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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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10


「まったく、なんで魔法使いが前線に立ってるんだろうね?」

「使い潰すようなやり方をすれば立場が悪くなるんじゃないかしらね……そんなことはさせないようにしたいけど。全員集められた?」

「一応は。彼らも自分を守ってくれる兵士や冒険者がいないと困りものだからね。でも僕らよりはましだったみたいだよ?」

「……こっちは俺一人なのに余所から来た魔法使いには何人か兵士や冒険者ついてたっすよ? どういうことっすか?」


 ロムニルとリーリェを守るのは公也たちだけだった。そういう意味では他の所ともそれほど変わらない……ように見えるかもしれない。ただ人数的には公也とフーマルの二人が前提の数となるだろう。ヴィローサはこういう場合数に含めない。あるいは数合わせで三人とされていた可能性はある。他は五人ほどいたというのにロムニルたちがこの人数というのはどう考えても扱いが悪い……もっとも大差ないと言ってもいいかもしれないが。

 そもそもロムニルとリーリェの扱いの悪さに関しては二人の派閥的な問題が大きいだろう。魔法使いにもいろいろな派閥が存在し、特に研究者は魔法への考え方による派閥の影響が大きい。軍に属するのであれば研究者程派閥の影響はないかもしれないが、魔法使いの友人や仲間、同僚などの影響から派閥関係の影響はあるかもしれない。ロムニルたちは少数派の派閥であるためどうしても立場的に弱いと言うかそういった感じなのである。

 しかしそれをこの戦争に持ち込まれると困るだろう。ロムニルたちも困るし、最終的には軍の側も悪影響を受けるはずだ。その結果ロムニルたちに付く兵士がなく、冒険者である公也たちが守りにつくことになったわけである。まあこうして前線に送り込まれた魔法使いが右往左往としつつも集まれたのだから悪い結果ではないかもしれない……いや、魔法使いが集まり集中狙いできると言うのは悪いことかもしれない。


「僕らの立場の問題だろうね。こう見えても疎まれてるんだよ」

「どう見えてると思ってるっすか……」

「まあ魔法使いにもいろいろとあるのよ。それよりも……攻めるわよ? 街に入り込んでいる兵士たちは冒険者や兵士が倒している。かなり分が悪いのだから彼らがずっと戦い続けるはずはないわ。そもそも街を襲っている兵士たちは人数的にも本体じゃない。今回の街の襲撃が失敗したなら逃げても問題はない……略奪で物資を確保したいという目的があったにしても、こんな状況では確保は無理。となると逃げて情報だけでも持ち帰るのが得策。死者を減らして逃げ帰る、それが一番よ。こちらに痛手を与えられればそれがいいんだろうけど」


 敵の兵士の今回の目的はあくまで略奪である。キアラートが送り込んだ兵士や冒険者と戦うことではない。そもそもキアラート側の行動が彼らの想定よりも早い可能性はある。今回冒険者を使用しているがこれが軍隊のみであれば確実にもっと兵士が送り込まれるまで時間がかかっただろう。それゆえに彼らは想定外の速度で送り込まれたキアラートの軍隊と戦う羽目になった…それくらいにキアラートは今回のことを重要視していると言える。ともかくそういうこともあってトルメリリンの兵士たちはまず逃げるだろうとリーリェは考えた。

 そこで魔法使いである。そもそも魔法使いを街の中に送り込むという選択肢自体がおかしいのである。魔法使いの利点は遠距離攻撃と広範囲への攻撃。魔法を使った爆撃である。もっとも使う魔法は魔力を抑えるため比較的消費の少ない魔法だ。だが重要なのはその数、弾幕としての運用。人は投石一つで死ぬ可能性がある。そしてそれが魔法のような威力の高い攻撃になるならば一気に戦場の様相が塗り替わることになるだろう。伊達にキアラートの軍隊における強力な部隊をしていない。それが仮に研究者たちを運用したものであっても、魔法の威力が変わるわけではない。

 リーリェが考えた方法が逃げてきたところにまとまってる兵士たちを魔法で爆撃すること。少なくとも街の中という遮蔽物の多い乱戦の危険の高い所で戦うよりははるかにいい。運が良ければ逃げる兵士たちを完全に倒しきって自分たちの情報がいかない可能性もある。


「…………」

「…………」

「…………」

「待ってるのって辛いっすね」

「それが仕事でしょう」

「他の冒険者とかもかなりうずうずしてるっすよ? いいっすか?」

「戦いたいの? 兵士と戦って死ぬより私たちを守りながら戦果を挙げる方がいいと思うけど」

「いや、男としては冒険者としてはやっぱり自分で敵を倒したいと言うか……」

「積極的に人殺しをしたいって言うなら考えてもいいわ」

「……きつい言い方っすね」

「言っちゃ悪いけど戦争って結局やることは人殺しだしね。そういうのは本当は軍の皆様方やることなんだよねえ」


 なぜか参戦することになってしまったのがロムニルとリーリェである。いや、他の研究者の魔法使いも何人かいるが。本来ならせいぜい参加しても公也たち冒険者が参加するくらいであり普通は軍だけが動く。今回は時間もないし速度重視であったので近くにいた研究者の魔法使いなども抱き込んで戦争に来たわけである。フーマルとしてはやはり自分で戦い戦果を挙げたいわけだが状況がそれを許さない。もっともいくら多少強くなったとしてもフーマルだけでどれほど戦えるかは不安である。決して弱くはないはずだがやはり公也がいないと不安だ。決して弱くないはずだが。

 別にフーマルとしては人殺しがしたいわけではない。冒険者の仕事であるし、やはり自分の暮らす国の危機、それをどうにかして活躍したいという気持ちがあるからこその物。もっともそれ自体は否定せずとも結局人を殺す行為ということには変わりがないだろう。それを言われたらいろいろな意味で終わりである。戦争とはそういうものであるのだから。


「さて…………来たわね」


 リーリェの読み通り……と言うほどではないかもしれないが街の方から逃げてくる兵士たちが来る。装備からしてキアラートの軍勢ではない。数はそう多くない。それに関しては元々大勢いたわけではないのだから当然だ。街の中に展開していたため冒険者やキアラートの兵士に人数を削られているのもある。まあ人数は重要ではない。逃げた兵士たち、そこから情報が伝わる可能性、また逃げた兵士が戦争に参加することになるのが問題である。今ここで減らすのが得策だ。


「それじゃあ魔法の準備を! って、なんで私が号令役になっているのかしら?」

「そりゃあリーリェがみんなを集めたからじゃないかな?」

「……そういうの柄じゃないんだけどね」


 魔法使いたちを集めたのはリーリェである以上その魔法使いたちを運用するのは彼女の仕事である。本来彼女はそういうことが向いている性格ではない……いや、ここまでやってきていることを考えれば、あるいは兵士たちの動きの予測などをしていることを考えればどうだろう。決してそういった能力がないとは言えないのではないか? 本人の自覚と実際に持ち得る能力はまた別の話。もっとも性格的には向いていない、というかあまりそちらの方面を意識しないタイプではあるだろう。とはいえ、今この場においては彼女がまとめ役をするしかないのだから。



※リーリェの考えは逃亡者に対しての追い打ち。できれば殲滅。最重要は乱戦で魔法使いが損失することを避けること。そのための策でもある。

※基本的な魔法使いの運用は野戦、広い場所で魔法による爆撃を行うこと。街中で戦わせるのはそもそもからして間違っている。

※今後別の場面でもいろいろな意味でリーリェは頼りになる。

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