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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「っ!?」

「……? どうしましたリーダー?」

「……………………少し待って…………どうすれば…………ああ、そちらにではなく………………先に言っておくわ、別に頭がおかしくなったわけではないから。いっそ私だけじゃなくこの場の全員と……この場所そのものを対象にしてくれれば…………」

「あの、リーダー?」

「何が……」


『これでつながったか?』


「っ!?」

「今のは!」

「…………本当に実行した。私に届いたものですらありえないって言いたくなるほどなのに、まさか……いえ、そもそもどうやってここに? 私のことも……」


 突然のことでどう対応したものか、と迷っていたこの国に対抗するための組織のリーダー。その発現を拾ってか、いきなりリーダーを含めた組織の重要人物が集まっている状態にある場にリーダーが困惑した原因の出来事が起きる…………要は魔法によって通話、対話できるようにされた、というだけの話である。

 基本的に魔法使いでも魔法で遠くの相手と話すというのはなかなか簡単な話ではない。そもそも連絡できる通話、遠話という魔法はこの世界では基本的に作られていない……ないわけではない。アンデールとハーティアで魔法陣による連絡が行われているように特定の条件下では連絡が可能なようになっている。別にそれは魔法陣である必要もなく、魔法によって対話、通話、遠話というのは実際のところ不可能ではないわけだが、問題は必要な魔力の量……ではなくその対象に向けて連絡を取ることができるかどうか、である。拡声に近い魔法は不可能ではない。風の魔法により声を届けるという手段は割と難しくはないだろう。だがそうではない場、風、空気が通っている場所であるとはいえ、どことも知れぬ場所、誰とも知れぬ相手に連絡を取ることは基本的に魔法で無理やり行うにしても厳しいものである。だからありえない、と彼女は思ったわけである。

 まあ場所やそこにいる人物のことを知っていれば不可能ではない。ただ、彼女たちの場合は誰にも知られていない……まあ知っている人物はいるにしても今この場にいる、ということやそもそもこの場のことを誰とも知れぬ魔法使いが知っているはずはないと考えている。そういう点でもありえないと言わざるを得なかった。


『こちらは別にそちらに対する敵対意識はない……とはいっても、いきなり魔法で連絡を取られても驚くしかないか』


「魔法!?」

「まさか! こんな魔法が実現できるわけ……」

「いや、実現できないわけではない。魔法による連絡は不可能ではないのは実際幾らかの方法でわかってる」

「……だけどよ。それは相手のことを知っているとか、その場所を知っている前提があるだろ。それに……ここは建物の中だぞ? 広い場所ならともかく、密室って程ではないにしても戸が閉まり外と隔絶された場所に連絡を取ることなんてできねえよ」

「……確かに…………従来の魔法では不可能だ。つまりこれは何者かが作った新しい魔法だと?」

「ありえない! できるにしても必要とする魔力量が……距離が離れれば離れるほど必要な魔力量は多くなる!」

「っつーか先にリーダーに連絡を入れてきたってことだろ!? それってリーダーのこと知られてるってことじゃねえの!?」


 いろいろな意味で由々しき事態……ではあるが、彼らばかりで話し合っていて話に置いて行かれる連絡者。まあ連絡者が誰かといえば公也であるが。


『……とりあえず、話をしていいか? そちらでもいろいろと話し合いたいこと、言いたいことはあるかもしれない。話している通り魔力の消費も多いことには違いない。しばらく話していても問題なく魔法は使えるが、無駄に魔力を消費したいわけでもないからな』


「……ええ、そうね。まず、あなたは誰?」


『そうだな。そちらの魔法使い……先日世話になった……いや、こちらがお世話をした魔法使いは良く知っているだろうな。痛くはなかったはずだ。殺さずに済ませておいたが特に体の方とかには問題はないと思うんだが』


