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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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 ジェルシェンダを取り返すためにキアラートとトルメリリンの戦いが始まる。しかしその戦いは拮抗……というよりはどちらかというとキアラート側が若干押されているような雰囲気になっている。元々キアラートの軍の編成は冒険者、研究者の魔法使いと軍属にないものが多い。中には戦闘経験がない、少ないという者もいるだろう。あるいは人間との戦う機会が少ない者だっている。またこれほどの人数での戦いを経験したことのないという者もいるだろう。戦争経験がない状態で戦争に向けての訓練すら行っていないのであれば戦いの経験があったとしても適切な動きはできないだろう。

 それゆえにキアラート側が押されている。相手は正規の軍人であり、またジェルシェンダという街を盾にできる。背後に逃げ込みそこで守りの戦いもできる。そして彼らにとって最大の戦力であるワイバーン部隊も存在する。もっともこれは本来のワイバーン部隊よりも数が少ない状態ではある。魔法使いたちを危険視し数を減らし、少ない状態で最適最大の運用をできるようにする。下手に数をそろえれば弾幕の餌食になるだけと数を少なくした様子である。たとえ少なくともワイバーンは竜の一種、亜竜の類であり竜よりも弱くはあるがそれなりに強い魔物。一体いるだけでも多くの冒険者や兵士には厳しいものとなるだろう。

 戦いにおいてキアラート側は魔法使いと冒険者と兵士が戦力となるが、基本的に主体として戦っているのは冒険者と兵士である。とはいえ冒険者は戦争に慣れておらず、数が多くとも連携が取れなかったりしてあまりよい戦果を残せているとは言えない。兵士は普通に戦えているが……ここまでの道程を考えると疲労が残っているだろう。またジェルシェンダが後ろにある。相手がそちらに逃げ込むことで街を守りに使い回復をできる。キアラート側はそういったことができない。キアラートの側は少し離れた場所で睨み合いをしながらの休息くらいしかできないだろう。

 魔法使いたちはお互いの軍が当たる前に最初に魔法で攻撃するのが基本となっている。乱戦状態では味方に被害が出るし、相手もまとまっている一番最初に大きな攻撃を一斉に叩き込むのが一番、あとは魔法を使わず温存して待機である。別にこれは魔法使いが楽をしていると言うわけではない。魔法使いの攻撃手段である魔法は使用する場合ある程度考えて使用しなければならず、また相手側に存在するワイバーン部隊のこともある。ワイバーンは兵士や冒険者には荷が重い強い魔物である。ゆえにそれらの相手を魔法使いたちがする。そのための温存である。トルメリリンもワイバーン部隊は数が少ない虎の子の部隊であるため運用はかなり気を使い確実に戦果を出せる可能な限り安全な状況を狙う。ゆえに魔法使い部隊はその力を温存し使うべき機会のために備えている。

 もっとも最大の力を抑えているからか、もともと状況がよくないというのもあるのか、キアラート側が若干押されている状況……この場合キアラート側が攻めあぐねていると言える状況、というべきだろうか。そんな状態である。


「……状況はあまりよくないな」

「みたいね」

「俺たちもでられればいいんだが……」

「……そこはごめんなさい。でも私とロムニルの守りについてもらわないとこちらも安全の面で困るから」

「わかってる」

「しかし見てるだけって言うのもつらいっすね」

「何もできないのは流石にな……」

「安全だと喜べればいいんだけど……こちらとしても自軍の状況が悪いから喜べる状態ではないねえ」


 現時点において公也たちはやるべきことがない状況にある。公也たちの仕事はロムニルを守ることであり兵士たちと同じように戦闘を行うことではない。一応元々は戦争への参加ということだったわけで戦うつもりであったのにロムニル達を守ることに仕事が移っているためどうにも戦いへの参加ができずに燻っている。状況が悪いと言うのが余計に公也たちにとって苦しく感じる点だ。

 仮に公也が出ていれば前線で魔法を使いさらに言えば暴食の力で食らい奪い、隠れて敵を減らしたり弱体化したりといろいろとできるはずだ。一応この遠距離でも不可能ではないが、あまりに遠方ではやりづらいし近場にいる状況だから誤魔化せることもある。そもそも暴食の力の存在をばらすつもりが基本的にないと言うのもあってあまり表だって使いたくない。

 魔法ならば使えなくもない……と言いたいところだが、残念ながら公也の魔法は現状では勝手に使ってはいけない。一つの問題として公也は魔法使いの部隊ではないこと、そしてその魔法の規模と威力とその他いろいろの問題もある。一応軍隊で使う魔法は一律というか、それぞれ合わせて使っている。キアラートの現在の軍の状況では完璧に合わせているわけではないが、それでも一応比較的近い魔法を使用している。魔法の使用を一律化するのは攻撃の結果の安定を図るため。そこに公也が勝手に大規模高威力の魔法を使うわけにはいかない。いくら冒険者の魔法使いが使った魔法だからといって問題視されないわけではないだろう。場合によってはロムニルたちも問題追及をされる可能性がある。故に魔法は使えない。

 つまり公也たちは出番がない。フーマルも出番がない。ヴィローサは特に気にしないが出番がない。これがせめて相手方のワイバーン部隊でも横合いから襲ってきたり、兵士たちが回り込んだり伏兵で攻め込んでこればまだ話は違ってくるのだが。もっともそれは公也の望むことでもないが。流石に自分が戦う機会を作るために窮地を作り出すことを好ましいとは思わない。

 しかし、全く何もできないでいると精神的に腐る。ゆえに何かしたいと思っている状況だ。だがそう簡単に事が動くわけでもない。


「……このままいくとどうなると思う?」

「負ける……とはいかなくとも確実に退かざるを得ないわ。そのうちにあいてはジェルシェンダ付近を完全に自分たちのものとする。取り返すのは今以上に厳しくなるでしょうね」

「だろうな……」

「このままにはしておけない、かといって勝手に動くこともできない。ジレンマだねえ」

「…………それ呑気に話してていいっすかねえ?」

「あまりよくはないかもね?」


 状況的に悪い話ばかりしているのは正直よろしくない。しかし今の彼らは待機している状態である。話す以上のことはできない。緊張感がないと言われると困るが現状でも常に周囲、状況に注意を払っている。


「やっぱり自由に動いた方がいい……と言うと違うかもしれないけど、少しは状況をひっくり返す手が必要かもね」

「それがキイ様でしょ? どうにかしてくれない?」

「……確かにキミヤ君が強いと言うのはわかるけど、こちらもこちらで簡単にはいかないわ。そうね、でも話くらいは持っていきましょう」


 魔法使いとその護衛が単独で突っ込むことが簡単に許容されるとは思わない。流石にこの軍勢、軍隊で勝手な動きがあっさり許されると言うことはないだろう。リーリェはそう思いとりあえず話を持ち込んで一つの手立てとして提案してみる事に決める。



※冒険者の戦闘経験はそれぞれで結構違う。対魔物には慣れていても対人経験はないということも珍しくない。

※場所的にワイバーンを残しにくいから数が少ないかもしれない。物資的な問題とか。

※主人公が好き勝手やれる状況だとあっさり勝てると思う。ただし戦果の問題とか責任問題とかいろいろ面倒くさい部分もありそうだが。

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