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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四十一章 魔法使いの国
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「おい」

「ん?」

「お前じゃない。そこの女ども……なかなかいい見た目じゃないか。よし、いいぞ。俺の伽をしてもらおう」

「………………」

「いきなり何なのこいつ」

「……見た目は魔法使い。能力的にも魔法使いではある」


 いきなり公也たちに声をかけ、妙なことを行ってくる男性……見た目は魔法使いである。夢見花が見る限り魔法使いとしての能力もきちんとある。この国においては特権階級……というよりは他の有象無象の人間より上の立場にある存在だ。そんな人物が通りがかった女性を相手に伽を要求する……普通なあり得ないがこの世界においてはあり得なくもない。魔法使いである彼らにとって魔法使いでない者は好きに使っていい道具、玩具、奴隷、そんな認識である。もちろん全員がそう認識しているわけではないが、基本対等な立場とみなされないというかあまりいい扱いを受けないのが魔法使い以外の者。ゆえに魔法使いがこういう行動に出てもおかしくはない。人間扱いされないというわけではない。伽を要求する以上は人間として見ていることには間違いないだろう。

 もっともそれは魔法使いでない人間が相手の場合。公也、夢見花、魔女の三人は魔法使いである。一応はこの国の所属の魔法使いでないのだが……それでもこの国においては魔法使いであるというだけで立場が違う。出なければ魔法使いギルドという形で他国から冒険者が来て仕事をするなんてことはできないだろう。まあこの国の雰囲気というかルールに馴染めず他国から来た冒険者は割とすぐに出て行く。残る者もいるが各人色々事情があるからだろう。


「でもそれほど強い魔法使いじゃない。その割に偉そう」

「なんだと!?」

「……魔法使いだが強くはないか。それなのに無理やり女性を……そういうことができるのがこの国か。魔法使い至上主義も行き過ぎれば問題だろうな」

「いや、行き過ぎなくても問題でしょ……って、そんなことを言っている場合?」

「貴様ら! この俺を誰だと思ってる!」

「……誰なんだ?」

「知らない」

「知るわけないでしょう……知っているはずがないわよ、普通」

「なんだとっ!」

「ああ、だめ、話になりそうにない……」

「貴様ら! 死ね! 炎よ燃え盛り我が怒りを与えよ。我が怒りの炎! ジャイアントフレイムボール!」


 詠唱とともに人一人くらいは包めそうな大きさの炎の球が頭上に現れる。それを男性は公也たちへと振り下ろした。


「風よ斬り避け」


 その炎の球をあっけなく公也が短い詠唱で切り裂く。


「なっ!? 貴様、魔法使いだったのか!?」

「……相手が魔法使いであることがわからないのか?」

「魔力を感じることができるなら相手が魔法使いであることは分かる……でも魔法ならともかく人の保有している魔力の感知は個々人で違う。そもそもそれを容易に感知できるなら公也の存在は魔法使いに対して恐怖をばらまくような存在であることになる」

「……そうね。彼の魔力は膨大だもの。魔力勝負とかしようのならこの世界の魔法使いは確実に勝てないでしょう」

「……そうか。しかしなら魔法使いであることはどうやって?」

「見た目で判断できるようにしているか、あるいは何らかの魔法道具か印みたいなものを用意しているのかもしれない。冒険者証みたいなもの……ではなく誰が見てもわかるようなものかもしれない。ただ彼がそれを有しているかはわからない。あまり私たちとの持ち物の違いがわからない」

「一目で魔法使いとわかるような典型的な魔法使いらしい見た目をしているわ。もっともそれ以外の要素で魔法使いと示す者があるかはわからないけど」

「……さて。この国において魔法使いが多くの人間よりも上の立場の階級の人間だというのはわかっている。だけど同じ魔法使い相手に狼藉を働くなら……どう扱うべきだろうな?」

「…………お、俺は悪くないぞ! 貴様らが魔法使いであるとわかりにくいのが問題なんだからな!」


 随分な責任転嫁である。とはいえ、今回の場合彼の方が立場としては悪い。魔法使いが優位な立場として立つこの国においては魔法使いとそれ以外だけではなく魔法使いという存在においても格付けによる立場の差があったりする。公也と彼では明らかに公也の方が魔法使いとしてはうえで、さらに言えば一緒にいる夢見花や魔女もまた魔法使いとしては彼よりも格上となる。つまり自分より上の魔法使いに手を出したということで彼の方が悪いと扱われるだろう。まあ彼の言う通り公也たちが魔法使いとしてわかりにくいというのは間違いでもない。しかしそれで自分の過ちが許されるというわけでもない……まあ公的に魔法使い同士の争いを仲裁する存在はいない。いるとすれば最上位の魔法使い、彼らよりも上の魔法使いであり、魔法使い同士の争いは結局のところ当人同士で決着をつけるしかない。ある意味では街での問題を解決する衛兵とかそういう存在が機能していない弊害でもある。魔法使いの問題でなければ彼らも出張れるが魔法使いの問題となると彼らは手を出せない。ゆえに魔法使い同士で解決するしかないのである。


「とりあえず……いや、俺がどうこうする問題でもないか。夢見花と魔女はどう判断する?」

「……女の敵だから正直殺しておいた方が良くない?」

「さ、流石に殺すのは問題だぞ! 貴様らも牢獄に入れられるからな!」

「この程度の存在どうでもいい。虫がまとわりついた程度気にしても仕方がない」

「虫……虫だとっ!?」

「……あなたの言い方は結構色々と喧嘩打っているように聞こえるわね」

「じゃあ虫らしくぷっちと潰して報復ということで。風よ圧せ、圧せ、圧せ。エアプレス」

「ぐおおっ!?」


 空気の塊、それを固定したものに男性は押しつぶされる。重量はない……空気だから重さはないと言えるのだが……しかし重さがなくとも物は迫ってくる。押しつぶすかのように上から圧力をかけてくるそれはじわじわ男性を地面へと押し付けて行って……それだけだった。流石に本当に潰したりはしない。ただ潰したかのような状況に追い込む、というものでしかなかった。とはいえ……もしかしたら潰されるかもしれない、と感じるのはなかなか恐ろしいものだろう。それに重さがないというのもより奇異さが増すものだった。




「しかし……ああいうのが蔓延しているとなるとなんとかしたくはなるな」

「してほしいところね」

「簡単じゃないだろう。国の方針転換、蔓延った魔法使いが上位の立場という常識を変える……あっさりできることじゃない」

「……そうね」

「それに他国のことに責任を持てるわけでもないからな」


 公也にはこの国に起きている問題に手を出せない。出してもいいがその後公也が関わり続けるわけにもいかないだろう。そういう点で公也はやはりこの国に来た当初の目的としてテレナの救出に行くしかやれることはない。



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