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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
間章 様々な出来事
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「………………」

「………………」


 向かい合う公也とその相手。互いに探るような睨むような、様子見の目線を向けており無言である。ただ両者ともに目の前にいるのが件の相手……探し求める者と探し求められた者であることはわかっている。本能的に戦うべき相手、倒すべき相手、敵であるという事実を察している。


「………………」

「………………」

「お互い無言では話が進まないのですよご主人様」

「……ああ、そうだな。お前が今回強者を殺して回っている殺人鬼か?」

「ふむ……? 某が強者を? 異なことを。某が強者を求めているのは事実であるが、今まで強者に遭遇した覚えはない。某が強者と認識するほどの強者に遭遇したのであればそのことを覚えていないはずはない」

「あー…………」


 これまでそれなりの冒険者を殺してきた彼はその冒険者が強者だとは思っていない……まあ、彼が一斬りでほぼ死に体になる相手は彼にとっては強者でも何でもない、強さ的にはある程度以上であるのは確かでそれを感じたからこそ彼は襲っていたわけだが、その襲撃を回避、あるいは対応できないレベルはその時点で強者とは言えない……そういう認識なわけである。


「人を襲ってきただろう? 声をかけていきなり斬りつけるようなことをしてきた……そうだな?」

「……ふむ。確かにそれは某がしてきたことであろう。某は強さを求め強い相手と戦いたいと思っていた。そのため強そうな相手に声をかけて戦いを挑んだのよ。もっとも某が少し撫でるだけで倒れてしまうのであればそれは強者とは言えぬ。何度も残念に思ってきたものだ」

「………………」


 それが悪いことである、とは欠片も想っていないような表情である。彼が求める者はただ一点、強者との闘い、己を超えるような実力を持つ存在と戦うこと。さらに言えばそれを倒してこそではあるが……それができるかどうかは相手が強者である時点で難しい。要は自分より強ければ強者、というかなり極端な考え方だ。一応ある程度戦えればその時点で強者であるとは認識してくれるかもしれないが、倒せる時点で自分の方が上で強いとは思えなくなる。

 まあどうあれ、この回答で彼が今回の件の最後の犯人であるということが確定しただろう。後はどうやって彼を捕らえるか、今回の事件の犯人であると証明するべきか。一応公也であれば捕まえるくらいできなくもなさそうではある。ただなんとなく相手の気配、強さの雰囲気から簡単に倒せるような……うまく捕まえられるかどうかわからない相手である。


「しかし、こんなところでまさかとんでもない相手と出会うことになるとは……まさに怪物というのが相応しいような圧倒的な強者、絶大な実力者。某が戦う相手として申し分の

ない相手よ」

「……なんか酷いこと言われた」

「否定できるほどでもないです。ある意味賞賛でもあるのですからあまり気にしないほうがいいですよ」


 怪物と言われていい気分ではない。ただそれほどまでに強い、そう現したくなるほど強いという意味では確かに賞賛なのだろう。


「さあ、某と殺し合おうではないか」

「俺は殺すつもりはないんだがな。お前を捕まえて突き出さなきゃいけない……倒すだけでも十分ではあるだろうが」

「それは何とも酷い言葉であるな。某は殺すつもりだというのに、手加減されなければならぬとは……強者であればそれも正しいのやも知れぬが」


 そういって息を吐き、腰の刀に彼は手を当てる。


「であれば死んでも構わぬ、文句は言わぬ、油断して負けてもいいということであるな」

「…………」


 すっ、といきなり気配が変わる。腰の刀に手を当て、掴み……その時点で公也はぞわりと背筋に走る悪寒を感じ、とても警戒する。意識を向け、魔力を高め、いつでも動けるように。


「……っ!」


 瞬間、抜かれた刀が公也の目の前を走った。とても警戒していたから、刀に全力で意識を向け集中していたから、魔力を高めいつでも自身の身体強化の魔法に回すことができたから。だからこそ辛うじて躱すことことができた。掴んだ刀が一瞬で抜かれ振りぬかれる。公也でもその一瞬の攻撃を見極めることはできず、本能的な部分、勘に近いそれで躱したようなものであった。


「避けたか。だが」

「っと!」

「行くぞ」




「恐ろしいものなのです……速い攻撃なのですね」


 公也は現状なんとか攻撃を回避している。ただ身を逸らして避ける、みたいなことではなくミンディアーターを抜き受ける、逸らす、もちろん躱すというのも行っている。しかし公也が次の攻撃に移ることができない……相手の攻撃が速すぎるからだ。速度的に見えないというのは初撃だけだったがそれ以後の攻撃も間隙を入れず次々に振るわれている。途中で思わず公也がこれほどまでに強いとか聞いてないぞ、とか叫んだ程度には相手は強い。

 今までその実力を見せてこなかったのは単純にそれだけの攻撃をするに値する相手がいなかった……そもそも不意打ち気味に一撃を入れられ倒されていたわけでありこれほどまでに攻撃を加える機会などなかっただろう。そしてこのレベルの攻撃をされればまずAランクでもかなりの実力を有していなければ難しい戦いになる。そもそもただ身体能力、剣技の一点だけに絞った実力だけで言えば多くの相手は彼には敵わないだろう。


「確実にあれは冬将軍の剣技よりも上なのです」


 アンデールに存在する冬将軍、公也を含めアンデールの多くの人物を鍛えるに至っている彼の剣技は並大抵のものではなく……そもそも冬将軍自体真っ当に戦おうとすれば相当強い相手、Aランクになり得るかもしれない相手である。とはいえ、ここまでの強者であるかといえばそうではないだろう。


「……ですが、剣技はなかなかのものですけど、それだけなのですね」


 剣の技、剣での戦い、それだけであれば彼は強い。しかし剣の腕が高ければ戦いにおいて最強かといえばそうではないだろう。極端なことを言えば彼は下手をすれば普通の魔法使いに負ける危険もある。身体能力の高さはあるがそれだけで、剣の腕だけでどうにかやって行けるほど戦いは甘くはない。これが神儀一刀とかふざけた次元違いのとんでも剣技であればともかく、彼の使っているその剣技はただの修練と天性の才、今までのおのれの経験と培った技術で得られたものである。それでここまで行くのはそれはそれで相当な恐ろしさであるのだが……結局のところただの剣技である。巨岩を斬ることはできない、水を斬ることはできない、火を払うことはできない。剣と剣、力と力、物理的なぶつかり合いで済まされるのであれば問題なく戦えるとしても、そうでなくなれば彼はそれ以上戦えない。

 それゆえのメルシーネの評価であった。今は公也がただ剣技を受けているという形で戦いになっているように見えるだけであり、公也が魔法で攻撃すればその時点で状況が大きく変わる、相手が崩れかねないもの。まあ不意打ち気味で公也に攻撃を加え剣と剣のぶつかり合いに持ち込んだからこそそうなっていると見れば相手が機先を制した結果であると言えるのかもしれないが。それはそれで相手の実力であるだろう。



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