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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「彼らに連絡を取るとして……いきなり連絡を取れるものかしら?」

「例の集団にか。手を貸すつもりになったのか?」

「……直接話をして為人を知ってからね。テレナの救出だけでも、それを最優先でもいいんだけど……やっぱりどうにかしておきたくはあるわ。なんだかんだ私の住んでいたところが消える原因になったし、またテレナを追われても困る。それに……テレナもこの国が変わってくれた方が少しは気が晴れるでしょうしね」


 魔女がこの国の魔法使い至上主義を変えたい理由は色々とある。自分が襲われた原因、この国のトップをどうにかしたいという気持ちも一因……理由としてはどちらが先か、それも理由にあるがやはり自分の身の安全が理由の一つ。また間違っていると思うようなこの国の常識をどうにかしたい、魔法使い至上主義などという捻じ曲がった思想をどうにかしたいという気持ちが一つ。そして助手であるテレナの扱いに関して思うところがあるというのが一つ。

 テレナの扱いが酷く、テレナが逃げ出すことになったのも魔法使い至上主義が蔓延っているから。それ自体をどうにかしたいしその嫁ぎ先で自分と戦い住む場所が焼け野原になった原因である相手をどうにかする、ついでにテレナに酷い扱いをしていた家族への報復。魔女としてはそのあたりをどうにかしたい。ただ、やはり最優先はテレナの救出。のんびりそういった組織に手を貸しテレナが死んでしまえば手を貸す意味などまるでない。仮に死なずとも酷い目に合うのはあまり好ましくないし、できれば急いで何とかしたいとおころである。

 いきなり手を貸す、とまではきっぱり言えない。一応公也を相手にした魔法使いが仲間を集め話し合っている場を盗み聞きしたわけであるが、そこで聞いた限りはこの国に反抗する魔法使い至上主義に対して思うところがある、どうにかしようと画策している集団であるという推測は立つ。しかしそれは確定したものではない。あくまで話し合いからそうなのではと考えられるだけで実態は不明だ。またそう画策しているからと言って彼らが善人であるとも限らない。この国を現状支配している魔法使い至上主義をどうにかしより悪い形にしようとしている可能性もある。あるいは魔法使い至上主義をそのまま、横暴などを許さないだけで魔法使い上位は変わらないままに国を支配するかもしれないし単に今のトップを気に入らない、あまりに強すぎるから危険視しているだけかもしれない。

 ともかく、今すぐ手を貸す……というわけにはいかないということでまずは相手と対話することを優先する。そのため連絡をするべき、という考えである。


「いきなり連絡して驚かれると思う」

「まあ、そうだろうな」

「……相手についてどこで知ったのか、とかいろいろと怪しまれるわね。あるいは敵対する側の人間かと疑われたりもするかしら?」

「そこまで気にする必要もないとは思う……とはいえ、好意的に対応してくれるとも限らないな」


 相手方に連絡を入れる……といってもどうやって入れるものか、という話になる。手紙、連絡員を送る、相手方の人員を捕まえて話を通す、直接来訪する。手段は色々とあるが、問題はその手段が相手にとって良くない……危険視される、敵かと疑われる、そういったことが起こりかねないという問題になる。一応彼らは多少バレてはいるがどういう組織かは不明だしその本拠地も基本的に仲間でなければばれない場所である。もちろん彼らの仲間から聞き出すとかそういう手段もあるがそれはそれでやはり敵と思われるものだろう。自分たちで見つけ出すにしても、そもそも彼らが何を目的に活動しているのか知らなければ探し出すということをする意味もない。つまり彼らの目的を知って近づいてい来る……まあ、どう考えても怪しいと思わざるを得ない。魔法使いであればなおさら、この国における魔法使い至上主義は魔法使いにとっては都合のいい思想だ。もっとも彼らみたいな組織がつくられることを考えれば決して全ての物が盲目的にその思想に浸っているわけでもないのだろう。とはいえ、その主義につくことで得られるものの価値は大きい。それを捨ててその思想への反抗組織に手を貸そうというのは果たして普通だろうか。何か裏がある、と思うべきだ。あるいは本当に手を貸すつもりでも何か目的があって近づくものだろうと彼らは考えるだろう。その点で結局怪しまれる疑われるのは仕方がない話。もちろん公也たちも目的や理由があって彼らに手を貸すのだからそれ自体は間違いではないわけである。


