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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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 ルストの振るう技はわかりやすく単純なものだった。腕にエネルギーをまとい、そのエネルギーを攻撃に使う……そんな単純なものだ。だが単純ながらその強さは結構なもの。エネルギーとは言うがそのエネルギーに特定の方向性がなく、ある程度はその技の使い手の意思によってその性質が変更される。例えば相手の攻撃を受け止めるために防御能力を高め盾のように相手の攻撃を受け止めるとか、逆に攻撃の性質を高め相手に対する攻撃に使うとか。また纏っているがその範囲、エネルギーの大きさを広げることができ、そして放つこともできる。手刀を作り斬撃のように、そしてそれを遠距離から放つ……そんなこともできる割とよくわからない飛んでもな技である。

 技の利点は基本的にはその発動の簡易さにある。魔法も物によっては呪文一つ、場合によってはそれすら必要ないこともあるが一般的には詠唱に呪文をつけて使うものであり、魔法というものを構築するために魔法使いもある程度その魔法のイメージ、意識を必要とする。どれだけ早く魔法を構築できるにしても魔法を使おうとして使うまでに若干、少しだけ、わずかなものではあるが時間がかかる。だが技は基本的にそれが少ない。魔法使いよりもはるかに速く攻撃が可能である。さらに言えばルストの使うエネルギーを纏い攻撃に使うそれは長時間維持されている……常にそれを使われ続けている状態だ。相手の攻撃に途切れがないというのは厄介で魔法使いであれば詠唱と呪文の間隙、魔法と魔法の間の攻撃できないタイミングに攻撃されてしまうことになる。彼は魔法使い相手に優勢に戦うことができる……魔法使い側が彼ではどうしようもない、対処できない攻撃をするとか、あるいは彼自体の攻撃を魔法に頼らず防げるなどできるか、あるいは魔法の間隙自体を無くすことができるか、ともかく彼に対処できるだけの能力を持たないとなかなか厳しいものがある。

 そして技を使う上での欠点……まあいろいろあるが、武器の問題。通常技を使うには武器を必要とする。彼の場合は自身の腕を武器としているため……これはこれで他の技を使う人間とも違うが、一応自身の腕、肉体を武器として換算するならありえないとは……まあ、恐らく言えない。ある意味では彼独自の特殊なものなのだろうが、ともかく武器を必要とする問題が技では欠点としてある。これは常に使い続けた武器でなくとも良いが、ある程度技を使うために使う武器に似通ったもの、近しいものでなければいけない。ゆえに技を使う者から武器を奪う、あるいは武器破壊をすることで技を使うことをできなくすることができる……のだが、彼の場合は技を使うのは自身の肉体。本来なら戦闘で肉体を失うことはあり得るが模擬戦ではそれができない。ある意味で技を使う条件を奪うことで価値を得られないという点では厳しい戦いを強いられているともいえるだろう。

 また技を使う存在は魔力量が少ないという欠点……つまりは技を使うために必要なエネルギーの問題がある。技は基本的に燃費のいい技悪い技があり、一日に何度でも使用できる、十数回でも余裕で使えるようなものもあれば一発で終わり、一発で動けなくなるほどエネルギー消費を強いるみたいなものもある。魔法使いの使う魔法でも技に近いほどの威力、性能を有するものもあるが大半の場合魔法使いがそれ一発しか使えないということはない。詠唱や呪文の手間もあるが、そこそこ大規模なものでも問題なく使える。要は根本的な総合エネルギー量の差がある、一般的に技を使う存在は魔力量が少なく技を使うにもその回数に限度があってやりくりが大変だというのがある。しかしルストの場合はそんな心配がない。常に技を使うためにエネルギー消費をし続けたとしても、かなり長時間維持できるだろう魔力量がある……彼の魔力量は多くの魔法使いよりも上、あるいは魔女や夢見花辺りに匹敵する……いや、それ以上の魔力量であると言ってもいい。

