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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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 この日もキアラートの軍隊とジェルシェンダ前に広がったトルメリリンの軍隊がぶつかり合う。そうやって戦い、特にこれと言って変わったこともなく戦いが終わり全員が休息に戻る。そういったことをしている間に街の横に回り込んだ人物たちが空気の階段を作り街の壁を越えて街の中に入る。音は立ててしまうもののどたばたと人の行き来やあちこちで色々とおこなわれている状況では多少の音はまぎれる。地面に降りる時も砂地などの足跡などでばれやすい場所ではなく、ある程度整地されている人の目の少ないバレにくい場所に降りた。

 当然普通に入ればバレてしまうのだが、今回街に入った彼らは透明な姿をして入ったためバレていない。もちろん存在そのものが消えるわけではないので人に当たったりすればバレてしまうため、ある程度人の行き来が無くなり寝静まるとまではいかなくとも建物の中で休息し始める頃合いを狙って動くつもりである。


「…………」

「…………」

「…………」




「もう大丈夫そうか?」

「待ってるの疲れた……」

「どうせ師匠に掴まってたっすよね?」

「それでも疲れるのよ。何もしないって結構苦痛ね」

「妖精ならなおさらでしょう……自由奔放が妖精の売りだもの」

「ヴィローサ君はなんとなくそういう感じではないけどね」


 夜、人通りが少なくなり闇も少しずつ深くなるころ。公也たちはようやく動き始める。もっとも大っぴらに動くわけにはいかず、また声も小さめで話し合いを行っている。いくら人通りが少なくともあまりに目立って行動すると流石に彼らの存在がばれる。一応光学迷彩、透明化の魔法を使い対応するつもりではあるがずっと使っているわけにもいかないだろう。お互いの位置がわからないのは中々厳しい。


「とりあえず街の状況の確認からだな」


 公也を先頭に街の中を調査する。彼らの役目はジェルシェンダの奪還につながる動き、特に兵士たちを使い物にならなくするための工作が基本となる。しかしそれを行う前に街の現状を知らなければ何から対処すればいいかわからない。やみくもに兵士を倒すだけではあまり効果的とは言えない。いや、公也としてはそれでもいいのだが。ただロムニルやリーリェがいる状況ではできる限り二人が困難にならないようにした方がいい。

 そうして街の状況を確認する。基本的に街は占領されている状態であるが人々はおおよそ普段通りの生活である様子だ。これはジェルシェンダが今後トルメリリンの支配下に置かれることを考えてのものだろう。自国領地にしたときに禍根を残しすぎている場合、反乱のようなことが起きかねない。無理やり奪って力で支配し統治すると言うのも一つの手段であるが、キアラート側も簡単にはあきらめないだろうと予想できてしまうのでできる限り統治に問題が起きないように、という感じではある。

 もっとも配慮はしているが彼らも自分たちの欲の発散は行っている。自宅に兵士が入り込み襲われる女性、視目麗しい娘は軍の上層部の人間に連れていかれている。一部の女性の仕事にそういった性欲処理をあてがわれるなどもないわけではない。そればかりはどうしても兵士の士気などに関わるのでやらざるを得ない。本来ならばこの先の街に攻め込みそこから調達するつもりであったが残念ながらその途中にキアラートの軍隊が来てしまったためうまく入っていない。そのためこの街の現状ではどうしても兵士側も少し不満を持っている様子である。


「…………………………」

「キミヤ君、抑えて抑えて」

「キイ様、全員殺せば終わるから大丈夫よ?」

「いやいや……流石に全員殺したらダメだからね?」

「そこは流石にね? 兵士たちを殺すのは……あまり得策ではないわ」

「……ダメなのか? 殺す方が手っ取り早いと思うが」

「ダメよ。トルメリリンと戦争しているとはいえ、あまりにも相手側に被害が大きすぎるとそれはそれで引っ込みがつかなくなる。仮にここにいる兵士を皆殺しにすれば向こうもその復讐で動かざるを得ない」

「こちらは街を奪われているっすよね?」

「……まあ、そうなんだけどね。土地を取ったり取られたりは比較的よくあるのよ。人と土地ではまた少し話が違うと言うか……」

「結局両方が納得できる、あるいはこれはまだ容認できると言う状況にならないといけないってことだね。土地ならまた取り返せばいい。でも失った人は取り戻せない。殺しすぎると恨み辛みが大きくなりすぎて戦争を止められなくなる。そうなると泥沼だ」


 土地を奪われる、というのはこの世界における戦争では比較的よくある。まだ被害が軽いうちならばお互い停戦の条件を付けて一時的に戦争を止めることはできる。とはいえ奪われるのは国としては大きなダメージであり、また取り返そうと反撃に燃えるのだが。土地ならば取り返せる、そこが大きい。だから泥沼のどちらかが完全に滅ぶまでの戦争はしないでいられる。もちろん不満はたまるが。

 だが人が殺された場合、それが大きな被害になった場合は難しい。特に兵士が全員殺された、となると流石にそれは簡単に認めることはできないだろう。国民の抱く敵国の人間、兵士に対する復讐心が抑えきれなくなる。夫を失った、息子を失った、家族を失った、そういった思いが強く影響し戦いを求める。復讐を、相手を滅ぼすことを求める。人の心は一番制御の難しい面倒くさい物である。

 奪われた土地の人間にとっては土地の取り合いで国の間を行き来するのは正直はた迷惑な話。そもそも戦場になっている時点で極めて迷惑な話である。まあそういう場所であること、そういうことが起きうることを理解しているのである程度は容認するだろう。もっともその被害にあうそこに住む人間にとってはとても迷惑な話だ。実際ジェルシェンダにおいて被害に遭っている女性やその夫で抵抗して危害を加えられた者、殺されたものもいるだろう。そういった者にとってはただ国同士の話し合いで決着をつけられるのは納得がいかない。

 もっとも、この状況自体をどうにかできるわけでもないし最悪受け入れざるを得ない。不満として溜まり、いずれは何らかの形でどちらの国にも返ってくるものかもしれないが。


「……じゃあどうすればいい?」

「司令官の捕縛、あるいは兵士たちを戦闘不能にする……少なくともワイバーンは潰しておきたいわね」

「兵士たちは普通に捕縛するくらいしか手はないか……数が多いから面倒だけど」

「ねえ、兵士は私が麻痺毒をまけばいいでしょ? 他の人も巻き込むかもしれないけど」

「……ヴィローサさん便利っすねえ」

「そうだな。ヴィラは毒撒きで麻痺させる、俺たちは……俺はワイバーンを倒しに行こう」

「じゃあ私は麻痺した兵士を捕縛する方がいいかしら? ああ、でも縄がないわね……ヴィローサちゃん、先に物資の調達に行きましょう」

「雑多な兵士より先に司令官の捕縛をしないかい?」

「そうね……フーマル君もついてきなさい」

「了解っす」


 この場において公也がワイバーンの殺害、他の四人が司令官を含め兵士たちを麻痺させたうえでの捕縛のため行動することにした。夜であるがまだ見張りもいるし、寝ているにしても建物の中に侵入するのは結構面倒も多い。もっともヴィローサが存在すると言うことがとても大きい役目を果たす。妖精の持つ特殊能力は多くの場合対処手段がなく、どんな相手にも効き得るもの。人間ならばほとんどすべての相手に効くことだろう。その存在を認知されず、来ていることも知らず、発見されてもいないのであれば……確実に麻痺で行動不能にすることが容易である。



※やりすぎ注意。

※国境付近は取り合いがそれなりにあるので慣れているところはある。

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