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公也たちは現在冒険者の仕事中である。フーマルの選ぶ冒険者らしいイメージを抱く仕事、魔物退治。公也とフーマルが出会った当時は魔物に追いかけられ逃げるようなことをしていたフーマルであるが、公也と共に今までの様々な戦いを経験し、また恐ろしいくらいの脅威と相対しその結果昔に比べかなり戦えるようになっている。まあ命の危険はある程度回避されていたとはいえ、悪霊の群体というあり得ないような存在に対峙したのだから普通でまともな魔物相手に恐ろしいと感じることは少ないだろう。また公也たちが好きにしている間に魔物の相手をしなければいけないなどいろいろと大変な目に合っている。ある意味そういったいろいろな出来事が原因と見えるが、ともかく大きく成長しているわけである。
とはいえ、あまり一人で戦うというのも難易度は高い。公也たちがいない状態ではフーマルも危険があるのであまり無茶なことはしない……逆に言えば公也が一緒の今回はそれなりに無茶をしている。もっとも、冒険者のランクの問題の関係もあってあまりに無茶な仕事は選べないし、この近辺でそこまで極端な魔物の脅威というのはそれほど多くはない。
しかし、人里から離れた場所ならばそれなりに魔物の脅威はある。退治の依頼は出されることが少ないが人の入ることのない山中や森の中にいる魔物などは残っている。退治依頼としては出されないが素材を求めたりする依頼などはないわけではない。ただ公也たちのいる街は大きな街というほどでもなく、中心的な街でもないためそれほど素材を求める依頼もまた少ない。人が多い都会では素材を求める依頼があるがそちらでは逆に魔物が少ないなどの問題もある。そちらから魔物のいる場所へと回ってきた依頼などはあるかもしれない。
なんにせよ、公也たちは今現在魔物退治のために人の手の入っていない森の中に入り込んでいる。ついでにリーリェたちから何か魔法研究に使えそうな、魔法薬の作成に利用できそうな素材の採集も頼まれていたりする。
「風よ彼の者の目を激せよ」
公也が風の魔法を使い大きな熊の姿をした生物を攻撃する。この世界には厳密に言えば魔物ではない生命体も多く存在する。魔物ではないが魔物のような特徴を持っていたり、あるいは魔物よりも脅威になるような生命力、巨体、肉体能力を持っていたりする。だがそれらでも魔物でないものは魔物ではない。魔物とはこの世界における摂理から外れた生き物であり、驚異的な身体能力を持ち人間の脅威になるからと言ってそれが魔物であるというわけではない。
そういう点では今公也が戦っているのは魔物ではない一般的な動物と言える。もっとも、その肉体……毛皮や内臓などいろいろな所が有用であると考えられており素材を集める依頼は出されていたりする生き物である。人里に降りてくることはないので脅威として排除することは依頼として出されていないが、食料が少なくなったり個体数が増えたりあるいは縄張り争いに負け人に近い場所まで下りてくることもある。この近辺では比較的珍しくもない強さを持つ生物である。
「うりゃあっ!」
風の魔法により目に刺激を与え、それにより一時的に視界を奪ったところにフーマルが懐に入り剣を振るう。その一撃は大熊の体を大きく切り裂くが、相手の巨体故に致命的な部分までには届かず致命傷とは言い難い。そしてその攻撃を行ってきたフーマルに対し反撃をしかける。懐にいるため少し狙いにくいものの、二足で立っているため前足は腕のように扱えそれを叩きつける。
もっとも既にその位置にフーマルの姿はない。一撃を与え直ぐに離脱したからだ。このあたりは戦いに慣れてきたからか、あるいは妙に危険な出来事ばかりに遭遇するため危機回避能力が高まったため懐に入ったままだと危険だと認識したからか……どちらにしてもフーマル自体の能力あがっていると言っていい。しかし流石に大熊を一撃で倒しきるだけの戦闘能力は有していないようだ。その点に関してはまだまだ成長の余地あり、なのだろう。そもそも公也と出会ってそこまで大して時間が経っていない状況でその当時から今までの成長の時点で結構な駆け足だ。現時点でも十分すぎるほどである。
「ガアアアアッ!」
「とおっ!」
跳びあがり立ち上がっている大熊の上から切りかかる。上に上がることで大熊はそちらに跳んだフーマルへと意識を向けた。
「ふっ!」
そこに公也が入り込み傷口に重ねるように剣を突き入れる。深く入り込むそれは大熊にとっては大きなダメージになる。そこで苦痛で意識、動きが鈍ったところに大熊の上へと跳び上がったフーマルが思いっきり剣を首へ向けて振り落とす。斬り落とすほどではないが、大きく斬り入れ深い傷口を作る。人間でもそうだが頭部という重要な部位に血を送り出す血管を斬ることで血が大きく噴き出している。普通の四足の獣と違い比較的立ち上がることも大熊の場合多く、重力に逆らい血を送り出す力が強いためか結構な勢いで噴き出す。
「グ……ガ…………」
「っと、まだ生きてるっすか?」