「……どうあがいても好意的に対応してくれるとは思えないわね」

「そうだな。そもそも彼らとしては誰かに知られるつもりはない組織だろう。それがいきなり連絡を取ってくる、しかも調べれば自分たちの仲間が襲った相手だ。明らかに怪しい……というか下手をすればこちらを危険だと思って闇討ちしてきたりするんじゃないか?」

「そこまで極端とは思えない。でも怪しまれる可能性は高い」

「……魔法で連絡を取る、というのはありだけど」

「できるけど結局怪しいことには変わりないな。手っ取り早く話はできるが。こちらの実力を示すこともできる」

「間接的な連絡手段よりははっきり連絡を取れる分いい。一番手っ取り早いのは相手のところに侵入すること」

「カチコミか」

「別に攻撃する意図はない。ただ相手のいる場所はそうだと知られていない隠れた場所。そこに入り込めるということはそれだけ情報収集ができるということでありまた誰にも知られず入ることができる手段を持つということ。己の実力証明になる。どう頑張っても怪しまれたり疑われたりするならこちらの実力を示し有利に話を推し進めることができる方がいいと思う」

「……ふむ。確かにそれはありか」


 実力の証明、というのは何も力ばかりではない。話した通りの魔法による連絡手段も普通は存在しないような魔法でありその魔法を使える、声を届けることができるほどの実力を有するという証明にもなる物である。それもまた実力証明の一つであるが一番手っ取り早いのは相手のいる場所に入ること。相手方のことを考えれば無理やり力で押しとおるようなことをするよりは誰にも気づかれずに入り込むような隠密か、あるいは直接相手のいる場所に乗り込むような転移手段を使う方がいい。特に後者は多くの魔法使いでもなかなかできるようなことではなく、入ったこともない未知の場所に複数人でいきなり入り込むというのは相当な実力を有する魔法使いでなければできない。

 まあこんなことをしなくとも公也の魔法使いとしての実力は彼らの仲間が直接経験し知るところである。その仲間に面通しできればその時点で公也の実力は判明する。とはいえ、そういった手間をかけずとも相手のいる場所に直接入り込む方がよほど手っ取り早く己の実力を証明できる。一応危険がないわけではない。いきなり入り込み侵入者として認定されれば彼らが、彼らの仲間が公也たちを敵と見て攻撃してくる可能性がある。実力の証明にはなるが敵かどうかの判断においてはより敵として見られやすい危険はあるだろう。どちらがいいかは結局のところ彼らの考え方次第と言える。


「……いきなり入り込むのはやめておいたほうがいいかな。いや、それをしてもいいが……その前に魔法で連絡を入れる、というのがいいだろう」

「それもそれであまり向こうは良い反応はしないでしょうね」

「だが事前に言っておけば入ってきたからいきなり攻撃する、ということはしないんじゃないか?」

「そもそももっと穏便に連絡を取ればいいと思うんだけど……」

「時間も手間もかかる。早くしなければいけないというのはどちらかというとそちらの意見だろう?」

「……確かに穏便に話し合いするにはいろいろと場所や人、相手方はこちらの情報収集もしたいだろうしこちらのことを甘く見るなら間を置いたりもしてくるかもしれない……と考えると微妙なところはあるかもしれないけど」


 魔女としてはできれば急いでほしいところ。そう考えれば直接乗り込んで話し合いをする方がよほど手っ取り早くはある……が、それはそれでどうなのかとも思うところ。まあこの辺りの事柄に関しては話し合いで決めてはいるが最終的な決定権は公也にある。公也がどうするか、それ次第……となると結局魔法で連絡し一気に入り込む、という形になるのだろう。その行為自体を魔女自身は決して拒絶、否定はしない。彼女もそれ自体を決して悪い方法であると断定するほど強く考えているわけではないゆえに。




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