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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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 ロムニル……と言うよりはリーリェが街から逃走する兵士たちに追い打ちを仕掛ける準備をしている頃、公也の方は街の中で戦いが起きていない場所、まだ兵士が見つけられていない場所に兵士を探しに行く。現在戦っている兵士たちに関してはそもそも冒険者とキアラートの兵士が相手をしているので無理に公也が戦い戦果を奪う必要はない。それよりはまだ見つけられていない、今もまだ無法を働く敵の兵士かあるいは逃げようとしている兵士たちを潰すべきであるだろう。

 そう考え公也は街の中を探した。自分一人だけでは少し探しにくいが公也にはヴィローサが存在する。ヴィローサは単独では弱いがその小さい体で飛行能力を持つ。高くまで飛び上から見下ろすことである程度何処に誰がいるか何がいるか全体的な動きを把握できる。もっともある程度高目の位置まで上がるので視力的な問題で少し内容の確実性が薄くなるが。


「こっち!」

「わかった」


 ヴィローサの発見した場所、街の中で兵士たちが争っている場所よりも遠いその場所へと公也は向かう。そしてそこで無法を働く兵士を発見する。


「…………酷いわ」

「………………………………」

「キイ様?」


 その場の光景に公也は黙り込む。確かにそこでは無法が行われていた。街の中で行われる無法のうちの略奪ではない兵士たちの蛮行、現地にいる女性に対する凌辱行為。基本的に兵士は戦いの場に赴く関係上死の危険を身近に感じるものである。それゆえに子孫を残すと言う本能的欲求が高まる。またその暴力行為の余韻を晴らす意味合いもあるだろう。それが女性への凌辱へ向けられるのである。ある種の略奪でもある。物ではなく人に対するものではあるが。どこの世界にも女性を報酬として得る、奪うということは珍しくもない。

 ヴィローサは公也がその光景を見て黙り込んだことに対し、もしかしてこの光景を楽しんでいるのでは……と一瞬思う。それはダメだ、自分ならともかく他人はダメである……と妙な思考に走りかける。


「……っ!」


 しかし、公也の方に視線を向けるとそんな考えは吹き飛ぶ。むしろ公也に恐怖を抱くくらいだろう。

 ヴィローサの視線の先に存在する公也の表情は無である。無表情という以上に感情が見えない何もない、何も思わない、それくらいに心の存在しない表情。虚無と言ってもいいほどの、感情の存在しない激情である。

 公也は基本的にあらゆる知識、あらゆる感情、あらゆる経験を己の糧として求める性質を持つ。暴食はその性質から邪神に与えられた能力であり、本人の性質そのものと言える。この世界におけるすべてを貪る、それが公也の持つ性質である。ゆえにこの戦争に関してもまた求める知識や経験の一つである。今彼の目の前に存在するそれもまた、彼にとっては未知の知識であり感情である。そういう意味ではある意味この場に入れたことは彼の求めにとっては良い状況であると言えるだろう。だが公也にとって、この世界の全てが求めるものであってもあらゆるものが公也にとって心地のいい物であると言うわけではない。暴食はあらゆるものを食らうことのできる、全てを食らう力にて、全てを食らう衝動であるものだが……食らうものの味が一切考慮されていないというわけではないだろう。どれだけなんでも食らうことができるからと言って、その味を一切考慮しないわけではない。不味いものは不味い……食べることができるからと言って、それを食べたいとは思わない。

 今公也の目の前にある光景は、公也にとって知識として、感情として、経験として求める未知の一つではあるが……それが心から欲しいと思えるようなものでないのは元々想定されていた。そもそも公也の持つ倫理観は公也のいた元の世界の倫理観が大本であり、いつでもそれを破棄し倫理を無視した行動ができる。だが倫理観を元にした善悪の思考、思想がないわけではない。人殺しは悪いこと、後悔はしないし躊躇はしない。だが、人殺しは望んでしたい事ではない。それと同じで望んで悪を成したいわけではない。悪を求めたいわけではない。性に関する欲求の薄さもあるがゆえに、そちらの方面のリアル、現実におけるそれらの事柄は特に犯罪方面、人の心に傷を残すような悪行の方面は嫌悪が極めて強い。それを目の前にした時初めて彼にとってのそれらに対するスタンスが彼自身にも理解できたのである。


「ヴィラ」

「は、はいっ!」

「眠らせる毒は発生させられるか?」

「う、うん! だ、大丈夫!」

「あそこにいる全員を眠らせろ」

「わかりましたっ!」


 声は穏やかに聞こえる。いや、無機質に聞こえる。あらゆる感情が排除された……いや、感情がただの一点しか存在しないためか、感情がないように見えてしまうというか、そんな声である。絶大な熱量を抱えた冷徹。感情が暴れまくっているのにそれが収束している状態。ただ、その目的は一つ。自身の嫌った存在を滅ぼすこと、この世界から消滅させることにその意識は向けられる。

 ヴィローサの毒の発生は自分からある程度の範囲を対象でにきるものだ。場合によっては近づかなければいけないが、現時点での距離ならば意識すればまだ届く範囲ではあった。もちろん近づけば容易、相手の状況的に空から近づけば容易に瞬時に眠らせることができる。ヴィローサにとって簡単な話であった。

 そうしてトルメリリンの兵士と凌辱されていた女性の全員が眠りにつく。なぜ今この場に兵士がいたのかは謎であるが、まだ街に敵が入ってきたことに気づいていなかったのか、あるいはそんな状況でも女性への凌辱を敢行することに情熱を賭したのか、逃げることができないからと諦めて行為に走ったのか不明である。


「…………知識だけ貰っていく」


 なんであれ、公也が暴食で男たちの頭を食らいその知識を奪っていった。


「……女性の服装、流石にこのまま解放するわけにはいかないか」

「キイ様、見ちゃだめよ!」

「兵士たちの服を利用する……気分はよくないが、ないよりはましか?」


 暴食によって兵士たちの肉体を食らい消滅させる。残ったのは装備と服、武器など。彼らの痕跡はそれらしかのこらなかった。その服をヴィローサが拾い苦労しながら女性たちに掛けていく。一時的に見えないようにしておけば後は発見され起こされたときに何とか本人たちが隠すようにすればいいだろう。


「……凌辱の痕跡を消す。体に残った体液、あいつらの残留物の除去」


 暴食にて兵士たちの体液を消す。


「……できるかは怪しいし、成立しているかもわからないが。受精卵を対象にして暴食」


 前提として既にできていることが条件になるが受精卵を対象にしての暴食の使用。場合によっては兵士たちのものではない受精卵を対象にしてしまう危険もあるがその場合はしかたないと謝るしかない。もっとも対象にしたとして、ちゃんと暴食で食らうことができたかは不明だが。


「……俺にできるのはこの程度だ。心の傷や体の傷までは治しようがないな」

「それはキイ様がどうにかする責任ではないわ。彼女たちがどうにかすることよ」

「……そうだな。ヴィラ、他の場所の兵士たちを」

「ええ。探してきます。キイ様は……ちょっと離れたところで待っていて」


 この女性たちに狼藉を働いた兵士たちのような存在が他にいるかもしれない。そうでなくとも兵士たちが別の場所で何かしている可能性はないわけではない。そういった兵士たちをヴィローサに探しに行くように頼み、公也はその場から離れた場所でその報告を待つ。公也たちの方はそうやってヴィローサによる発見をメインとして敵兵を探し見つけた敵を倒しに行くのであった。



※senka。ただし今回の場合はもう逃げられないから最後くらい楽しんどけみたいな感じ。

※ガチギレモード。主人公の倫理観は独特。

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