「……このまま放置でも死ぬな。だが念のため首を落としておいた方が安全性は高い」
「じゃあやるっすね……っと、油断は大敵っすけど」
フーマルが再度首を斬り落とすために近づこうとしたところで、一歩立ち止まり意識を切り替える。フーマルは大きく成長したためか、何度か魔物や動物を相手にしたときに油断をしていることがあった。本人が割と調子に乗りやすいたちもあるのかもしれないが……ともかくそのせいで何度か危険な状況があった。もちろんそれは回避できているため今無事に彼がここにいるわけだが、その経験もあって止めを刺すという場面でも油断をしないように、と意識するようになった。そもそも止めを刺すときなど相手が一番抵抗してくる可能性の高い場面なのだから油断してはいけないだろう。油断するくらいに相手が弱っているわけであるが。
特にこれと言って問題が起きることもなく、大熊の首を切り落とす。そして今回はこれ以上の探索はしない、ということになった。一応公也が空間魔法でたくさんの荷物を運べるわけであるが、フーマルとしてもそればかりでは自分の筋力、体力がつかないと考えたからだ。はっきり言えばそこまでして無理にお金を稼ぐ必要性も実際のところあまりない。
現在五人のパーティーと言える状況だが、根本的に戦闘に参加する可能性が高いのはフーマルと公也、そのうちの公也は魔法を使い武器は補助的。近距離戦であるため防具は要るしある程度まともで使いやすい有用な武器はあるべきだが、それでもそこまで消費はないと言っていい。ヴィローサはそもそも武器も防具もなし、ロムニル達は後衛で魔法使い。近距離戦の対策や防御を高める防具は必須だがそもそもが戦闘要員というわけでもない。いざという時戦いの舞台に立つがその時に必要なものを準備するくらいでよく、普段は使わないので消耗も少ない。旅ということで移動やそれに伴い必要とする必需品のお金はかかるものの、ちゃんと冒険者の仕事は途中で行うのでそれに関してのお金は問題もなく、ロムニル達もそれほど極端に消費することはない。魔法薬を作るのも現地調達で色々集めることの方が多いし。
そういうこともあり、武器防具にしっかりとお金をかけるのはフーマルくらいでそこまでお金稼ぎを意識する必要がない。冒険者として大成したいという理由もあり鍛えあれこれとフーマルは依頼を受けるが公也たちはあまりそういった点は意識しないし興味もない……多少興味はあるかもしれないが、ともかくお金を必要とするようなことはフーマルの場合が多い。なのでお金稼ぎはそこまで熱心にする必要性がない。一応お金を稼ぐための動きも見せるが、公也とヴィローサは基本的に貯金するのみ、ロムニルとリーリェはリーリェがまとめて管理しちゃんとした貯蓄をしつつ普通に生活できるくらいに使っている。そういう体制になっているため熱心に頑張っても仕方がない。パーッと使われることがないので成果をそこまで粘る必要性もない。お金があっても別に冒険者の評価にはつながらない。冒険者ギルドにおける評価は大半は依頼をこなすことでもらえるものだ。依頼に出ていないことまでそこまで熱心にやる意味がない。
そういうことで今回はこれで終わり、となっている。
「ふう。今回も大物だったっすね」
「そうだな」
「私が頑張れば一発なんだけど……」
「ヴィローサさん毒持ちじゃないっすか……毒に汚染された物は持ち込めないっすよ……生モノっすし」
「はー。冒険者ギルドも面倒くさいわね」
「そこはしかたがない。毒を除去できるだろうが……気分的な問題もある」
「そうね。私とキイ様ならそのあたりはあっさりどうにでもなるわよね」
ヴィローサが毒で殺し、公也が暴食で毒を食らう。裏技的なやり口だがそれで一応毒のない物を持ち込める。まあ、一度毒に汚染された時点で毒がなくなったからと言って気分的にはあまりよくないし、変質する部分もあるので毒さえ除けばいいと言うわけでもないだろう。フーマルの修行、また公也自身の修行にもなるのでまともに戦う方がよほどいい。そこまで苦労を要するようなことでもないし。
「こうやって魔物や動物と戦うだけでやっていければいいっすけどね」
「一応そろそろ別の街に行きたいところだけどな」
「……ああ、こんな楽しい日々ももう終わりっすかー。ま、今回は十分思いっきりやらせてもらったっすしそろそろいいっすかねー」
フーマルが依頼を選ぶのは公也がいろいろと勝手に取り決めたことへの代価である。それに関しては既に払い終えたと言ってもいい。今回のことは公也自身もそれなりに楽しんでいたしそこまで代償として厳しいと言うわけでもない。とはいえ、何時までも同じ街というのはそれはそれで楽しくない。そろそろ彼らは街を出る。恐らく目的地は首都となると思われるが。
※フーマルの戦闘能力はだいたいDランク冒険者相当といった感じ。単独で戦ってDランク相当なら十分なくらいだと思われる。
※生活も含め一番お金を使うのはフーマル。特に装備に。主人公も多少武器や防具にお金を使うがあまりそこまでこだわらないし必要とする頻度が少ないのでそこまでお金は使わない。なお一番使わないのはヴィローサ。妖精なので当然というべきか。




