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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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23


「さて、夜になったな」

「そうっすね」

「それじゃあ侵入かしら?」

「その前に誰がどうするか、を先に決めておいた方がいいな。それに暗い。いくらでも目をどうにかする手段はあるが、さすがに暗い中でどうにかするのはあれだ。明かりを準備したほうがいいだろう」


 この世界における夜である。明かりはどうしても少ないだろう。それにこんな人が来ない侵入してこない場所にある建物、その中にいる彼らが夜だからと言って侵入者が来るかもしれないと危機感を抱いているとは思えない。見張りはいる。もっとも見張りはそれほどその役割を果たしているとは思えないが。どちらかというと外からの侵入者よりもワイバーンの方に危機感を抱いていることだろう。それくらいに彼らの危機意識は外に向けられていない。

 ゆえに侵入自体は難しくない……が、闇雲に侵入し大暴れすればいいと言うわけではない。単純に公也が頼まれた仕事を果たすだけであれば城ごと暴食ですべてを食らい消し去るのが一番手っ取り早い。しかし公也はそうするつもりがない。一応フーマルの師として実力をつけさせるため兵士との戦いの機会を用意するつもりではある。夜に襲い奇襲で不意打ちの状態だがそれでも兵士との戦いであることには変わりない。また城攻めというあまり経験のない出来事、そういう意味でもまた今回の機会は悪くない。

 そのため侵入後の手順、それぞれの役割を決めておくわけである。もっとも三人しかいないので役割を決めると言うほどあれこれするべきことが分散するわけではないと思われるが。


「準備っすか……それに何をするか決めるってどういうことっす?」

「内部でどう行動するか、だ。わざわざ入り込んで俺たちが襲ってきたと示す意味はないだろう? 寝ているところを襲い不意打ちで倒す。戦いの経験としては微妙だがわざわざ起こさせて準備をさせてから戦うのは流石に愚かだと思う」

「まあ、確かに今から侵入するって言うのに起こして戦うのは変っすけど……」

「私が入り込んで全員毒で殺してきましょうか?」

「それはダメだ流石に」


 ヴィローサ、公也、極端なことを言えばこの二人だけで城攻めなどが容易にできてしまうのだが、さすがにそれは問題である。今回のことに関しては、公也とフーマルが兵士たちと戦った、という事実で締めたほうがいい。多少実力的におかしい、ありえないと思われるようなことはあるかもしれないが少なくとも兵士全員が毒殺されるよりも現実的であり、ヴィローサという危険分子を表に出さないでいられる。少なくともヴィローサを色々な意味で大暴れさせるわけには行かないのである。


「ヴィラはワイバーンたちを抑えてくれ」

「殺せばいいのね」

「殺したらダメだ。殺さず、麻痺させるか眠らせるか、あるいは普段やっているように恐怖で抑えてくれ」

「……むー。しかたないわ。キイ様が言うのならそういう風にします。あまり得意ではないけど」


 今回に関してはヴィローサはワイバーンを抑えることを目的とする。この場にいるすべてのワイバーンを殺さず残す、それが公也が城を攻めるうえで行っておきたい事柄の一つだ。


「ワイバーン殺さないっすか?」

「勿体ない。せっかくの乗り物だし、生かして置けばいろいろな形で使える。一体解剖してみたいしな」

「うえ……師匠のそういうところはおれよくわからんっすよ」

「それに帰りもあるしな。フーマル、もう一度山を普通に降りたいか?」

「…………いや、さすがにそれは嫌っすね。魔物多すぎっすよ!」

「だからだ。ワイバーンに乗って空を飛んで帰る……まあジェルシェンダに向かうと襲われる危険があるだろうが。その場合このキアラートの軍である印をつけておかないとダメかな……その辺りはいろいろと考えておかなきゃだめか」


 ワイバーンを生かしておくのは公也の欲求、知識欲を満たす目的もあるが単純に帰り道で空を進み楽に変えることが目的の一端である。登りの道中でかなり魔物や獣に襲われ山を登るのにかなり難儀し苦労した。流石に公也も同じ苦労をしたくはない。知識的な欲求、経験的な情報を得たくないと言うわけではないが無理にそれを得る必要性がないとも感じている。あらゆる知識を得る、を目的とするが機会があれば何でも知識を得ると言うつもりではない。その内容、その手段、苦労や面倒なども考慮したうえで行動する。つまり帰り道の道程の経験を得ることよりも面倒臭いと言う事実の方が勝ったのでそれを解消するうえでワイバーンに乗るということだ。逆にワイバーンに乗った場合の感覚、従属させての操作の知識や経験も得られる。そういう点でも悪いわけではない。


「城にいる兵士に関しては俺とフーマルで全滅させる。ああ、ヴィラは厩舎に近づいてきた兵士を毒で麻痺させるようにな。入口に入ってきた相手を麻痺させるようにしておけば恐らくは大丈夫だと思うが」

「わかったわキイ様」

「もし危険なら自分の命を優先するように。ワイバーンの確保は後々面倒になるが絶対的に優先することじゃない。逃げざるを得ない場合俺のところまで来て報告を頼む。厩舎を潰してワイバーンを殲滅しなきゃいけないからな」

「はい!」

「俺は師匠と一緒っすね。でも兵士っすか……夜、暗い中で……明かりは師匠が用意するっすよね?」

「ああ。魔法でな。夜目を聞くようにしようかとも思ったが……暗殺が目的じゃないし、敵に襲撃を知らしめたほうがわかりやすい。逃げるよりも立ち向かう方を選ぶ可能性は高いだろうしな」

「そうっすか?」

「この山を一人で降りられるか? ワイバーンの場所にはヴィラがいるから入れない。逃げ切れるかな」

「あー……」


 ワイバーンの乗り手であるとはいえ、彼らのいるこの山の過酷さは彼ら自身が理解しているだろう。ゆえにワイバーン無しで兵士だけでトルメリリンに逃げるのは極めて厳しいと理解しているはず。仮に逃げたとして無事でいられる保証はないし、ここでワイバーン部隊を構成するワイバーンの多くを失うのはトルメリリンとしても痛手、ゆえに簡単に戻ることを選べないはず。そもそも今は夜、夜間にワイバーンで飛行するのは難易度が高い。ワイバーンが亜竜であるとしても夜に眼が利くほどの身体能力を有するものだろうか。夜にジェルシェンダにワイバーンが飛行して襲ってくることがない時点でそういった能力がないのは予想できる。そもそもワイバーンのことを考えるのなら夜の山を下りる危険もわかるだろう。

 つまり彼らには逃げ道がない。襲ってきたことを知らせたところで彼らは逃げられない以上襲って来た公也たちに対応するしかない。それしか生を繋ぐ手段はない。もしかしたら明るくなるまで隠れていると言うことで対応するかもしれないが……その時はその判断をした兵士がなかなか頭がいいと思うしかないだろう。

 ともかく、公也たちは襲撃する時の手立てを決めた。ヴィローサはワイバーン、キミヤとフーマルが兵士たちの相手をする。ワイバーンは生かし兵士は殲滅、そうして城を奪取する。そういうことで決定した。



※ワイバーン部隊はワイバーンを従えているわけではない。従えられているワイバーンを使わせてもらっている立場に近い。なのでワイバーンの扱いによってはワイバーンが敵対化することもあり得る。

※ファンタジーの生物の解剖図とか見てみたい気はする。グリフォンとか。キマイラとか。

※ワイバーンの厩舎……あったっけ? 多分簡素的に作られた仮の厩舎だと思われる。

※夜に侵入するのに暗躍するのではなく昼に近い明るさを作り出すのは何か間違ってる気がする。

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