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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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「……流石に全滅はできなかったわね」

「まあ僕らでは仕方のない話かな」


 リーリェたちの戦場、街の外に逃げてくる兵士を待ち受け魔術の弾幕にてトルメリリンの兵士たちを殲滅する場面。結果としてこの戦闘はリーリェの読み通り逃げてくる兵士たちの多くを倒すことができた。しかし、そのうちの幾人かの逃走を許してしまうこととなってしまった。

 その原因に関して言えば、ここにいる彼らが本来戦場で戦う軍の魔法使いたちではなく、戦闘経験の少ない研究者の魔法使いたちだったからだろう。魔法使いはいざという時軍に所属し戦えるよう多少の戦闘経験は積んでいる。しかし、それはあくまでいざという時の物、彼らは基本的には研究者にすぎない。軍に属する魔法使いと研究者の魔法使い、果たしてどっちが強いかと言えば当然軍に属する方が強いに決まっている。戦闘における彼らの戦闘能力に関しても当然軍に属する方が優秀である。

 魔法使いの使う魔法は基本的に同じ魔法であればだれでも一緒、あるいは認識や魔力の差で効果に少々の違いをもたらすこともあるが、そのブレに関しては僅かな差くらいしかないと言える。よほど大きな規模の魔法か、あるいは精密な内容の魔法ならば少し話は違ってくると思われるが簡単な魔法に関しては基本的に同一である。特に初期に覚えるような簡素な魔法の類は。

 だが魔法の効果、威力が一緒であるとしても魔法が完全に同一になるわけではない。例えば飛距離、例えば魔法の進行、例えば魔法の維持時間。籠める魔力量によって魔法がどこまで飛んでいくか、魔法の認識によって魔法が放物線を描き飛んで行ったり直線に飛んで行ったり、魔法が飛んでいくがある程度の距離で消えてしまう、そういった部分において魔法使いは同じ魔法でもそれぞれの差異が存在する。

 研究者の魔法使いは軍に属する魔法使いと違い魔法に関しては個々の魔法に関する認識が大きく、そのため息を合わせて魔法を使うと言うことはできない。それぞれの魔法がバラバラに敵兵へと飛んでいく。軍であれば訓練を行い魔法の軌跡、魔法の飛距離を合わせて使えるようにしているため弾幕として機能するだろう。あるいは人を殺すという行為に対する忌避や恐怖、躊躇いがあるから。そうでなくとも研究者の魔法使いは戦闘に魔法を使うと言うことには慣れていないだろう。一部はフィールドワークで慣れている者もいなくはないだろうが。

 ゆえに弾幕はうまく機能せず、逃げる兵士の多くを倒すことはできたがその全てを倒すことはできなかった。魔法使いが倒せずとも冒険者が倒しに行けるのではと考えなくもないが、魔法が降り注ぐ中を近づき倒せと言うのは無理だろう。軍のように統率が取れているならともかく研究者たちではそれができない。


「まあ、十分と言えば十分っすよ」

「……こちらとしては納得がいかない。完膚なきまで殲滅しないと」

「そんなに好戦的だったかな君って……」


 ロムニルも知らないリーリェの一面が見えてくる、そんな機会だったかもしれない。






「そっちは問題なかったか?」

「ええ……って、怖いわよキミヤ君?」

「表情が……なんかこわいね」

「うう、凄く怖いっす師匠……」

「もー! 怖い怖いって言わないで貰えるかしらっ!? キイ様はいつでも格好いいのよ! 怖いけど!」

「ヴィラ……」


 公也は先の激情を引きずっているからか仲間全員から怖いと言われてしまう。特に表情が。恐ろしいというか、無に近い表情が怖いのである。その表情は普通は見ることのないようなあり得ない表情だからだろう。正気が削れるような表情だ。それは確かに怖いかもしれない。


「はあ……まあ、ちょっと気分を変える。それでそっちは問題なかったか?」

「ええ……うん、普通に戻ったわね。こちらは特に問題はないわ。逃げてくる兵士を殲滅したくらいね」

「そうか……こちらも街の中にいる兵士を潰して回ったくらいだ。逃げたってことはもう街にはほとんど残ってないか?」

「残党はいくらかいるかもしれないけど、別に私たちが担当する必要もないわね」

「他にも冒険者や兵士が仕事してるっすからね」

「僕らは報告の方があるけどね」

「……ちっ。上への報告が面倒になりそうね」


 舌打ちするリーリェ。戦場だからか普段のリーリェとは違う雰囲気が見える。むしろ彼女は研究者をやっているよりもこういう場の方が似合うのかもしれない。もっとも彼女はロムニルから離れるつもりはないしロムニルのためにも離れられないだろう。ロムニルは研究馬鹿のダメ人間よりのタイプなので。


「……街は大丈夫なんだろうか」

「気にしても仕方がないと思うけど……そこまで大きな影響は出てない、かしら?」

「どうだろうね。攻められたところをこちらが間に合ったような感じだろうけど……」

「あまり街が壊されてるとかそういうことはなさそうっすけど……俺ら休めるっすかね?」

「物資がどうなってるかが不安かしら」

「略奪に来ていたようだから……奪っているところだったかな?」

「なら焼かれてさえいなければなんとでもなるかもしれないわ。休むには街で休むってわけにはいかないだろうけど」

「また外でっすか……まあ宿使えるわけもないっすけどね」

「上の人たちは宿を使ってるのよねえ……はあ、叩き潰したいわ」

「ははは……」


 現状この街はそこまで大きな破壊跡はない状況だ。ただ被害が一切ないと言うことはないだろう。火を放たれているところはあるし、多少は略奪で奪われ逃げ出す兵士が持っていっているだろうし、女性への被害もあった。物資も幾らか破壊されていてもおかしくはない。だがすべてではない。少なくともキアラートの軍が間に合わなかった時のことを考えればまだそれほど大きな問題にはならないと言ったところである。

 とはいえ、被害があったのは事実。また敵軍がここまで来ていると言うことは少なくとも向こうもキアラート側にさらに攻めてくるつもりがあると言うこと。またジェルシェンダの状況も比較的敵に占領された形で安定していると言うことではないだろうか。そうなるとジェルシェンダの奪還はかなり厳しくなる可能性がある。トルメリリンの兵士たちが既に集まり詰めており、さらに言えばジェルシェンダを攻めたワイバーンの部隊もいる。キアラート側はかなり状況的に不利である。彼らは正規の軍隊ではない。

 だがそれでも行かなければならない。少なくともキアラート側の軍の本体が来るまでか、彼らの活動物資、期限が持つまで。この街を拠点に……と言うのは厳しいかもしれないが、それでもこの街からジェルシェンダへと向かい、なんとか戦い取り返さなければいけないのである。



※軍属の魔法使いと研究者の魔法使い。同じ魔法を使えても魔法の効果などその全てが一緒になるわけではない。特に軍属の場合魔法の一定規格化、一律なものとするようにしているのでより弾幕として成立するものになる。そうしていない研究者の集まりではちゃんとした殲滅戦闘にはならない。

※SANチェックが行われる表情って……?

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