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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
間章 様々な出来事
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「ほう、出てきたか」

「ここまでしておいて出てこないわけにもいかないでしょうに……お前が私の魔法を無理やり奪いこちらに連れ出した。それで合ってるわね?」

「いかにも……ふむ、そしてそちらにいるのは我の物となる女か」

「えっ……」

「おお! テレナ! ようやく見つけたぞ」

「……お父様」

「さあ、さっさと戻って来い。そちらの貴きお方の下に嫁ぐのだ……予定通りな!」

「…………嫌です!」

「なんだと! 貴様、出来損ないの分際で我々に口答えするのか!」


 魔女の助手をしているテレナが家を出た理由はどこの誰とも知れない相手に嫁ぐこと、それが一つの理由である。しかしそれ以上に理由として大きいのは今言われた通り、テレナが魔法使いとしては出来損ないであるという事実をさんざん言われていること。これに関しては彼女は一般的な魔法使いには劣るが魔法は使えないわけではない。ただ、彼女の住んでいた国の事情、また家の事情が大きい。彼女の家は魔法使いとしては優秀な魔法使いを輩出してきた大家。その中で普通の魔法使いより劣る魔法しか使えないテレナは出来損ないと言われてきた。

 しかし彼女の血は大家の血、その価値は大きい。彼女は出来損ないでもその子は優秀であるかもしれない。そういうことで彼女は優秀な魔法使いの下へと嫁ぐ事となっていた……が、相手が相手、今ここに他の魔法使いを従えて魔女と話した男性が相手である。魔法使い以外に価値はない、と他の優秀な魔法使いですら置いていくような人物、そんな人物の下に嫁ぐのだ。そもそもテレナは魔法使い至上主義ともいえる自国の考え方についていけなかったし、相手が実力のありすぎる魔法使いでは自分が魔法を使えないという事実がコンプレックスとなっていろいろな意味で嫌になるし、魔法が優秀でない自分がどのように扱われるか不安があった。

 だがそれで国外へと逃れまさか魔女の下で助手的なことをしているとは普通はなかなかないことだろう。むしろよくここまで来ることができたというか……魔法使いとしては劣っていると言われているが意外とそこまで無能というわけではないのかもしれない。もっともその事実は彼らには関係ないが。魔法使いであるかどうか、どの程度魔法を使えるかどうか。彼らにとっての基準はそこでありそれ以外は一切評価に入らない。どれだけ強かろうとも魔法使いでなければ無価値なのである。捻じ曲がっている魔法使い至上主義と言える。


「うるさい。黙れ」

「し、しかし」

「黙れと言ったが?」

「…………」


 圧倒的な上位者の立場の物言いでテレナとその家族の言い合いは一方が黙ることで中断される。


「さてうるさいのが黙ったところで話をしようか。いや、なに、語るようなこともないのだがな。我はその女を連れて行く」

「あら。人の助手を勝手に連れて行くつもりかしら? それにそこの男性のようにろくでもないことを言い出すんじゃなくて?」

「ろくでもない? ふむ……確かにそこの女は魔法使いとしては大した力も持たない。我が国においてそれはあまり扱いは良くないだろう。だが魔法使いである以上は問題ではない。その女は魔法を使えるのであればそこらの有象無象のゴミよりもマシだ。そしてその血は魔法使いの一族として濃く強い魔法使いの血だ。そしてもともとは我に差し出された物。であれば我の物であろう? 我は当たり前のことしか言っていないのだが」

「…………価値観が全然違う。考え方も……これはちょっとだめかもしれないわね、色々な意味で」


 価値観の違いで魔女の言い分は効いてくれない様子である。一人の女性としてテレナを扱っておらず、さらに言えばもともと自分の所に来るのだから自分の物であるという扱いだ。そもそも貴族的な立場であるテレナの家からすれば娘は政略婚の道具のようなもの。彼女が魔法使いとして劣等であることを踏まえればそれこそ本当に道具として扱われることもあるだろう。彼らからすればとても優秀な魔法使い相手に嫁げるのだからそういう点ではとても扱いがいいことになる。まあ嫁ぐと言っても正妻とかそういう立場でもないろう。血を残す、子を生すためだけに使われるための道具、嫁ぐと言っても立場的にはそんな感じ、その程度の物だ。


「しかし助手か……ふむ、であれば我の物となったそれを貴様に貸し付けるのもいいだろう。貴様も我が国にきて魔法使いとして優秀な能力を見せるが良い」

「は? なぜそんなことをしなければいけないのかしら」

「貴様は魔法使いとして優秀だ。それは貴様の使っていた魔法を見ればわかる。あのような魔法、我が国でもできる者はほぼいないだろう。我ほどの優秀さを持たなければ貴様から奪うようなことすらできん。そんな魔法使いがこんなところにいるなど、世界にとっての損失だ。貴様の価値は相当なものだろう。それを我が国に生かせば我が国はもっと良くなる。この世界を魔法使いの物とするため、貴様にも手伝ってもらいたい」

「…………褒めているみたいだけど、褒め方がうまくないわね。そもそも自分の方が上だと思っているでしょうに」

「当然だろう。我の方が貴様より上だ。まさか貴様の方が我より上だと言いたいのか? 笑わせるな。我を超える魔法使いなどこの世界にはいない」

「………………」


 この物言いである。魔女のことも価値は相当なもの……計り知れないとかあまりにも高い、という雰囲気はしない物言いである。まあ彼からすれば他の魔法使いはその程度の扱いなのだろう。実際魔女も自分の魔法を奪われている。そういう扱いをされても仕方がない……とは言えないが、そういった物言いができる程度には彼は優秀だと認めざるを得ない。そして彼の言うこの世界に彼を超える魔法使いがいない、という点でも……たった一人を除けば今の所魔女に彼に匹敵する人物すら思い浮かばない。なので間違っているとも言い切れない。とはいえ、自分が彼に劣る……そう言うつもりもないのであるが。


「ふうん……なんであろうと、彼女を渡するつもりはないわ」

「ほう。では我が力づくで奪うとしよう。ついでに貴様も……力を見せつけ圧倒すれば我に従うだろう。魔法使いとしての格の違いを想知らせてやろうではないか」

「お生憎様……魔女と呼ばれるだけの実力、あなたに見せつけてあげようじゃないの」

「我に魔法を奪われた程度の実力しかない分際で言うじゃないか! はははははは!!」


 魔法使い同士の魔法による戦いが始まる……なお、男性についてきた者たちとテレナは巻き込まれないように下がっている。広い場所で魔法使い同士が大規模の魔法を使うという状況は彼らにとってはあまりにも危険すぎる状況……ぶっちゃけ逃げたい。特に男性についてきた者たちは彼の実力を知っているがゆえに、余計に。



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