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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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「まだあの街は落とせないのか?」

「みたいだな。前は兵士が準備をする前だったから余裕だったんだがね。今は魔法使いたちがいるからな」

「ちっ。厄介な……」


 ワイバーン部隊、その乗り手たち。彼らは一つの砦に駐留しそこで話し合いをしていた。内容は現在の戦争の状況に関して。ワイバーン部隊はジェルシェンダに攻撃を仕掛けジェルシェンダからゼルフリートへの侵攻を防いでいる。もともとはキアラートの土地だが現在ではトルメリリンが奪い支配している場所。彼らとしてはキアラートに返すつもりのない場所だ。元々が守りの要所であったため多少の攻撃で取り返すことはできない。ジェルシェンダをワイバーン部隊が襲うことでジェルシェンダからゼルフリートへ街を取り返すための軍も出せないだろう状況にしている。

 しかしここにいる彼らの最大の目標はジェルシェンダを取り返すこと……正確には奪うことだが一度自分たちの物にした後に奪われたので彼らの中では取り返すこととなっている。現在の所取り返すことはできず、また魔法使いたちのせいで積極的な街への攻撃もできていない。遠方から矢や投擲、ワイバーンによる急襲で一時的な攻撃はできる。ジェルシェンダに駐留する冒険者や兵士たちを攻撃し傷つけ数を減らしながら徐々に戦力を奪う、それ以上のことができない。いくらワイバーンと言えど無敵なものではなく、戦闘能力を持つ集団を相手には中々厳しい状況である。


「今動けるのはどれくらいいる?」

「動けないのは五体ほどだな。今出向いているのは六体」

「ワイバーンをもっとよこせと言いたくなるな」

「ここまで運んでくるのも大変だろう。物資も一緒に持ってこなきゃいけないんだからな」

「山の上だからな……」


 彼らがいるのは山の上、トルメリリンとキアラートの間に存在する、国と国を隔てる巨大な山脈の中に存在する高い山の上だ。そこに存在する砦というのも建設するのも大変だっただろうと思われる者であり、そもそもの資材を持ち込むのすら難儀するような魔物の群れが存在する場所である。ワイバーンがここに来るのも決して簡単とは言えず中々に大変なことであり、さらに言えばここで暮らすのに必要な物資もまたなかなか持ち込むのが難しいくらいだ。今回は軍事行動ということもあり潤沢に持ち込んでいるが、普段使いするのには明らかに向かない場所であるだろう。


「いつまで続くもんかな」

「さあな。まああまり長くはならんだろ。恐らくジェルシェンダは向こうに戻るがゼルフリートはこっちに入るだろうよ」

「……せっかく取ったのにな」

「なに、ここがある限りまた取り返せるさ」


 この山に存在するワイバーン部隊の駐留する砦。それが存在する限りジェルシェンダへの攻撃は前と同じように簡単にできる。そしてその負担がある限りジェルシェンダはかなりの苦難を強いられることになるだろう。ゼルフリート側と山側からの双方からの攻撃、二方向から攻められるのは街側としてはたまらない。最終的にジェルシェンダを放棄しなければならなくなる可能性は高い。


