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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「……あの、流石にそれは」

「おい。話の決定権は俺にあるんだろう?」

「それは……そうですが」

「ルビィ。諦めるわよ……」

「………………」


 ゼーメストとロゼッタ、ついでに一緒に彼らについて行っている四人、ロラロンナ楽団。そんな彼らのいる場所に公也は訪れている。ゼーメストたちとは一応常に連絡ができるようにしていることもあって問題なく彼らの元に訪れることができる。彼らの旅をしている場所は海の向こうの大陸、今回公也が問題解決を図るかもしれない魔法使いの国がある大陸。むしろ彼らとしては今回のことは自分たちに降りかかるかもしれない問題をどうにかしてくれる機会かもしれない。まあもともと彼らにとっては関係のない事柄だろう。ゼーメストたちからすればむしろ喧嘩を売ってくれるのは戦う機会の増加につながる。もっとも弱い相手と戦いたいかといえば微妙だろう。


「魔法使いの国の問題……噂ではそれなりに聞いているわ。魔法使い以外を冷遇、魔法使いを優遇し、魔法使いではない者が治める他国に喧嘩を売る、冒険者ギルドが存在しない……より厳密に言えば冒険者ギルドを追い出した、あるいはその逆で手を引いた、とかそういう話。そんな国の問題に首を突っ込むと?」

「そうなる。そちらはついてこなくてもいいが……」

「まさか! 安全面の問題があるのよ。一時的に匿ってもらう、みたいなことをしてもらっても大丈夫なのかもしれない。でもそれはそれで面倒だし、彼に力を貸してもらっている以上はこちらも幾らか覚悟を決める必要があるわ」

「え? ちょ、ちょっとフレーテ?」

「確かについていくなら覚悟は必要よねー」

「ええっ!? ローラァ!?」

「…………ルリア、諦めましょう」

「でも……」

「彼らとはもう長い間一緒に旅をしています。信用という点では彼ら以上に信を置ける相手はいません。彼のことを知っていれば……安易に余所を頼りに一時的に離れるというだけでもあまりいいことではないというのは分かるでしょう?」

「……………………まあ、確かに。あんまり私たち自体に興味ないみたいだし。だから安全というか安心できるというか……」

「理由はそれだけじゃないわよ。ゼーメストにまたついて行く形になるにしても魔法使いの国へは行きたいと思っていたわ」

「行きたいって? え、でも……」

「魔法使い至上主義。魔法使いでなければどれだけ能力が高くとも、どんなことができるにしても評価されない国。そこに行くことは私たちの立場ではできません」


 魔法使いではないロラロンナ楽団の四人。魔法使いの国に行きそこで活動すれば魔法使いでないというだけで活動不可能、場所代に莫大な金銭を要求される、魔法使いが戯れに魔法を使ってきたりあるいは攫ったり。そんな危険のある場所に普通なら行くことはできない、しない。


「ですが今回話していたことが事実であり、うまくいったなら……」

「私たちの仕事ができるっていうことね。ゼーメストが関わるなら、彼らが関わるならなんとでもなるんじゃない?」


 公也とゼーメスト……今回魔法使いの国における反抗組織、革命ともいえるような事柄に関わる彼ら。もしそれが成功した場合……フレーテたち楽団の人間は魔法使いの国で活動することが可能となる。まあ、安易に活動できるというほど簡単でもないだろう。魔法使い至上主義をどうにかするため動いた組織が勝ったからすべてが問題なくなるというわけでもないし、至上主義に対する反抗に対して魔法使いたちが対抗してくるかもしれない、至上主義自体も簡単に取っ払われるほどではないだろうし、戦乱……というほどではないにしても魔法使いと反抗組織の争いによってそこそこ荒れる。そんな中楽団の人間が歌や踊りで慰撫するというのも難しいかもしれない。いろいろとあれな状況に何をしているのか、と言ってこられるかもしれないだろう。あるいは自分のいる環境が悪化、わかりやすい標的として目立つ楽団の人間が襲われるかもしれない。

