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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
四章 国境戦争
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7



 目的地に向かうにしても行軍には時間がかかる。人数が人数だ。流石に数万といるわけではないが、数百だとしても人数の多さから考えれば移動にかかる時間は結構なものとなる。そしてそれだけの人数が進む中必要になる物も多い。食料、生活に使う道具の類。今回の戦争はかなり急な出来事であり、予想もできない事柄であったがゆえにそういった物資の準備は遅れている。輜重部隊、物資を輸送するための部隊はすぐに動かせるにしても物資が用意できていない状態である。もっとも目的地に向かう途中に幾らか街があるのでそこで補給を行うことになっている。

 もちろん今回の出来事はかなり急な出来事であるため街にそういった物資の用意がしてあるわけではない。かき集めるにしても国にとって大きな問題となる軍事行動であるからと言って彼らの生活を脅かすような徴収を行うのは難しい。ゆえに街から物資を集めるのに交渉が行われ国から街へと結構な額の徴収の代金が支払われることになった。街の中には足元を見て値段を請求するような者もいるが、今回のような機会は少ない故にこそそういった要求をしてきているのだろう。珍しい形での儲け話である。

 もっとも儲けると言っても今回のことが失敗すればキアラートの国力が下がることになるし、国境が変わればより自分たちの街に近い場所が国教となり現在占拠されたジェルシェンダやゼルフリートのようなことになりかねない。そうなったとき自分が上位者のままでいられる保証はないのだから軍には今回の戦いを成功させ自分たちの立場を守ってもらいたいと言うこともあってそこまで極端なことを言い出す者はいない。もっとも先が見えていない者であったりすると話は違ってくるが。


「……俺はあまり食事を必要としないからいいが、この調子で大丈夫なのか?」

「あまり長期になると恐らく維持はできないでしょうね。途中の街々から物資を貰っているし、輸送の手間を考えると……」

「それぞれの街も生活があるからね。こちらに全部の物資を回すことはできないだろう」


 食料に関しては公也、ヴィローサはそれほど必要としない。リーリェは女性で少なく、ロムニルは一般男性くらい。一番食べるのはフーマルということでそういう点ではまだ食料の配給が普通でも十分問題ないと言った感じである。フーマルは公也から食料を貰うのを悪いと感じているが……まあそこは今後の戦いを見越してのもの。公也はいつでも問題なく戦えるのだからフーマルも十分戦えるようになっていてもらわないと困ると言うことである。


「でも、今回の戦いは長期化できないからそこまで心配する必要はないのよ」

「どういうこと? なんで長く戦えないの?」


 長期の戦いにはならないから心配する必要はない、とリーリェは言う。それを聞きヴィローサが訊ねた。


「参加している戦力の多くが冒険者だからよ」

「報酬の支払いか。まあ限度があるな」

「それもあるかもしれないけど、冒険者は各地の十分大きな労働力でもあるの。魔物に対しての戦力、職人が担当しない単純労働力、様々な薬草や食料などの採取や収穫……冒険者ギルドに依頼される仕事は多岐にわたり数が多い。そんな冒険者をいつまでも軍に引っ張っているわけにはいかないの」

「各地の活動が停止する……農家を兵士に引っ張ってくるよりはましだろうけど、それでも多くの仕事が滞ることになるからね」

「俺たちって意外と重要なんすね」

「当たり前よ。そもそもあまりよくない立場なら冒険者になろう、と思う人間は少ないでしょう」


 冒険者という存在は社会においてそれなりに重要な立ち位置を担う。個々の戦力、専門能力は決して高くない。しかし何でも屋に近い存在で日々の労働力、単純な作業に使うのであれば、急に必要になった仕事を任せたり雑務を任せたりするのであれば、結構いろいろと使える存在である。実際人数をそろえると言う点では冒険者ギルドへの依頼はかなり手っ取り早い。

