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「ふむ? これは……ほう、珍しい」
「どうされましたか?」
「なに。ここに入る者の中に魔法を使っている者を見つけただけよ。その魔法の面白いこと……かなり独自の魔法だ。それも高度でお前たちでも使えないような魔法だぞ? くく、この国にそのような魔法が使える魔法使いは今までいなかった。恐らくはこの国のことを聞いてきた旅人……といったところだろうか」
「魔法を? まさかこの王都に入るのにそんなことをしている者がいようとは……すぐに魔法の使用を止めさせ捕らえるべきでしょう」
魔法使いの国、その王都に入る人間は……まあまあいる。多くはない。魔法使いの国はどうしても魔法使い至上主義が蔓延ったせいもあって外からの流入が減っている。まあ魔法使いでなければこの国に来ても魔法使い相手に立場的に下に扱われることもあってあまりいいこともない。冒険者ギルドもないこの国にわざわざ冒険者が来ることもないし、旅人も目的地にはしない、そもそもこの国に積極的に行こうとする外部の移動機関もない。なので国内の移動は国にいる人間に限った話であることが多い。
まあそんな中でも旅人がくることはある。大体はこの国の魔法使い至上主義に迎合してその恩恵を得ようとしようとする魔法使いの旅人だ。さらに言えば大抵の場合は魔法使いと言っても良くて中の中、もしかしたら中の上くらいの者しか来ないだろう。
それは今回の話の本筋とは少し違うものなのでとりあえず置いておくとして、王都という国において重要な都市、国をまとめる魔法使い、立場として最上位のユーナイトもいるような都市に魔法を使っている状態で入り込むというのはいろいろと問題がある。魔法と言っても色々とあり攻撃的な魔法から変身や擬態、幻影の魔法など、様々な形のものがある。攻撃的なものはそれ自体がいろいろと危険なもので自分たちに危害を加えてくる危険もあるし、幻影などの補助的な魔法は何か裏で行動する目的で使用される可能性もある。そういった魔法を無許可で好き勝手使うのは問題だ。この国の各地で平気で民にそういった魔法を使い横暴なふるまいをする魔法使いは多いが、ここ王都においてはそういった魔法の使用は基本的に許可制にされて禁止されている。もっとも旅人など他所から来た魔法使いはそういったルールを知らない魔法使いも多い。捕らえると言っても獄に繋ぎ勾留するということにはならず、一時的に捕まえておくだけに留まるだろう。そして魔法使いとして登録しこの国の魔法使いとする、大体はそんな感じだ。
「やめておけ。この魔法使いはお前たちの手に負えるようなものではない」
「……なぜそんなことが言えるのですか?」
「使っている魔法の質よ。お前たちのような魔法使いでも魔法を使っていればその気配を感じる。魔法を使用しているという事実がわかる。我がわざわざその存在を把握せずともある程度ならばそこらにいる程度の魔法使いでも感じ把握する。それによって捕らえ連れてくるだろう? だがそれは魔法の存在を把握できればこそだ。恐らくこの魔法のことはお前たちでも把握は出来ん。そういった魔法だ。お前たちには使えまい? この魔法使いはそれほどの魔法を使える。自分でそのような魔法を作り使用し続けているということになろう。それはどれほどの魔法の技術と魔力量を必要とするか」
「………………」
ユーナイト・ランティス、この国最強の魔法使いが評価するほどの魔法使い。どうやらそれだけの実力者がそういった魔法使いでも感知できないような魔法を使っているらしい。そんな相手が一般の魔法使いの手に負えるわけがない、それは確かにわからないでもない。
「しかし放っておくわけにもいかないのでは?」
「そうだな。我としては招待してこれほどの実力を持つ魔法使いを我が国に加えたいところだ。しかしあまりこちらから誘いをかけるのもな。わざわざこの国のここ王都まで来ているのだから向こうも我らの下に自分を売り込みに来る可能性がある。しばらくは様子を見ておけばいいだろう。お前たちもその魔法使いを発見する努力をしてみるといい。魔法を常に使っているのであればその気配、隠された魔法を把握できる能力を鍛えるのにちょうどいいだろう。お前たち程度でもそれくらいはできるようにならなければ使い物にならないだろうしな」
そう言ってユーナイトはくくくと笑う。その様子に彼と話していた魔法使いは不満そうな表情をするが直接文句を言うことはしない。
「ふむ、その魔法使いより……何やら軍が魔法使いを招集しているようだな?」
「はい。この王都に各地に散っている魔法使いを集める、と。流石に全員を集めることはできませんがあまりあちらで現在活動する必要のない暇をしている魔法使いは大体呼び戻しているようです」
「その理由については訊ねたか?」
「重要なことですので。どうやらこの国に対する反抗組織が存在すると」
「そういった話は聞いたことがあるな。嘆かわしい。魔法使いでない者は魔法使いに従うことこそが肝要だというのに」
「……まあ、その意見に対して不満を持つ者も多いのでしょう。そんな輩が集まり組織を作り、今回その組織の構成員たちであるだろう人間が一斉に動き出したということらしいです。王都に向け動き出した人物たちの数は多く、もしかしたら何か問題が起きるかもということで魔法使いたちを呼び戻してその問題に対処すると……そういう目的だそうですが」
「我一人いればよいというのにな」
「あなた様の手を煩わせるほどではない、というのが彼らの意見でしょう。あなた様に危険が及ぶようなことは恐らくあり得ませんがその魔法を使わせるほどでもない……そう彼らが思ってもおかしくはありません」
「恐らくではなく確実にない、と訂正しておくぞ? 確かに言う通り我が魔法を使う必要もないだろうがな」
ユーナイトに魔法を使わせない……これはユーナイトが魔法を使うほどではない、という今の意見もあるにはあるがそれとは別にユーナイトが大規模な被害の大きな魔法を使うことをさせないようにするため、というのもあるだろう。彼の思想は魔法使い至上主義、魔法使い以外は消耗品、道具、玩具、少なくとも人間と同等、自分たちと同じような存在とは見ておらず、殺してしまっても気にしない。その被害が大きなもので大量の民が死んでも気にしない。問題解決のため魔法を使えばその被害は大きなものとなり得る可能性がある。そうなるくらいならまだ他の魔法使いに任せる方がいい。もっともそういった魔法使いの多くは魔法使い至上主義に染まり魔法使いではない者に対して被害があってもユーナイトの様に気にしない可能性はある。ただ規模がユーナイトほど大きくはならないためまだこちらの方がマシ、という考え方だ。
「ふん、そういうことならそちらに任せておこう。しかしいつまでもこのままというわけにもいくまい。そのような者たちを放置するわけにもいかぬしな」
「それは……そうですね」
「我の方でも何かそういった輩をどうにかする手立てを考えておくとするか。くくく、どうするかな」
ユーナイトは軍を含め下の者にどうするかを任せる様子だ。しかし彼は彼で色々と考えがある。このまま下の者が片付けるのを待つのもつまらない……ならばどうするか。彼は彼なりに考えて何か好きに行動することだろう。それが何か、どうなるか。そんなことはわからないが……魔法使い以外の者を平気で使い捨てる可能性もある彼であれば、碌でもないことを考え実行する可能性がある。それを知っているがゆえに、彼に聞こえないように話していた部下は小さくため息をつくのであった。




