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「たった二人だと!? なめるな!」
「舐めてはいない。っと、もう一人来るぞ! フーマル頼む!」
「了解っす!」
城の中に侵入し出てくる兵士を相手に公也とフーマルが戦う。兵士たちも現在の城の状態にかなり混乱しているのか、装備を整え纏まって移動するということをしていない。各人分散して出会ったら即襲う、と言った感じだ。少なくとも今のところは。公也とフーマルが倒した兵士の死体を見れば相手の危険性を理解して纏まるようになるか、あるいは公也たちを見つければ仲間を呼ぶようになるだろう。
もっともこの城にそこまで伝達性のある設備はない。城としてはそこまで巨大というわけではないのである程度探して見つけようと思えば見つけられるだろう。外から見る限りでは二階か三階と言った感じである。そこに駐留する兵士の数もそこまで多くはない。そもそもワイバーン部隊というものじたいそこまで数は多くない。本来の城なら雑用など兵士としての仕事以外の仕事をする人間もいると思われるがこの城は山の上にあり普通の城と違い人の行き来が難しい。ワイバーンに乗れるような人物でなければ来ることも難しいということもあり、ここにはワイバーン部隊しかいない。
つまりワイバーン部隊を全滅させればこの城を奪取できるということである。いや、それは少し話が飛びすぎな気がしないでもない。
「はっ!」
「ぎゃっ!」
流石に急ぎだったためか装備もきちんとつけているが、しっかりとはつけていない。それでも普通に戦う分には問題はないが、相手が公也ではまず力でごり押しされてしまう。基本的に公也は魔法を使うことの方が多いが剣も使える。魔法も合わせ魔法剣として剣士としてはちょっとしたずるい戦い方をするものの、剣士としても決して弱くはない。そもそも力が普通の人間よりはるかに強く力押しされるとまず勝てない。
「っと! やっ!」
「くっ……! 速くお前を倒しあちらを……」
「もう終わってるっすよ! 師匠! 降参したら助けるとかないっすかね!」
「ない」
「……そうはっきり言われるとこちらも抵抗せざるを得ない!」
「師匠ー!?」
今回の目的は城の奪取。生かしておいてもいい……と思わなくもないのだが、公也は殲滅して確実にこの場所の情報を知る人間を減らし、また脱走の危険も排除するつもりである。そもそもワイバーン部隊として働いている兵士は可能な限り減らしておいた方が都合がいい。教育を受け経験を積んだ兵士は価値が高い。また戦争でワイバーンを駆りキアラート側を窮地に追い込まれたら困るのだから。
「もう、やるしかないっすね!」
「なっ! くっ! ぐああっ!?」
公也に対しフーマルは比較的一般的な能力である。決して強いとは言えない……今のところは。だがこの場において兵士を相手にすることくらいはできる。実を言うとワイバーン部隊の兵士は兵士としては真ん中よりも少し上くらいで強いと言える兵士であり、フーマルはそれを相手にして悪くない戦いをする、善戦できるくらいには強い。というか勝ってる。それくらいには強いので本来は弱いとは言えない……だが強いとも本人は思っていない。決して強いとはいえない、というのは基準がどこにあるのか。
「はあ……なんとかなったっす」
「死体は回収しておく。後で装備をはいで、死体もできるだけ無事で返す……まあ死体だけ返されても向こうも困るか? 装備は残しておいた方がいいか……」
「師匠、やっぱり生かして捕まえるのじゃ駄目っすか?」
「今後戦争になった時また出てくる。相手の戦力は削いでおいた方がいい。もしかしたらワイバーンを使って逃げる可能性もある」
「……それでも、っすよ」
「…………そうだな、全滅はさせなくてもいい。ただ殺すべき時を間違うなよ? 容赦はするな、油断はするな、躊躇はするな。あと、気絶させるなり捕まえるなりしたら俺の所に連れてこい。容赦なくそれ以上に捕縛する」
「ええー……面倒くさいっすねー」
「生かしたまま残すよりいいからな。っと……別行動するぞ。風よ彼の者のみを守る鎧となり襲う矢弾と刃を逸らせ、ウインドアーマー」
「おおっ?」
「一応攻撃を受けてもある程度は逸らしてくれる魔法をかけた。行ってこい。俺もちょっと別行動するからな」
「ええっ!? 一人でっすか!? 死んだら恨むっすよー!?」
公也とフーマルはそれぞれで行動する。フーマルは兵士を殺さずに済ませられるように、戦争ではあるが無駄に殺さずにいられるように戦う。公也の方は一人で行動している。目的とする方向は一直線、この城における重要人物の部屋。
「くっ、一体何が……!」
「敵襲だろう?」
「誰だっ! 貴様は……何者だっ!」
「キアラートの軍に所属している扱いの冒険者。ワイバーンの出所を潰しに来た」
「なんだとっ!」
「悪いが死んでもらう」
この城における城主……厳密にはワイバーン部隊をまとめる司令官、部隊長ともいえる人間である。その人物の元に公也は赴いた。なぜ彼がここにいるのかが分かったのかというと、単純に入口で兵士を殺す際に頭を食らいその情報を取り込んだから。ここにきて部隊長と言える人間を相手にするのはその情報を取り込むため。公也はキアラートの所属であり別に軍属というわけでもない。その手に入れた情報をキアラート側に渡す必要性はないが、さまざまな国際情勢、国の状況など情報としていろいろとこの世界のことを知りたいと思っている。また入口の兵士から気になる情報を手に入れたのもある。そのため部隊長である彼から情報を得るため、ということでここまで来たのである。
そして公也の情報収集手段であり、最大の攻撃手段、一瞬で相手を殺す頭部を暴食にて食らうという攻撃方法に寄り一瞬で部隊長が死んだ。そして公也は食らった頭部からそこに存在する知識、部隊長の持つ情報を己に取り込みいろいろと情報を手に入れる。
「…………ふむ。城の主か。城魔……そういうものもいるのか」
この城はただ作られた城ではなく、魔物の城、魔物である城。城魔と呼ばれる存在。そしてその意思らしい何者かがこの城にいるらしく、公也はそちらへと向かう。話を聞きたいというのがある。最悪の場合殺して終わらせることになるが、とりあえず向かってみることにした。敵ならば殺すしかないが、そうでないのならばその時々でやるべきことは変わる。城の意思であるならいなくなれば城が崩れるかもしれない、そうではないかもしれない。分からないがとりあえずこの城にいるトルメリリンの兵士ともまた違う様子であるため、そちらへと歩を進めた。
※主人公は割と容赦ないがフーマルはそうではない。一般人相応の感覚。異世界の争いの身近でない国出身の方が容赦ないのはどうなのよ。
※山の上に突然現れた城はそれ自体が魔物。トルメリリンが発見したのはキアラートに攻めるルート探し途中の偶然。その結果利用され現在に至る。
※城の魔物、城魔。建物そのものが魔物だが別に脅威となり得ることはなくそのまま建物として利用できる。内部に城の意思、あるいはその代弁者ともいえる存在がいるが基本的に脅威にならない。城を倒す場合は単純に城を解体するだけで事足りる。当然解体した城は物資として使える。解体した物資から城を作っても城魔にはならない。ちなみに城魔とは言うが厳密には城以外の建物で生まれることもある。基本的に城が多いので城魔という名前になっている。