 またその戦力も馬鹿にできない。専門的に訓練をしている兵士よりも強い冒険者はいるし、弱いにしても一般人よりは強いのが冒険者。普通の人間ではあまり行えない街の外での活動が可能で護衛、探索、調査、採取、さまざまな活動を行える。街の中にいる戦力、狩人など彼らができることを全くできないというわけではないのだがやはり冒険者がいることで大きく助かっていることは事実だろう。特に魔物の間引きはかなり重要性も高い。ゴブリン程度の強さでも数が揃えば厄介になり得るのだから。

 そういうこともあって冒険者をいつまでも拘束できない。いくら戦争という国家にとって重要な活動への参加と言えど、戦争だけで国家が運営されるわけではない。それに冒険者を引き抜いたそれぞれの街にも労働力が失われることで大きな打撃となる。

 そして何よりも金銭の問題、報酬の問題もある。あまりに長期に仕事をさせるとその分冒険者に支払う報酬は増える。一応期間の指定は戦争での勝敗の決定が主となるが、それでもあまりに長期に引き抜いていれば冒険者ギルドから返せと言われるかもしれないし、冒険者もあまり長期に戦争をしたくはない。嫌戦の雰囲気が高まれば脱走する冒険者もいるかもしれない。戦争で人数は恐らく減るから予定よりも支払う額は減るかもしれないが、拘束期間が長くなれば勝敗の決定までの雇用と決めていても長期間分の報酬要求となるだろう。それは国にとっては大きな問題だ。戦争に勝っても国家予算が破綻するのでは意味がない。

 そういったいろいろな事情もあって戦争はそこまで長くならない、という予測である。そもそも本来の軍属の兵士だけの場合でも流石にそこまで長期の戦争はまず無理だと思われるし。


「ま、あまり気にしても仕方ないさ。僕らの考えることじゃないよ」

「そうね。あの人たちのような上の人が考えること。私たちは仕事に熱心になればいいわ」

「……それもそうだな」


 公也たちやロムニルたちが難しいことを考える必要はない。今回の戦争に向かう軍勢をまとめる人間は別にいる。国の軍所属の上位の立場の魔法使い、その彼が今回の諸々を考え対処すればいい。公也たちがやるべきことは己の仕事、戦争における戦力としての活動である。そもそも彼らにそういった方面を期待しても仕方がない。慣れてはいないしそういった教育は基本的に受けていない。特に公也やヴィローサは人と関わるのが苦手であり、ロムニルは研究馬鹿、比較的リーリェやフーマルが社交的とはいえ、それぞれの関わる関係の人間たちならともかく権力者や有力者とはほとんど関わることがないのだから相手をするのは無理だ。別に公也たちは交渉に関わる人間ではないのだから。

 そうして彼らは目的地へと向かう途中、街へと寄る。そうして移動している中……フズが鳴き声を上げる。警戒の鳴き声を。連れてきているが道中に魔物がいたとしても警戒音を上げることはなかった。そもそもフズの警戒の範囲がどれほどかわからない。末端の兵士まで自分のコミュニティの所属であると判断するのかどうかが不明だ。もっとも道中の魔物では反応しないことからそうではないか、あるいは脅威ととらえられないのであれば反応しないか。危険である、敵意を持つ相手に反応するのだが、警戒する必要性がないから鳴いていないだけ、なのかもしれない。

 そこはわからないが、今回鳴き声を上げたことはかなり重大な事実である。それはつまりフズが危険、敵意を持っている相手がいると感じているということなのだから。



※冒険者と軍人すべてを含めても……千を超えるか超えないか? 実際どれくらいの人数が適切だろうか。千も実際にはいなさそうな気がする。

※食料事情とかの関係も実際にはどうなのだろう。こうやっていろいろ書いてるとどういった仕組みになっているのか疑問が尽きない。

※冒険者は各地各国の重大労働力。専門職と比べると圧倒的に数が多く様々な雑務をこなす。労働力としては重要視されない立場ではある物の、数がそのまま労働戦力になるのでいなくなるとそれぞれの仕事に影響が出る。その仕事内容次第ではあるが。

※警戒烏の警戒、相手に関しても範囲に関してもかなり独自の判断によるもの。しかしただ敵意を抱くというだけでは特に反応しない。これから危害を与えるつもりである、行動するつもりであるという場合反応してくれたりする。作者側に都合よく扱える便利屋。

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