「っ!? まさかあの時の……」

「あの話にあった魔法使いか?」

「……おまえ、まさか」

「いえ、そんな。私は……」

「今は黙ってて……先日こちらの魔法使いが襲った馬車に乗っていた魔法使い……なのかしら?」


『まあ、そうなる。一応言っておくが別にこちらとしては悪いことはしていないぞ? 先に襲ってきたのはそっちだし、こっちはわざわざ一人も殺さずに済ませておいたんだからな。ああ、その時点で色々妙だとも思うかもしれないが……そもそもそちらが妙な集団だったから気にかかったのが理由だ。魔法使いが存在している盗賊集団なんてこの国においてはおかしいわけだからな』


「っ……確かにそれはそうね。でもどうして魔法使いだと?」


『……魔法使いを魔法使いだと見分ける手段は色々とあるが、見てそれとわかる魔法使いも世の中に入る。俺や仲間はそういう魔法使いだというだけの話だよ』


「……そう。今度から注意しておくわ。それで……あなたはこちらに何か要求したいのかしら? 襲ってきた賠償……みたいな感じで」


 わざわざ自分たちに連絡をしてくること……それがそもそも考えの外、理解できないことである。ただ、先ほど話していた襲ったこと、襲った相手であること、その点で考えれば襲った事実を理由に連絡してきた……襲ってきた賠償の請求、と考えることはできなくもない。しかしそれはそれで妙な話である。そんなことをするほどの意味があるのか、そもそもこんな面倒なことをしてまでそうする必要があるのか。何よりどうやって、という点はまだわかっていない。連絡してくること自体があり得ないこと、この場所を知られているという事実になる。襲った相手だからと言ってそれを知ることができるとは思えない。なぜここを、そしてこの組織のリーダーのことを把握しているのか。それがわからないため何とも言えないというか、どう対応すればいいか困惑する、戸惑っている感じになっている。


『そういう目的ではない……な。そもそもそんなことをする意味もない。どちらかというと金や物よりはそちらの組織のことに関して興味がある、というところだな』


「…………あなたはこちらのことを把握していると?」


『完全にではない。だからこそ興味がある……そちらの組織について詳しく聞きたい、知りたい、理解したいといったところか』


「そんなことをして何の意味が? あなたには関係のない……」


『俺に関して言えば単純に知的好奇心にすぎないが。ただ、俺たちがこの国に来た目的に合致する部分がそちらの組織にはあるかもしれない。そういう点でそちらのことを知りたい、という感じだな』


「………………」


『魔法使い至上主義の蔓延る国でわざわざ盗賊に偽装して魔法使いを殺そうとする、そんなことをする理由は大方想像できる』


「………………何が目的なのかしら?」


『最初に行ったが別に敵対するつもりはない。むしろ味方したいという意思の方があるな。正直俺はそこまで興味はないんだが……』


「……? どういうことかしら?」


『頼まれごとの解決、その頼みごとをしてきた人物的にはこの国の現状が嫌らしくてな。それをどうにかしたいが、普通はまずできない。この国を完全に崩壊させてもしなければ魔法使い至上主義の排除は難しい。それにこの国を改革するにもこの国に大きく関わる必要がある……どうやっても簡単にどうにかできるものじゃない。時間もかかるし方々の説得もしなければいけないし、根本的に魔法使い至上主義を推す存在を排除しなければいけない。時間も力も……まあ力はどうにかなるにしても、時間も人も足りていない、そこまでこの国に関わることができる要素がない。少なくともこちらにはな。だがそちらにはある……そうだろう?』


「…………なるほど。確かにそれは……ないわけではないけど……」

「一体何が目的だ!? こんなことをして、そんな話をして!」

「ちょっと」


『手を貸したい、と言いたいところだが……まずはそちらについて詳しく知りたい、といったところだな。まあ、驚かないでいてほしいが……』


「直接話をしたいと思う」

『直接話をしたいと思う』

「っ!?」

「なっ!?」

「えっ!?」

「ど、どこからっ!」


 ふっ、と組織の人間が集まっている場に突然現れる公也と夢見花と魔女。あまりにも唐突すぎて彼らも対応はとれない……対話中であったためすぐに攻撃はしてこなかったが、それでもかなり危険視はされていることだろう。もっとも魔法による対話の時点で危険視はされているだろうと思われるため、それほど危険視について問題であるとは公也は想っていない。とりあえず公也にとっては話ができる相手であるとわかった時点で十分だった。




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