表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
116/1638

8



「フズが鳴いた」

「……フズ、この子確か警戒烏よね? 今まで一切鳴いてこなかったけど……」

「うるさいから普段は鳴かせないように言ってるの」

「代わりに俺の部屋でよく鳴いてるっすけどね……ヴィローサさんがいると鳴けないから鬱憤晴らしだと思うっすよ?」


 フズが鳴くことに対してはヴィローサが睨むように圧力を押し付けているため普段鳴くことがない。もちろん警戒烏としての役割を担う場合、警戒などを行う場合は少々例外である。普段のカアと鳴くのは許さないがクォアッ、敵意を持つ存在が迫ってきた場合の鳴き声は許容している。そうでなければ公也に迷惑をかけるのでヴィローサもそういう点は許容的だ。もっとも普段押さえつけられている点ではフズもかなりイライラが募っていることだろう。

 ヴィローサがフズを抑えられるのは動物など本能寄りの生物がヴィローサに恐怖を抱くからだ。ヴィローサの持つ毒、発される毒気は極めて脅威である要素。それを察し本能的に忌避あるいは排除を行う傾向にある。フズのようにそれが仲間であっても恐怖、畏怖を抱く傾向があり仮に自分が下位者にある場合に敵に回られた場合腹を出して降伏する動物がほとんどだろう。恐らく魔物もまた。

 と、そんな対動物あるいは対魔物の強い恐怖を抱かせる性質を持つヴィローサがフズを抑えている状況にありながらフズが鳴いたということはつまりそれだけの何かがあると言うこと。単に敵意を感じるだけでは決してフズは鳴かない。僅かな敵意程度ならば様々な形で持たれていることだろうから。


「あの魔法使いが睨んでいるせいとか……」

「流石にそれはないだろうな」

「そうだね。警戒烏は自分たちにとって脅威であるか、害意を成すつもりがあるかを明確に感じるらしい。それが単に敵意だけでは鳴くことはない……らしいね。研究はされているけどそもそも警戒烏自体を飼えるようなことがほぼないから全然検証出来てはいないみたいだけど」

「そう考えるとフズが手元にいるのは警戒烏の研究が進んでありがたいことね」

「そうだな…………話がずれてきた。ともかく、フズが鳴くと言うことは何か明確な脅威、こちらを襲うような害意が存在すると言うことだ。確認できる範囲に」

「もう街も近いのに……ん? あれは……煙?」

「どこかの家の昼食……あるいは火事かなにか? ってそんなわけないわよね」

「あれを感じた……警戒烏の警戒能力は不明な所が多いからわからないが、あの煙が上がっているのを感じたのなら……」

「それが此方にとって脅威、つまりあの煙はこちらに対する脅威が作ったと言うことかな?」


 フズが鳴いた理由は煙、それをフズが認識したことによるもの。それがただの火事、ましてや昼食を作っている際の煙とかであるのならば別に何も問題はない。フズが鳴くことはない。しかし、それがフズの所属する側……恐らくは公也たち、に害意を持つ、脅威となる敵意である、そういう場合にフズ、警戒烏という種は鳴くのである。もっともその判断は極めて謎だが。

 謎であることはわかっている。重要なのはフズが鳴いたと言うことはつまりその危険がある何かがいるということ。街から上がる煙がそれであるならば、その危険とは一体何なのか? そもそも街から上がっている煙は何か? 火事なのか? 少し色々考えている間に時間が過ぎ、街から昇る煙が増える。そしてそれを軍の側も認識し、少しざわざわと騒がしくなっていく。街から煙が上がる、まさか火事になったとは考えづらい。ありえないとは言わないがその危険が自分たちが向かっている街で起こり得るとは考えにくい。起きてもおかしくはないが、現実的な出来事としては受け取りにくい。

 そもそも、今彼らが向かっている街は戦場に最も近い街だ。ジェルシェンダ、トルメリリンに落とされた街に。トルメリリンがゼルフリート、ジェルシェンダを落としたことで満足しそこを国境線とするだろうか? うまくいっている間はもっと攻め入ろうと考えるものではないだろうか。つまり、今街から上がっている煙の原因はトルメリリンから攻めてきた兵士たちの仕業、戦火である。


