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「ひいっ! また襲ってきたっすよ!? なんでこの山こんなに魔物が出るっすかねえ!?」
「ファイアーボール! 獣もたくさん出てるぞ」
「そ、そうっすけど……そうじゃなくて」
「フーマルはダメダメねえ……キイ様、その辺の雑魚相手なら私が相手をしますわ」
フーマル、公也、ヴィローサが森の中を歩いている。つい少し前までジェルシェンダでトルメリリンとの戦争に関していろいろとやっていたと言うのにいきなり森の中にいる。
「こんなところ登りたくないっすよ……」
「そう言ってもな。ワイバーンの出所を突き止めなければいけないだろう」
「……こんな魔物だらけの山にそういうものあるっすかねえ」
「あるからワイバーンが来てるんでしょう? ほら、うだうだ言ってないでさっさと行くわよ」
「いやいや!? ヴィローサさん空飛べるっすから移動楽っすよね!? 師匠! もうちょっと何かないっすか!?」
「フーマル。これくらいの山道歩けるくらいの体力ないとだめだぞ?」
「そんなっ!」
彼らは現在ジェルシェンダを襲っているワイバーンの出所を探るために山に登っている。しかしその山は魔物や獣が多く登るのにすら難儀しそうな状況だ。果たしてそんな山に本当にトルメリリンのワイバーン部隊が駐留しているものかとフーマルとしては疑問である。だが疑問に思ったところで実際にワイバーンたちがこの山から来ていることは事実。そもそもワイバーンの行方を追った結果こうして山を登る羽目になっているわけなのだからその先にワイバーン部隊が存在しないはずがないわけである。
魔物や獣が多くそれが頻繁に襲ってくる中ワイバーン部隊がどうやって生活しているのか、そもそもこの山の向こうにトルメリリンがあるが山自体が大きく広い山脈であり山を越えるのも厳しい環境である。駐留するにもその駐留できる場所を作ること自体が難しい。そんな山の何処にいるのか、場合によっては公也がその駐留するワイバーン部隊を殲滅する。そんな目的を持った登山である。
「どうしたらいいかしらね」
公也たちが登山をする経緯はリーリェがワイバーンの襲撃をどうにかすることを命じられたことが理由である。
「倒していいなら俺が倒すが」
「それは無理なのはわかって言ってるでしょう? キミヤ君一人で倒させるわけにはいかない……それに、それはあなたにとっていいのかしら?」
「…………」
「話せないことも多いんだろう? やりすぎるとそれを教えることになると思うけど」
「確かにな」
「…………?」
この場にいる五人のうちフーマルだけは公也の隠している秘密……暴食の能力に関しては詳しく知り得ていない。いや、暴食の能力に関して深く知り得ているのはヴィローサくらいだろう。一応リーリェとロムニルはある程度知っているもののヴィローサほどではない。そのヴィローサもそこまで詳しく正確に知っているわけでもないが。そしてその四人の中ではフーマルが一番公也の事情を知り得ていない。
そういった話はともかく、確かに公也が一人で大暴れすれば問題は解決するだろう。しかしそれは冒険者たちからの反発に勝手な行動による軍からの反発、そもそもどうやってワイバーンたちを殲滅したのかその特殊能力に関しても根掘り葉掘り聞かれることだろう。公也が教えないということにしたとしても追及は簡単には止まない。かなり面倒なことになるのでやらないほうがいいだろう。
「じゃあどうする? リーリェは命令されたんだろう?」
「ええ……でも向こうもできるとは思っていないでしょうね」
「そもそもできないから命令されたんだろうね。戦功を少しでも減らすためかな」
「またそれは面倒な話だな」
「まあね。でも、どうにかする当てはないわけじゃないのよ……私たちはどうしてもこの場に残らなければいけないから無理だけど」
