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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「とんでもない実力の魔法使いね……それで。その魔法使いはどうしたの? こちらを殺さず去っていった、というのはわかったけど、一体どこへ?」

「どこって、別にどこに行ったっていいんじゃないですかい?」

「いいわけがないわ。それだけの実力の魔法使いを放っておけるわけがないでしょう。この国の内情を顧みなさい」

「……確かに放ってはおけないですね。高い実力を有する魔法使いはこの国において下手な魔法使いよりも立場が高い。乱暴狼藉を働く有象無象の魔法使いも問題ですがそれほどまでの魔法使いがこの国のルールに乗っかるとなると……」


 この国において魔法使いは優遇される、魔法使い以外は家畜と同じような……というほど極端ではないが魔法使いには及ばないと下の立場の扱いを受ける。そして魔法使いの中でも実力によってより優遇される。話にあったほどの実力のある魔法使いであるとなるとその優遇はこの国のトップ……には及ばないが相当な優遇を受けるとみていいだろう。それを放置しておくわけにはいかない。

 まあ敵対しないのであれば襲ってこない……もともと彼らを生かしておいた当たり甘いというか優しいというか、少なくとも積極的に人殺しをするようなタイプではないだろう。傲慢で自分勝手に横暴を働くこの国の殆ど多くの魔法使いとも違う……恐らくは他国の魔法使い。実力的にもこの国で今まで見られていない以上そうみるべきである。そんな人物に無意味に手を出す必要はない……排除、殺害するべきかどうかという点ではそういう点から手を出す必要を感じない。

 しかしもしこの国に迎合した場合はどうなのか、ということにもなってくる。それだけの実力を持つ魔法使いが魔法使いの国に所属する……魔法使いの国は魔法使い至上主義を掲げる国、他国とも魔法使いが上であると争いになることもある。その際戦力として使われるのは当然魔法使い、それ以外の兵も使われないわけではないのだがやはりこの国では魔法使いの方が力関係では強い。まあそのあたりの軍とかそういう方面の問題はさておき、魔法使いという存在は強大な戦力である。この国では魔法使いをより積極的に運用している。そんな軍寄りの役目を強大な魔法使いが引き受けた時……極めて厄介なことになる。


「こちらとしてもあまりに危険な事態になる……トップのあの男がいるだけでも相当やばいのに、そこに同じような強い魔法使いが入るとなると……」

「ああ、凄く困るな」

「……この国に強大な魔法使いが増えるとなると、厄介だ。どうにかしなければいけない」

「だが殺すのも容易ではないだろう。現に襲おうとした彼らがあっさり撃退された」

「確かに……」

「いえ、別に殺す必要性はないのよ? この国から出て行ってもらう……本当はこちらに加担してくれるのが一番だけど」

「それも難しいでしょう」

「……いきなり誘うのも難しいですからね」


 この国に高い実力を持つ魔法使いが増えた時、彼らにとっては結構面倒なことになる。それゆえにどうにかしたいところであるのだが……それができるほど簡単でもないだろう。この国にただ旅行に来た、というのも妙な話、冒険者にしてもちょっと考えづらい。そもそも彼らを容易に退けるだけの魔法使いとしての能力を持つ人物である。この国における魔法使いの扱い、立場を考えると自分みたいな高い実力を持っている魔法使いは優遇される……それくらいは考えられるだろう。下手な国で頑張るよりもはるかに優遇されいい生活を送れる……そうなるとわかってこの国から出て行くことを選択するだろうか。自由を求め多くの事柄よりも優先することの多い冒険者辺りは分からないが、ただの魔法使いであればこの国に居つくことも珍しくはない……かもしれない。


「それで、重要なのはどこに向かったか、よ。この国から出て行くつもりならいいのだけど……」

「そ、それは……その……」

「どうなの?」

「馬車の向かった先は恐らく王都方面かと……」

「…………ただ偶然そちらに向かっていっただけならいいのだけど。もし自分の実力を売りつけるつもりだったなら……本当に厄介なことになるわね」

「今すぐ止めるべきですか?」

「しかし急いで行って間に合うのか? ここからその人物を追って間に合うか?」

「そもそもどういう人物かもわかっていない……わかっているのか?」

「…………はっきりとした特徴が少なく。見た目ではっきりとわかるほどでは……いえ、彼が外国人であるということはわかります。それだけははっきりとわかるものではありました」

「その程度の情報だとな……」

「ああ、そういえば……」

「そういえば?」

「何やら一緒に二人の女性がいました。外に彼が出てきたとき、その二人も一緒に……」

「…………恋人? いえ、流石にそれはないか。この国のルールに順応しているなら誰か無理やり連れてきた……いえ、その人物はその二人を連れて出てきたの?」

「いえ。彼が降りてきた後、その二人も降りてきたようで……」

「自分から……冒険者であれば仲間とかなのかしら?」

「その二人は目立つのか?」

「一人はそれなりに……もう一人はあまり、でしょうね。とはいえ、遠くからしか見えていないのでそこまではっきりとは……」

「先ほど魔法使いの人物についてもある程度話していたのにか」

「まあ、ある程度は見えています。それではっきりわかるほど、というのがそれだったというだけですから」


 結局わかったのは彼らがある程度目立つ外国人らしき人物であるということだ。そして彼らの向かう先はこの国の中心の方である。これはこの場に集まっている彼らにとっては由々しき事態……このまま彼らをこの国の中心方面に行かせていいのか。とはいえ止めること自体が難しいし止めるにしてもどうやって止めるか、そもそも探し出すのが難事である。その人物がこの国に所属しないように、それを期待するしか彼らにはできないのかもしれない。




「……ふむ」

「なるほど」

「……聞いている限りだと、彼らはこの国に敵対しているのかしら?」


 その会話を話題の人物が聞いていることに、彼らは気づくことはできなかった……まあ気づけるはずもない。魔法によって居場所を感知し声も見ているものも聞こえるようになっているなど、彼らの知る魔法では到底できるものではないのだから。さらに言えばその魔法は隠蔽されている。気づけるはずもないだろう……それを探知する術も彼らは持っていないしそんな魔法があることすらわからない。前提として考えることすらできないのだから。


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