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公也は相手の攻撃を受けつつ、その強さを感じている。剣技だけを見れば冬将軍以上、公也も当然及ぶところではない。しかし剣での打ち合いが可能である。これは単純に身体能力の差……魔法も含めた発揮できる最大の身体能力の高さゆえ。人間である以上人間という規格に見合うだけの強さしか得られない。
総合的に見れば冬将軍と同じくらい、仮にある程度相手のことを見て、体感し経験できるのであれば恐らくは冬将軍の方が勝つ可能性が高いとも感じていた。これに関しては身体能力的な問題もあるのだが……人間と魔物、その決定的な差が大きい。そもそも種として、人間は強くない。人間という規格に見合うだけの強さは多くの圧倒的、強大な強さを持つ魔物を見ればわかる通り、どうしても魔物と言う種に劣るものである。人間はそれを技術や知識、数などでカバーし打ち勝っている。そういう点で一対一、真正面からの戦いでは種としての差がどうしてもある。技術的なそれや身体能力的な差、そういったものもあるが……これは冬将軍など一部の魔物に限定されるが、どうしても人では、一般的な人間ではどうしようもない差が存在する。生きる年数、経験の違い、それだけはどうしようもない。冬将軍はその経験の年数が高い……もちろんこの相手のような強さの相手とずっと戦ってきたわけでもないため経験年数が高いから強いというわけでもないが、色々な意味で強者との闘いはアンデールで積まれたためこの相手とも戦えるだろうと思われる。
経験の差、年数の差という点では公也も微妙なところはある。そもそも剣技では絶対に負けている相手だ。しかし公也の場合は身体能力が圧倒的に違う。人間の規格でもリーンやゼーメストみたいな例外はあるが、公也の場合はそもそも人間とは違う規格、これまで食らったすべての存在の生命力、肉体、それらを圧縮した身体能力を持っている。まあ人の形、人の大きさ、この世界において一般的な基準に見合った身体能力以上の力はあまり出さないが、できないわけでもなく、また魔法による補助、身体強化も行われている。膨大な魔力に任せて詠唱もなしに雑に使ったものだがそれでも十分な身体能力は得られる。それらを含めても……不意打ち気味で一方的に攻められていることもあって公也は後手で対応に追われている状況だ。ただ、対処できるという点で有利がどちらにあるかといえば公也にある。そもそも……いくら傷つけられても死なない時点で有利は公也にある。生命力、スタミナの差、それ以外にも色々と有利は公也にある。魔法を使い対応するのもあり、<暴食>で武器や四肢の一つを奪うなり、どうとでもなる……とはいえ、公也はまともに応対している時点でそういうやり方で勝つつもり、ということなのだろうが。
「ん?」
受けて、避けて、逸らして、いろいろな手段を用いて相手の攻撃を防ぐ。思いっきり一方的に攻撃されている中、公也は違和感に気づいた。
相手の攻撃が少し特殊なものとなった。いや、厳密に言うと……相手の攻撃が公也の防御を避け始めているのである。避ける、逸らす、そこはまだ無視されているが受けるというのは相手側が攻撃をそらして回避している。それが公也に当たるのかといえば、そういうわけではない。この攻撃は公也に当てるために逸らしているのではなく、公也の受け手を避けるために逸らしているもの……そういうものらしい。
「なんだ……?」
それが何なのか、公也は分からなかった。考える余裕も相手の攻撃の勢い、苛烈さがあるためできる状況ではなかったのも理由である。
「なるほど……そこでも差はあるのですね」
一方でメルシーネは受け手を避けているのがなぜかを見抜いていた。外から見ていたのもあるし、公也の特殊さ、武器も含めたいろいろな意味での特殊さを理解しているからこそである。
「まあ、当然と言えば当然なのです。仮にご主人様の武器がミンディアーターでなくとも、普通の世界なら行われるようなものではないのです……この世界でもある程度は欠けは起こりうるはずなのですし。これに関してはなかなか特殊なものなのですね。武器で武器を防ぐ、というのは一般的なものではないはずなのです」
武器を武器で受ける……武器種によってはないとは言えないが、剣と刀ではあり得ない……いや、やってもいいかもしれないが、普通はやらない。剣と剣がぶつかり合えば欠ける、そんなことが起きてもおかしくはないからだ。というより受け手である公也が剣で受けるのが根本的におかしいのだが。しかも刃同士がぶつかるように受けている。まあ刀と剣という点で耐久性能は刀の方が低く、切断能力では刀の方が高い……一般的にはその評価であり、剣で受けきることができるのであればむしろ刀の方が危ないだろう。しかし公也の持つミンディアーターは根本的な性能差がある。
要は剣を剣受けると欠ける、当然受ける側だけではなく攻撃する側も当然だろう。しかしミンディアーターは滅多な武器で欠けるような性能の武器ではない。そもそも相手の剣技はとんでもない速度、技術による手であるが武器は普通の物……特殊な武器を得られるということ自体そうあるものでもない。いや、無いわけではないが……それでも一般的な基準よりは高い程度であり、公也の持つような本当に特殊でとんでもない武器は例外……通常は得られることなどありえないレベルである。
「流石に何度も攻撃しているうちに欠けているのに気づいたのですね。だから攻撃を逸らしている……こればっかりは少々特殊な状況なのです。しかし避けるのはいいですが、結局のところそれではどうしようもないのです……攻撃の手が一つ消えることになるのですから。とはいえ、攻撃して当てて欠けを拡大させるわけにもいかないですか。いえ、最悪ご主人様の剣が相手の剣を斬ってしまう危険もあるのですね。避けるしかない……のですけど、結局のところそれは大分無理をしているのです。攻撃の手が遅れてくることになるですし、逸らしたところでどうしようもないのです」
武器の差は歴然、相手の武器で受けられないように避けなければいけない……攻撃を逸らす、思いっきり高速で振るわれるそれを逸らせるというのも相当なものだがその時点で大分無理がある。次の攻撃にきちんと繋げているがそれでも遅れはある。それは蓄積していき、決定的な隙になることだろう。
「ふっ!」
「ぐあああああっ!」
攻撃の間隙、遅れが蓄積して伸びたそこを公也がつく。全力で一瞬、一撃のみ、一度だけの攻撃に回るターン、それがあれば十分。一発で斬り避ける……のはいいが、殺してはいけない。ゆえに攻撃を加えるのは腕、刀を持つその腕である。武器を持てなくすれば流石にこれ以上戦えない……逃げるにしても四肢の一つを失っている状況で継続して活動するのは厳しい。まあそれ以前に腕を失った時点で気を失うとかする可能性もあるし、そもそも死ぬ危険もないとは言えないかもしれない。とはいえ、一手で勝敗は決した。