 もし彼が魔法を使うことができれば魔法使いとして大成できた可能性があるが、残念ながら彼は魔法を使えない。魔法を使えないからこそ、その欠点を抱えるからこそ現状の特殊な技を使う存在として強者にあることができる。そういう点では魔法を使えないのは欠点であるのか、とも考えることができる。まあ魔法を使えないという事実は欠点でることには間違いない。本来なら誰しもが持ち得るはずだった技術を使えないというのは確実に生まれつきの欠損に等しいのだから。もっともこの世界でどこまでその性質があるかわからないが存在の欠損は別の部分で補う要素が存在する。その要素が彼の強さの補強になっている可能性はある……欠点がある代わりに別の部分が長所としてずば抜けてしまった、という感じになるのかもしれない。

 ちなみに彼のような存在はかなり稀少、普通は見られない存在である。まあこの世界に魔法を使えない……魔力量が足りないが強いというのは割といなくもない。というより冒険者の中で名を馳せる多くの冒険者は魔法を使える方がすくない。この世界でも割とみられる特殊能力、そういったものを使う方が多いだろう。まあ、ともかく魔法を使えず技を使う、高い魔力を持つが技を使う存在というのは稀少な例である。とはいえ、似たような例は公也たちは一応知っている。魔物大陸にて不死でとんでもない能力を備えているエリファの存在、それが近しい例としてあがる。彼女の場合は元々魔力の少ない人間で資質として使えるのは技であった……魔法を使うほどの魔力量がないため技の方向性に発展するはずだったが、死者となりそれから魔力をためて行った結果、魔法というものを知らず技の方向性のままで発展してしまったケース。彼女の場合は厳密には人という種族から外れたことも一因にはあり、それゆえに魔法を使えずに成長してしまったというのもあるだろう。まあ、どういう形であれ強力すぎる技を使えるというのはかなり特殊な例外的なケースであるということには変わりがない。





「っと!」

「さっきから魔法を使ってないな。魔法使いだって聞いてたん、だけど!」

「使わせる動きじゃないな!」


 公也は剣を持ち戦うことができる、魔法使いというよりはどちらかというと剣士、まあ魔法も使える事実はあるし魔法使いとして高い資質を備えているのも間違いではない。だが彼自身は魔法を使いそれだけしかできないというわけではない。根本的には冒険者、戦うための手段は様々である。魔法使いからすれば高い魔力を持ち魔法の知識もあり素質も高いのだから魔法を使え、と言いたくもなるがそこは個人の自由。そもそも現状で普通の魔法使いのように魔法を使う戦い方をしていれば一瞬で押し込められることだろう。


「この状況で普通は魔法を使えない。そっちの攻撃を防ぐだけで意識を持っていかれるし詠唱や呪文を唱えるだけの時間も足りない。魔法を使うためにイメージする魔法の内容も、かなりぶれることだろうな」

「余裕そうだな!」

「余裕……とは言えないが、なんとか、なるもの、だ!」


 相手の身体能力は技を考慮すると……いや、技はそもそも彼の身体能力に厳密に作用するものではない。全身に纏っていればともかく、彼のそれは腕に纏うもの。腕の部分だけの動き、攻撃性能、防御能力は高いがそれ以外の部分は普通の人間が鍛えて得られる身体能力以上の物にはならないだろう。とはいえ、彼の身体能力は決して低いものではない。それなりに上位の冒険者と同じくらいの身体性能を有していると言える。いや、彼は魔法使いではないのにこれだけの実力を得ているということは他の国では冒険者と呼ばれるような存在として活動していた可能性は高い。そうであるがゆえにここまでの強さを持ったのかもしれない。もっともそれだけ強くとも、この国では魔法使いではない時点で格下に扱われる。さらに言えば彼は高い魔力を持つのに魔法を使えないという、根本的に魔法を使えないという魔法使いには絶対なれない欠点を持つ。その点も魔法使いの側が彼を攻撃する要素になり得るだろう。そういう部分もこの国が持つ大きな歪みの一つである。



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