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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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27



「………………」

「………………」


 公也と城魔の意思、二人は特に何をするでもなく黙っている。見つめ合っているわけではない。そもそも、視線が合わせづらいので見つめ合うことはない。特に何もしないでいるのはやはりどうすればいいのかお互いがわかっていないからだろう。そもそも城魔の意思の女性の方は特に何ができるわけでもない。この場の状況は公也の判断に委ねられている。


「そちらはどうしたい?」

「どうしたいとは?」

「何かをしたいとか、そういったことはないのか?」

「私はこの城。ここにいるだけの何かができるわけでもない存在。いてもいなくても大して変わらない。私ができるのはこの城を自動で清掃するようにするくらい……」

「……それくらいしかできないのか。城魔って」

「基本的に何をするわけでもない。城として存在して、城として生きる。魔物なのかもしれないけど別に人を襲うわけでもないしただそこにあるだけ……意味もない」


 城魔はなぜ発生するのかがわからないくらいにその存在に謎が多い。そもそも魔物としても生物としても無駄が多い……というかそれ以前に生物ですらない。魔物と言ってもいいのかもわからないくらいに異常だろう。


「別に今すぐに私を殺してもいい。私が死んでもこの城は消えない」

「……悲観的だな」

「希望はない。私はここから動けないから」

「……その鎖か」


 城魔の意思を繋ぐ鎖。それは城魔を城があり続けるか限りこの場に止めるもの。外に出ることも、外を見ることもかなわない。一応部屋を改造することで外くらいは見れるかもしれないが、ずっと同じ景色しか見れない歩きまわることもできない人と一緒に過ごすこともできない……一部は彼女がどうにかするのではなく城に住む人間次第ではどうにかできる可能性があるものだが、ともかく彼女には行動の自由すら存在していない。一切の希望が彼女には存在していないと言える。


「ふむ、ならその鎖を外してみて、それから話を聞くのもありか」

「……この鎖は外せない。私を繋ぎ止めるために存在するものではなく、私と一緒にこの城と共にできたもの。繋ぎ目も何も存在しない。簡単に壊せるものでも……」


 鎖は分厚く力で破壊するにしても難しい。機械仕掛けを利用して鎖そのものを引っ張り城の一部を破壊しながら外すほうがいいのではと思うくらいの代物である。金属の武器で切り裂こうにもやはりその厚みがかなりのものである。そもそも鉄でできているかどうかも怪しい代物だ。魔物の体の一部、城魔の構成物質の一部だ。普通に斬ろうとして斬れる物ではない可能性が高い。

 だがそんなこと公也には関係ない。公也は他とは違う特殊な能力を持つ。


「これでいいか?」

「えっ?」


 公也が腕を振るい、それと同時に鎖は消えていた。囚われの姫はこれにて解放される。


「あっ」


 そして少し体勢的に無理があったのを鎖によって補っていた彼女はそのまま体を倒しそうになる。城の床は柔らかい絨毯などが敷かれているわけではなく、特にこの部屋は城が生まれてから特にこれと言って変えられることもなく何かが持ち込まれることもほぼなかった場所、床は城の壁と同じような硬い物質で倒れれば痛い。そもそも倒れようとしている相手を前にそのまま倒れるのを見届けるわけではない。


「っと」

「あ」

「大丈夫か………………?」

「………………」

「………………今何か」


 公也が城魔の意思の女性が倒れようとしているところを掴み止める。そしてそれは彼女に触れると言うこと。


「…………契約、結ばれた」

「どういうことだ?」

「私は最初に触れた人間と契約することになっている。本来ならこの城に最初に来た人間と契約をしているけど、さっきその人間が死んだから…………」

「……それで俺がお前の契約者になったと」

「そういうことになる」


 少し頭を抱えたくなる公也。ここにきて城魔との契約という面倒事。


「それは解消できるのか?」

「契約者が死ぬことで解消される」

「……………………」


 公也は死ぬことができない。いや、死ぬことはできるが死ぬ可能性はとても低い。膨大な生命力に肉体を構成する物質の補完性能、暴食による防御対応能力を考えてもまず普通の手段で殺すことができない。首を刎ねようと心臓を貫こうと。公也自身に死ぬ気があればそれで殺せるかもしれないが公也にその気はない。死ぬ気がないため何かあれば全力で抵抗し相手を滅ぼすことになるだろう。