 まあそういった問題点に関して彼女らも考えられないわけでもない。それでもやる意味がある、己の生き様として果たすべきものがある。全てが終わった後であればゼーメストを護衛として使うこともできる。もちろんまた旅に出る際は彼らについていくわけだが、それまでの間、自分たちがいろいろとする間は頼み護衛ができる。そうなれば何か問題が起こりそうでもなんとかなるだろう。また公也とのつながりもある。反抗組織、魔法使いの国をどうにかする組織と繋がっているのであれば魔法使い至上主義を解決した……あるいは権力、国の運営、そういったものを握ることができる可能性の高い彼らに許可をもらうということもできるだろう。許可があれば安全というわけではないが彼女たちとしても動きやすいところである。


「できるかもしれません。とはいえ、簡単ではないでしょう」

「座して待つ……というわけではないけど、ついて行って様子を見るくらいはできるかもしれないわ」

「でも安全ではない。その点だけは考えるべき点です」

「……そうね。流石に彼らの活動に関与するのは難しい。彼らが戦う場に直接赴くのは流石に問題があるわ。近場で待機する……あるいは彼らの手伝う組織とやらの手伝いはどう? 戦うわけではないけど雑用みたいなことはできる」

「…………それくらいならありですか? あまり大々的な活動はできませんが」


 いろいろな事情を考えてフレーテとルビィが会話する。いろいろと決定するのはリーダーのフレーテと楽団の頭脳役であるルビィがほとんど。ルリアとローラもある程度意見は言えるが彼女たちの決定について行くことは難しい。なので半ば二人が決めている内容に対してむっとするところがありながらも受け入れるしかない……ローラは特に気にしないだろうけれど。




「なるほど。強い魔法使いがいるのか」

「……ゼムはあまり魔法使い相手でも気にしないな」

「魔法は基本的に効かないからな」

「その能力は反則だろうな……」


 ゼーメストは遠距離攻撃を無効化する。魔法である場合そのほぼすべてが遠距離攻撃。ゆえにそれを無効化することができる……とはいえ、相手からゼーメストに向かってくる攻撃は無効化できても相手の防御を無効化するとかそういう性能があるわけではない。それに近距離であれば魔法の攻撃は通用する可能性がある。下手な攻撃よりもはるかに威力の高い魔法を近距離で食らうというのはゼーメストの強さがあっても厳しいところがある。そういう点では絶対に安全である、効果がないとは言い切れないところだ。まあそんな近距離での魔法使用ができる魔法使いは結構なレアな存在になるだろうが。


「夜に活動するわけじゃないのは残念ね」

「……ロゼッタはやはり昼では厳しいか」

「もちろんよ。明るい間はあまり役に立たないから。魔法使い相手とか流石に私も戦いたくはないわ。普通の戦いなら多少は考えるけど」


 流石に不死であるロゼッタはおそらくことを起こすだろう昼間の活動は厳しい。不死として全力を発揮できるときはともかく昼間は恐らく相手が魔法使いである今回の件には参加しづらい。夜なら参加してもいいが、流石に夜もずっと戦いが続くとも限らない。まあむしろ夜に暗殺的な活動をしてもいいかもしれないが……それは彼女の戦い方としては望むところではないだろう。


「まあ、ゼーメストに頑張ってもらう感じだろうな。ロゼッタの方も参加できるのなら、という感じで」

「おう。そっちからも強い奴は来るんだろう? ちょっとやってみてもいいか?」

「………………全部終わった後、多分乗り気な人物が一人いるからその人物相手なら本人が許可したなら好きにすればいい」


 具体的に誰かといえばリーンである。その能力の性質、不死性と耐久性を考え、さらには性格面でもリーンとゼーメストは近いところにあるかもしれない。もしかしたら二人が戦うようなことも……あるかもしれないが、それは先の話になるだろう。



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