「そうだな」


 彼らはそう楽観する。もっともこの砦には現在とんでもなく危険な悪魔のような怪物的存在が向かっている。それを彼らは知らない。






 私がここに生まれたのがいつかは覚えていない。

 ただ私は最初からここに今のような状態で生まれた。

 私は意思。この場にあるこの場全てを管理し監督し統括する意思。

 言うなれば頭脳、あるいは魂のようなもの。

 私に自由はない。ただこの場を正常に機能するように維持する以上の役割を持たない。

 それゆえにこの場に私は囚われ拘束されている。


 ずっと囚われたまま。別に私はそれでいい。構わない。

 私は何も食べずとも生きていける。どこに行かずとも生きていける。

 でも……それでも、少し私は外に、外の世界に、私以外の何かに興味がある。

 何時か誰かここにきて、出会うことができれば……少しは楽しくなるかと思った。


 人は来た。でもそれは私が望む者とは少し違ったらしい。

 確かにそれは人で、私の下まで来た。でも私のことはどうでもいいらしい。

 私の体、この城をその人は求めた。私の元に来たのは偶然で、私に触れたのも偶然。

 そしてこの城を手に入れた。城以上の物は求めず、ただ城を利用するだけ

 それは人にとっては当たり前のことだろうと思う。でも私はそれでも人に望みを抱いていた。


 結局私はそれ以上の希望を得ることはなかった。外は騒がしいのにここは寂しいまま。

 誰も来ない、何もない、私しかいない。

 それが正しいことは知っている。でも、やっぱり少し寂しい。

 人に出会ってからだろう。余計に寂しいと、人に近しい思いを抱いてしまう。

 私は魔の存在だと言うのに。

 私は誰にも期待しないほうがいいのかもしれない。

 いつかここが朽ちるまで、ここに囚われ生きる。

 私に触った人が死ねば私はその人に従う必要性もないだろう。

 もっともこの城で私ができるのはせいぜいが城を綺麗にするくらい。意味はないけれど。






「っと……森の終わりだな」

「……師匠、何か見えるっすよ」

「ヴィローサ、空から見ることはできるか?」

「この当たりなら魔物はいないかもだから飛んでいけるかも……ワイバーンの方は大丈夫っぽい?」

「恐らくな」


 山を登り、森を進み、かなりの高度まで登って来た公也たち。そして森が終わり山の頂上付近の様子も見えてくる。ずっと下から見るのでは見えない位置に存在する巨大な城、いや砦というほうが今回は正しいだろう。


「ん、じゃあ行ってくる」

「ああ。頼む」

「……師匠、あそこが目的地っすかねえ」

「ワイバーンの戻る方向と、人が住むのに問題ない場所からするとそんな感じだな」

「……ところで師匠。リーリェさんから頼まれていることを考えると、あそこに攻め込むっすよね?」

「そうなるな」

「……………………」

「キイ様、ワイバーンが見えたわ。あそこみたいね」

「そうか……さて、どう侵入した物か」

「え? 案とかそういうのなかったっすか?」

「見つける前から思いつくわけないから。まあ、普通に魔法で隠蔽しながら近づいて一気に侵入するのが一番かな……その前に様子を見て情報収集しないとな……できれば全滅させる形で殲滅、向かった奴が戻って来た時への対処、中の人員の情報の把握……流石に夜には戻ってくると考えると夜間に襲撃か? 寝ているだろうし、油断もしているだろうしな……」


 城に侵入する……今回公也たちが来た城、いや砦は山の上にあり人の来ない場所にある。そのせいか警戒はかなり薄い。侵入しその中でここまでくるものはいないと油断している兵士を殲滅するだけならかなり楽な話になるだろう。もっとも本当に油断しているかは不明であり、また仮に一掃しても外に出払っているものがいた場合戻ってきた時に公也たちの存在を知り逃げる可能性がある。逃げられたところでそこまで害はないができれば可能な限り戦力を減らしたい。また情報を持ち帰らせたくない。そういった理由もあり、公也は夜間に襲撃をするつもりであるようだ。

 それまでの間公也たちは城についての情報をヴィローサが空から見て調べたり、公也の魔法で透明になって近づいて確認したりする……つもりだったが、ワイバーンの存在で気配、臭いでばれる可能性があるのであまり詳しくは調べられなかった。結局普通に侵入して殲滅する予定となった。



※ワイバーン部隊は兵の方もワイバーンの方もどちらも重要。補充のしにくさという点では後者の方が重要だが前者もワイバーンの運用能力、騎乗戦の経験の問題もあり重要。

※正直主人公は人間扱いしなくていいと思う。現時点で半分以上人間やめてるし。

※山の上のお城。山を下りる場合主人公たちが登ってきた時と同様、あるいはそれ以上の危険がある。つまり逃げられない。ワイバーンなしだと缶詰になる。

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