「これ、攻められてるのか?」

「……想定としてはあり得るわ。でもまだ少し遠い、確認はできない。でも上に連絡はしておいた方がいいわね。街に入ろうとしたところを向こうから襲われるなんてたまらないでしょうし」

「むしろ向こうが街を襲っているところを反撃するべきだろうね」


 少々発想としては突飛だが現在の色々な情勢から考えると街に上がっている煙の原因は戦火によるもの、街がトルメリリンに襲われていると仮定したほうがいい。別にただ火災だったと言うだけならば自分たちが間違い恥をかいた、その程度で済む。しかしこれがトルメリリンが本当に襲ってきているのであれば。兵士はすぐに動かせるようにした方がいい。そうでなければ向こうに先手を打たせ犠牲者を増やすことになり得る。


「……確認できればいいんだが」

「キイ様、私が空から見ようか?」

「頼む。ああ、そこまで詳しく熱心に確認しなくていい。俺たちが情報を得ても信じられるかどうかは別の話だしな」

「わかったわ」


 ヴィローサが空を飛び、情報から街を見やる。仮にトルメリリンに襲われているならば兵士の姿見えるはずだ。それを確認すればほぼ状況が決定できるということである。


「俺が先に行って何とかしてくるのは……」

「キミヤ君は私たちの護衛です。確かに街を救いたい気持ちは私にもある。でも、ダメよ。護衛の仕事をやっている以上そちらを全うしないとダメ。攻めることが決まるまで、あなたは護衛としてここにいるしかできないわ」

「…………」

「仕事の放棄をさせるわけにはいかないよ。君が戦力になる、とわかっていてもね」


 戦場に出向くのは魔法使いの護衛として働いている公也やフーマルではなく、前衛についている兵士や冒険者たち。公也の役目は現在の所ロムニルとリーリェの護衛である。もし公也が攻め入るのであればそれはロムニルやリーリェの守りとして一緒についていく、という形にしなければならない。街の中で乱戦になっていればごまかしは効くかもしれないが今この場で行かせるわけにはいかない。

 公也としては戦争に対し嫌悪がある。知識に貪欲であり今回のことも一つの経験として自身の情報として取り込みたい気持ちがないわけではない。しかし……それでも嫌いなものは嫌いであり、その被害を食い止めたいという気持ちがないわけではない。だが今は動けない。ロムニルたちと一緒に行動することが決まっている以上、勝手な行動はできない。


「キイ様、街の人じゃない鎧を着ていて武装している人たちがたくさん入り込んでる。多分兵士とかそういうのだよ」

「確定か……」

「一応情報は伝えておくけど、どうするかはあちらの判断ね……動かないなら私たちで勝手に動くことも宣言してくるわ」

「……それは」

「いいのかい?」

「ええ。キミヤ君の考えは悪いことではないし、私も戦争の被害者を増やしたいわけじゃない。上がまごつくようならこっちが打って出るわ。命令は出ていないけど、ここで待機するようにという命令が出ているわけでもないわ。動いて、助けて文句を言われるのもおかしな話ではないでしょう?」

「軍じゃなければそうかもね」


 軍隊である以上、上からの命令は絶対というルールは変わらない。しかし現状でその命令が宙に浮いている決まっていない状態ならば? 勝手な行動を多少はできる。もっともあとで追及は免れないと思われるが……元々ロムニルたちは研究者であり軍の所属ではない。ルールを把握していない、あるいは罰則を受けたとしても別に研究できるならそれでいい、いろいろな考えはある。公也はリーリェがこちらの意思を汲んでくれたことに小さく頭を下げ感謝を示した。


※一般的な警戒烏の認識・森の中で枝に止まっていて森への侵入者に対し警戒の声をあげる。

そういった認識になるため移動する部隊の中にいる場合どう言った形で反応するかは不明。

※知識を得ることに並々ならない欲求が主人公にはある。ただしそのために何でもしていいとは思わないし、善悪の判断もないわけではない。嫌悪は嫌悪として経験に蓄積される。それもまた一つの知識、経験ではある。そういう点では決して一切経験しなくていいことではないかもしれない。ただ、望んで経験したいとは思わないこと、ではあるのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