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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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「はあ………………」

「…………イライラしているみたいだが、大丈夫か?」

「うん、まあ。ほら、僕とリーリェだとリーリェがあの上の魔法使いとの連絡役だろう? だからかな、いろいろ言われて鬱憤が溜まっているみたいでね……」


 凄くリーリェがイライラとしている様子を見て公也がロムニルに訊ねる。そうして帰ってきたのはリーリェが苦労しているとの話である。現在ロムニルたち五人は魔法使いとして軍側である二人、ロムニルとリーリェが報告などを行う立場になっている。そしてその手の事柄に関してロムニルは基本的に気にしないし興味がないし他者と関わるようなことを積極的にしないといろいろな意味で面倒くさい存在である。ゆえにリーリェがそれらに関する事柄を行っている。それゆえにか、リーリェが上の人間……ロムニルとリーリェの派閥に敵対的な今回の戦争における軍の部隊のまとめ役、最上位の人間に色々と文句に近いいちゃもんをつけられている感じにあるらしい。


「あの馬鹿がねえ……やれ命令を聞かない、やれ勝手な行動をする、やれ他の兵士や冒険者のことを気にしていない、魔法を使って攻撃して街の周りを破壊した、街から勝手に出て行った、軍属でもないのに魔法使いたちをまとめて部隊として行動した、使用する魔法を勝手に選んだ、散々、散々糞みたいに言われたわ……」

「リーリェ、言葉遣い」

「今更気にしても仕方ないでしょう? 私は元々こんな感じよ。キミヤ君たちともそれなりに長いのだし、って言うか別にそれほど私言葉遣いは変わっていないともうのだけど?」

「女性なんだからあまり汚い言葉遣いはね?」

「それは女に幻想を持ちすぎじゃないかしらロムニル。今更だと思うけど?」

「いや、それでもね……」

「そういう話はあとにしてくれないっすかね?」


 痴話喧嘩、というほどでもない夫婦の言い合いは今はさておき、リーリェがさんざん言われたことはいちゃもんと言ってもいい文句になっていない事柄である。確かにそれは事実である内容であるかもしれない。だがリーリェたちは兵士の排除、撃破を目的に行動し軍の人間として軍に有利な結果をもたらしているわけである。逃げた兵士たちは確かにいるが、そのうちのかなりの数を討ち取った。そもそも街の中では魔法使いが戦いにくい。街に被害を出さずに魔法使いたちは戦闘したのだからそこは褒められてもいいだろう。兵士たちや冒険者は街の中に幾らかの被害を残していると言うのにそちらは特にお咎め無しだ。

 これに関して言えば、本当にただのいちゃもんである。やっていることは命令に従ったうえでの行動であり、またそもそもリーリェたちは使う魔法に制限をかけられたわけでもない。軍属ではないのは事実だがかといってそれが理由でまとまってはいけないわけではない。街から出るなとも言われていない。相手の兵士を倒すこと、戦闘に勝利をもたらすこと、それが自分たちの役目のはずだ。そういう意味ではリーリェたちは十分仕事をしている。むしろ街に入っていない指示も出していない後ろで待機し兵士と冒険者と研究者の魔法使いを命令して街に行かせ働かせただけの人間に文句を言われたくないくらいである。

 今回のリーリェたちの行いの結果、その利、そういったことを説明し反論し、それでもなお相手はその内容を受け入れるつもりはない……元々がただのいちゃもんであり、リーリェたちを攻撃したいだけなのだから別に事の成否はどうでもいいのである。最終的にはあちら側がわかったそういうことにしてやろう、というような態度でリーリェの言い分を受け入れたと言う形になった。自分たちが悪者扱いにされていると言う実に妙な状況である。


「酷いと思わない!?」

「……まあ、確かに酷いが人間は基本そういうものだからな。一部の馬鹿が利益を得るっていう」

「ちょっと!? キミヤ君ちょっと達観してるんじゃないのかしら!? 認めたらダメよこういうの、そういうのが多いからって!」

「リーリェ、必要なら殺してくるわ。いいかしら?」

「毒殺はバレないかもしれないけど軍が混乱するからダメよ!」

「混乱するからダメって……そこは殺したらダメって言うべきじゃないっすかね?」

「かなり鬱憤溜まってるみたいだねえ……ははは」

「笑い話じゃないっすよ……」


 ヴィローサであればだれにも知られずふらっと毒殺してばれないようにすることなど容易である。リーリェはそれに対し軍が混乱するからダメ、という話らしいがそこはヴィローサに人殺しをさせないように動いてほしいと思うところである。まあそれくらいに彼女はいろいろと言われて怒り心頭なのだろう。


「結局外で休むことになってるしな」

「そこは仕方のない話よ……街の被害もそれなりにあるから」

「いくら兵士たちを投入して守りに動いたとしても、被害をゼロにはできないからね」

「恨まれてはいないし感謝はされてるんすけどね……怯えられている感じがどうにも」

「まあ怖いって思う人も多いんじゃない? 格好は違うけど兵士は兵士よ。襲われ他の事実だもの」

「物資の問題とかもあるわ。明日直ぐにジェルシェンダに向かわなければいけないってことになるでしょうね。あまり長居もできない……復興までは遠いわね」


 トルメリリンの兵士に寄りこの街が受けた被害は結構大きい。その被害からの精神的な回復は未だ先、遠い話である。この影響は街だけの問題ではなく、物資の提供や兵士への安心、それ以外にもいろいろな問題となって軍に影響を与えるだろう。街を守ることはできても無傷ではいられなかった……せめてもう少し早くこられればまだ話は違ったかもしれない。あるいはそれもまた一つの理由だろう。もっと早く来てくれれば……と、街側が思っていてもおかしくはない。それが軍に対する不満となっている部分もあるだろう。


「しかし、ジェルシェンダ……っていう場所のことはよく知らないが」

「僕もそれほどは知らないね。でも街としてはゼルフリートとそれなりに近い国境付近の街だから相応に守りが固いはずだよ」

「あっさりワイバーンに落とされてるっすよね?」

「ワイバーン部隊が弱いわけないもの、急襲で一気に街の中に入り込まれればいくら街でも防衛しきれないわ。兵士たちが相手でも事前の準備がいる、ワイバーンなんて存在が相手なら相応の武器や兵器が必要になる。そもそも一般的な兵士ではワイバーンの相手にはならないでしょうし」

「ワイバーン部隊がいる可能性は?」

「そりゃいるでしょうね……だからこそ私たち魔法使いが必要なわけだし」

「ワイバーン相手に兵士や冒険者じゃね。まったく戦えないわけじゃないだろうけど……」

「確かに……」


 ジェルシェンダの街、そこにはトルメリリンの兵士もいるだろうしワイバーン部隊もいる可能性が高い。そしてリーリェたちの攻撃から逃げた兵士たちが確実にキアラートの軍が近づいていることを報告しているだろう。ジェルシェンダが襲われたときのように準備ができていないなんて言う言ことはなく、確実に準備されていることだろう。それにワイバーン部隊の時はワイバーン部隊が急襲、彼らの行動の迅速さとワイバーンという機動力の高い存在だったからというのが大きいと言うのもある。兵士や冒険者、魔法使いたちはどれだけ急いでも人の足で出せる速度しか出せず、その存在はすぐに見つかり準備を許してしまうだろう。報告があろうとなかろうと相手方の準備は行われる。その準備に掛けられる時間の違いがあるくらいだ。



※リーリェさんだいぶ印象変わってません? まあ今回のことでかなりストレスが溜まっていることが影響している物だと思われるあg。

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