「それはつまり無理ということか……まあそれならしかたがないのか?」


 死ねない以上契約の解除は無理。できないことを無理に解決しようとしても仕方がない。一応公也はこの城魔の意思を殺す……暴食で喰らいこの世での繋がりを断てばどうにでもなるのでは、と一瞬考えるがそこまでするべきこととも今のところは考えていない。そもそも契約をしたからなんだと言うのか。


「契約って何か問題があるのか?」

「あなたが私の主である。それ以上でもそれ以下でもない。私はあなたの命を聞き、あなたに従いこの城を維持する」

「……それだけか」

「それだけ」

「大したものでもない……のか?」


 契約自体に特に意味があるわけでもない。あるとすればこの城魔が公也の命令を聞くようになった……その程度のものだ。


「…………ありがとう」

「いきなりどうした?」

「私を解放してくれた。それだけでも私はあなたを主と仰ぐことに躊躇いはない」

「少しは躊躇ってほしいかな……ああ、えっと、主? 呼ぶならマスターでお願いしよう」

「マスター。わかりました」

「……そういえば、名前を聞いてないな」

「ない。私に名前はない。主になった人間からも付けられていない……と言うより最初に契約した時以来会ってない」

「それでも契約は維持される、死んだらそれがわかるって感じかな……しかし名前がない、か。また俺がつけなきゃいけないのかな……」


 ヴィローサの時のことを思い出す公也。彼女の場合ヴィローサの方から名前を付けてと頼んできた。あれに関して言えばヴィローサが公也から名前を貰いたいと言う点が大きかっただろう。今回は別にそういうわけではないが、名前とは個を示すものでありそれがないと呼ぶときも呼びづらいという不便さ。必要なものであるためつけたほうがいい。


「名前、いるか?」

「マスターの思うままに。私はなくてもいい。お前と呼ばれてもいい。呼び方を気にすることはしない」

「それはそれでどうなんだろうな」


 流石に名無しは不便、呼ぶ際にはそれほど困らなくともやはりあったほうがいいだろうと考え、公也は彼女の名前を考える。


「……ペティエット・トライア。呼ぶときはペティな」

「わかった」


 あっさりと城魔の意思の女性、ペティエットは公也の付けた名前を受け入れる。そうして城魔の意思は開放され自由を得る……もっとも、この城が今後どうなるかについてはいろいろと問題がある。何よりも、今はキアラートとトルメリリンの間で戦争中であるのだから。もっとも、この城が陥落したことによりキアラート側に有利が傾く。後はゼルフリートの奪還がどういう形で行われるか。それがどうなるかは現状では不明である。



※ちなみに彼女は入る側、扉側に背を向けている。

※城魔との契約。城魔の意思との接触にて果たされるもの。契約は接触による強制。最初に触れた相手にしか効果はないが、契約者が死ねば自動的に次の契約を結べるようになる。解除方法は契約者を殺すしかない。城魔との契約はそもそも契約者が何かを強制されるものではない。城魔にとっての主を定めるもの。特にそれを解除する必要性はあまりない。

※永遠に部屋から出られることなく鎖で囚われていたところを解放した相手なのでちょっとは騙されても許す、くらいには信頼が発生している。前の主と比べるとマシだからというのもあるかもしれない。

※ちょっとだけマスターと呼ばれることに憧れがあったらしい主人公。

※ペティエット・トライアの命名は城、あるいはそれに類するものから。Petiet Tria。

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