リーリェたちは魔法使いである。それゆえにその戦力としての価値は冒険者よりも大きい。ゆえに二人はジェルシェンダに残り向かってくるワイバーンに対する戦力になる必要性がある。もしワイバーンを倒し来なくなったのならば今度はゼルフリートへと向かう部隊に組み込まれるだろう。そういった事情もあり二人はワイバーンを倒しに出向くこともできない。
そんな事情があるのにリーリェたちにワイバーンの襲撃に対する対処を頼むのはどうなのかと思うが、そもそもワイバーンをジェルシェンダで撃退するのが前提として考えられているのだろう。それゆえにリーリェに頼んだ。だがリーリェが考えているのはジェルシェンダでの対処ではない。直接ワイバーンの出所を叩くことである。
「キミヤ君、ワイバーンたちが出てきている場所に向かってそこにいるワイバーンたちを倒してくれない?」
「…………冒険者一人に無茶を言う」
「キイ様! 私もついていくから二人よ!」
「え? あ、えっと、師匠! 俺もついていくっすよ!」
「フーマルは二人の守りで残ってくれればいいんだが」
「えええっ!?」
「あ、そこは心配しなくていいよ。流石に街の中にいる限り襲われる危険は少ないし、周囲に冒険者もいるし」
「そうね。今回はこちらにフーマル君は必要としないからキミヤ君についていったら?」
「えっ? あ、はい、そうっすか……」
「…………フーマルはどっちの方が良かったんだよその反応」
思わず公也はそうつぶやく。フーマルとしては公也に置いていかれるのは師弟の関係ということもあり不満である。しかし実際にワイバーンのいるところに出向くとなると命の危険がやばい。そういうこともあってあまり出向きたくないと考えている。そういう意味では公也にリーリェたちの守りにつけと言われるのは合法的にこの場に残れることでよいことだったのだが、残念ながらその二人から行っていい、要らないと言われてしまった。
「……えっと、ついていくことになるみたいっすからよろしくお願いするっす師匠」
「ああ……頑張ってついてこい。っていうか、ワイバーンの出どころは……」
「いつもワイバーンが飛んでくる方向、最初の襲撃の報告からもそうなんだけど、あの山よ」
「…………この山か」
ジェルシェンダの傍に存在するトルメリリンとの境、国境線とは別に国と国を分断する巨大な山とその山脈。ワイバーン部隊はその山の方からジェルシェンダへと向かってきていた。もしワイバーンを追いその出所を突き止めるつもりであればこの山を登らなければいけない……それはとても大変な道程である。
という事情があり公也たちは登山中である。
「また来たっす!」
「フーマル、報告は良いがちょっと騒ぎすぎだからな!」
「もう! さっきからずっとたくさん来てるんだけど!」
「ええ!? 俺のせいっすか!?」
「まあ全員うるさいからフーマルだけではないだろうけど」
「キイ様は良いのよ。私とフーマルが悪いの。特にフーマル」
「酷くないっすかねえ!?」
「冗談よ」
「っと! 風よ遮れ、風よ防げ、風よ攫え!」
ワイバーンの出どころを探し、そちらへと向かう彼ら。そんな彼らに襲ってくる山の魔物と獣たち。ジェルシェンダを出てきたは良いが目的地に到達するまで道中で襲ってくる魔物や獣たちの相手でかなり疲労しそうである。ここを超えてくるのがワイバーン部隊なのはそれが原因であり、トルメリリンもキアラートも双方がこの山を使わないのは魔物と獣の豊富さが原因……であるのだろう。それくらいに公也たちは魔物や獣に頻繁に襲われる羽目になったのである。
※いつヴィローサに詳しいこと話したっけ? もしかしたらどことなく理解している、という点でよく知っているか、あるいはどこかでもしかしたら話しているのかも。
※主人公は基本的にあまり目立ちたくはない。目立つのは仕方ない、と考えるが自分から大盤振る舞いはしないタイプ……だと思う。
※山森など、魔物や獣が豊富な危険地帯はこの世界には多い。まあ別の世界の世界中人のいないところが魔物しかいない世界よりはまだマシな方。




