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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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19



 夜が過ぎ、朝となり日が昇る頃合い。ジェルシェンダに近い位置で陣を張り休息をとっていたキアラートの軍が戦いのための準備を始める。流石に今までの状況で勝ち目が薄いことはこの場にいる兵士たち、冒険者たちにも推測できることでありそのせいか気が重く準備に時間がかかってしまっていた。しかしそうして準備をしていると少しこれまでと違う変化に気づく。


「あれ? ジェルシェンダからトルメリリンの兵士たちが出てきてないぞ?」

「なに? 本当だ……何かするつもりか?」


 今まではトルメリリンの兵士の方が先に行動していた。彼らは守勢であり攻めてきたキアラート側に対処するように動く。後から行動するようでは遅く、先に出ていなければならない。少なくともキアラートが動き出した時点で動いていなければいけない。もちろん事前の準備もしておくべきでありあくまで最低でもその時点で動かなければいけないと言うだけ。通常ならば先に向こうの方が展開している。そもそも夜もある程度見張りは立っており動きがあればその報告が行く。奪った街を守らなければいけない以上油断はできない。

 だが今回、この日の朝は彼らが動きを見せない。それがなぜなのかはキアラートの軍隊は理由がわからなかったものの、動かないわけにはいかない。罠があるかもしれない、何かしてくるかもしれないと考えたうえで行動しなければならないだろう。

 そう思いながらキアラートの軍がジェルシェンダの前に展開する。しかしそれでも何も起きない……訝し気ながらもジェルシェンダに入り込むために門を開けようと考えたところに、彼らが明ける前に門が開く。この出来事にキアラート側の軍はトルメリリンの兵士が出てくるのかと注意しながらそちらに視線を向ける。しかしそんな彼らに対し中から出てきたのは女性が一人。キアラート側の所属を示す意匠をつけている女性の魔法使い、リーリェであった。


「だ、誰だ!」

「私はキアラート所属の魔法使いリーリェ! 昨夜ジェルシェンダに入り込み中に屯している兵士たちを捕縛する作戦を行ったわ! 作戦は成功! 現在ジェルシェンダに存在するトルメリリンの兵士は可能な限り捕まえて捕縛しました! すぐに軍の司令官に伝えてジェルシェンダに入ってください!」

「な、なにぃっ!?」


 リーリェが提案した作戦はそもそも下の兵士たちには知らされていないものであった。理由としてはその作戦が漏れると作戦の失敗につながる……からではなく、実現が不可能と思われる極めて難しい作戦だったから、だろう。実際たった五人でジェルシェンダに入り込むことはできてもその後ジェルシェンダの兵士たちの制圧は普通なら不可能と考えられる。せめて内部の情報だけでも持ってこれば……程度の考えだったかもしれない。

 だが実際にはリーリェたちは完全にジェルシェンダにいた兵士たちを捕縛しジェルシェンダの制圧を成功させた。この報告はすぐにこの場にいるキアラートの軍の上層部に伝達され、その内容に驚き……成功の前にまず罠ではないかと考えられた。普通に考えればリーリェが捕まりトルメリリンが罠を仕掛けてきた、と考えたとしてもおかしな話ではない。だが罠を仕掛けるにしてもトルメリリンの兵士たちが一切動きを見せないことも奇妙である。ジェルシェンダを捨てて逃げる……ということはありえない。そして何よりもワイバーンの動きが見えなかったこと。一応はキアラートの側にもジェルシェンダの見張りはいた。その見張りはワイバーンが動いた所を見ていない。それ以外に関しても、ジェルシェンダには何も起きていないようにしか見えなかった。

 だがそれを考えたとしても、現状で罠だとみなし入らない……と言うわけにもいかないと言うか。少なくともジェルシェンダにいるトルメリリンの兵士たちの動きが全く見えない。怪しく思い注意しなければいけないがそもそもキアラート側の目的はジェルシェンダの奪還。最終的にはゼルフリートまで奪還し完全にトルメリリンの兵士を追い返すことであるがそのための目的としてジェルシェンダを先に奪還する必要性がある。今がその機会、罠があるにしても動かなければいけない、というよりジェルシェンダに入り込む以外の行動のとり様がない。ゆえにリーリェの言った通りジェルシェンダに入り制圧するしかなかった。






「まさか本当にやったのか、と言われるなんてね」

「普通はそう思うよ? 僕もキミヤ君の活躍を知らなければ無理だと思うしね」

「そうっすね……ヴィローサさんと師匠がいなければまず無理だったっす」

「そうね……そもそもはキミヤ君がいろいろ言ってきたのがきっかけだけど」

「別にいいじゃないか。奪われた街を一つ取り返せたんだから」

「そうよー! これで野営しなくてキイ様と同じ部屋でゆっくりできるのよね!」

「いや、無理だと思うよ? 軍が駐留できる場所なんてあるかなあ……」

「トルメリリンの兵士もいるからまず無理でしょうね……」

「ええっ!? そんなあ……」


 街を奪い返したからと言ってその街がすぐに使えるようになるわけではない。一応ある程度許容できるかもしれないが、そもそも多数の兵士が滞在できるような作りにはなっていない。すべての兵、冒険者が街に入ることはできないだろう。そもそもジェルシェンダはトルメリリンの侵略に合い物資もトルメリリンの兵たちに消費され街の住人の物資も残っているかどうかもわからない。流石に全部を使い潰したということはないと思われるし、トルメリリン側からも兵を維持するため物資を持ってきている可能性はある。

 だがやはり街の中で滞在するのは難しいだろう。戦火の爪痕も幾らか残っている。被害は一つ前の街、略奪のために襲われた街よりもある程度マシ……と言えるかどうかはわからないが、それなりに兵による蹂躙の跡はある。それらがあるうちはやはり少し使いづらい。トルメリリンの者とは違うとはいえキアラートの兵士もまた兵士、彼らを見て思い出してしまうこともあるだろう。

 またそのトルメリリンの兵士たちに関しての問題もある。彼らを食わせる必要があるし、解放するにしてもトルメリリンに送り返さなければいけない。そのまま送り返すと言うわけにもいかない。また戦列に参加されると困る。なので現状は捕虜として捕縛し捕まえ生かしておくしかない。その彼らをおいておく場所も必要だ。外に放置、というわけにもいかず街の中のそれなりに大きな場所で監視付きで一纏めに、と言った感じで置いておくしかない。

 そういった諸々もあり、公也たちがジェルシェンダの街でゆっくりできると言うことはない。もっとも、今はジェルシェンダを取り返したことが大きい。ワイバーンも倒し、その死体も残っており素材の回収も行われ冒険者たちも少しは潤うだろうと思われるし、軍としても取り返せたことは戦果として大きい。少し問題となるのがその取り返すための作戦の発案者の問題だが……彼らはその点に関してはある程度仕方のない所と考えるしかないだろう。



※夜の間によく見れば夜の見張りがいなくなっていることに気づく可能性もあったのに。

※普通一夜で兵士がいっぱいの街を制圧したといわれても信じないって。

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