはもったいないだろう。それにそこにいるこの国の人間も死ぬぞ」

「別にどうでもいいやつらが死んだところでな」

「俺たちが楽できる方が重要だ」

「いや、楽できるのは良いが、あいつらが死んだことを把握できないのは流石にちょっとなあ」

「それにできれば死体を確保した方がいい。見せしめになる」

「……………………」


 魔法使いたちとしては楽に倒せるほうがいい。魔法を使って倒しても問題はない、十分倒せる……にしても、危険はない方がいい。ゆえに建物ごと、建物を完全に破壊する、潰す、そんなやり方でそこにいる人間全員を始末する。そんな考えでの発言をしている。それに対する反対意見もないわけではない。ただ、この場に存在する魔法使いたちの中では極少数……他者、魔法を使えないこの国の住人に対して特に気にするようなこともない魔法使いの方がほとんどだ。少しそれとは別に倒した公也たちの死体の確保とか、建物が破壊されて直さなければいけない、利用できなくなるデメリットを考えるとかそういう方面での思考はあるにはあるが、結局のところ自分たちの利のみで考えているようだ。


「さて。それじゃあそろそろ準備を」


 ドガン、と大きな音を立てて魔法使いたちが魔法の標的にしようとしている建物から人が現れる。


「お? なんか変な奴らがいるな」

「変な奴だと?」

「ふざけたことを言うやつだ。

「お前の方が変な奴だろ」

「おい。お前ら魔法使いってやつか?」

「そうだ。我々を変な奴だと言ったな? くくく、その罪に報いて」

「よし。まず一人目!」


 どがっ、と思いっきり蹴り飛ばされる一人の魔法使い……魔法使いたちは割と固まっており、また標的にしようとしていた建物からはそれなりに離れていた。そこから現れた人物も比較的建物寄りであり、そこまで近くにはいなかったはず……なのだが。いきなりその人物が近づいてきて魔法使いを蹴り飛ばした。あまりにも早い、速い攻撃。そして人一人を蹴り飛ばすというなかなか普通の人間では考えられないような身体能力……相当な強者である。まあ、ゼーメストであるのだが。


「ごっ……」


「お、おい! お前、なにしたかわかってんのか!」

「お前らを倒すのが仕事だからな。なに、こんな弱い奴ら秒殺ってな」

「ぎゃっ!」

「ちっ! 魔法、魔法! 火の球を撃ちだし射貫け! ファイアボール!」


 反応の早い魔法使いの中には仲間が順々に倒される中次の一手を撃ちだすものもいる。反応が速いというか戦い慣れているというか、この状況でも物怖じしないのはなかなか優秀な精神性をしている。もっとも、ゼーメスト相手に魔法は基本的に悪手。ゼーメストの強さは一般的な多くの魔法を無効化できるその特殊能力なる。

 飛んでいった火球はゼーメストにあたるが、弾かれるように消し飛びそこに存在するのは無傷のゼーメスト。そして攻撃した魔法使いに対してゼーメストが一気に近づき攻撃する。


「魔法が、ぐえっ!?」

「残念だな。効かないぜ?」


「あー! 先にやってる!!」


「おう! 早い者勝ちだろ!」


「酷い! 私も急いで倒さなきゃ!」


「え? お、おい、その持っているそびゃっ!?」


 ゼーメストの次に現れたのはリーン……その手には長い木の板を持っている。木の棒だとちょっと威力がありすぎるため加工していないような木の板を武器に使うことを選んだリーン。短いとそれはそれで力が伝わりやすそうなので長いものにしている……まあリーチ的なものも考えている。ただただ長いだけの板、そんな板でもリーンの力であれば十分な武器になるし、魔法使い相手にリーチの短さで苦労することもない……というほど長くはないが、斧よりはリーチ的にはましだろう。その分威力は当然控えめになるが、威力が弱くなる関係上頭なども狙いやすくなる。殺せなくなるが都合はいい。




「さて……僕らは倒された魔法使いの後始末、周りへの被害の確認と……あとは人の避難の誘導かな?」

「そこらへんよくわかんねーけど、とりあえず隠れてこそこそやればいいんだな?」

「わたしとか戦えないから余計にそういう方面で活躍しないとかな」

「吹っ飛ばすとか殴るとかそういう物理的な方が楽なんだけどね」

「けが人は一応私が治せるから……」

「魔法が使えるというのは利点ですね。私もモミジさんと同じく力仕事しかできないので……」


 セージたちもこそこそと動き出す。こちらはこちらでリーンとゼーメストとは違う仕事がある。まあ、彼らの仕事は二人の暴れた後始末や魔法使いたちの暴挙の問題解決の方面。現状では目立たずこそこそ、変に狙われないように動かなければいけない。そういう点ではまだ動くことはないしあまり表には出づらい状況である。隠れて行動中、そんな状況である。



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