11
わいわい、ざわざわと、外の音が聞こえる。私は力を封じる手枷を填められて檻に閉じ込められている。檻は小さい。この小さな体ですら自由に動かせないようなとても小さい檻だ。妖精である私を閉じ込める檻。手枷と一緒に力を封じ、私が彼らに危害を加えることを封じている。
ああ、なんで私は彼らに捕まっているんだろう。ただふわふわ、ゆらゆらとそのあたりを漂い遊んでいただけなのに。人間が私たち妖精を捕まえ、好事家に売ろうとすることがあるのは一応知らないわけではないけれど、でも私がそんなことになるなんて思わなかった。妖精としては見た目だけなら人間に近しい、人間の基準でかわいいことは知っていた、知っていたけど、こんな私のような妖精を捕まえ売ろうとするなんて思いもよらなかった。
私はちょっと妖精の中でも特殊だ。見た目が人間に近いこと、その色の奇妙さ、知識に関してはあっても、私は他の妖精と同じ、自分勝手で好き勝手な子供のようなものだ。でも、今ここで盗賊に捕まって……力を封じられて、私は自分という存在に思いを馳せている。だからだろう、こんな思考ができるようになるとは思わなかった。今までの妖精としての私だったなら絶対にありえない思考。でもこれで私を捕まえたこの人間たちに感謝なんてすることはない。どうせこの後私はどこかの誰かに売られて、おもちゃにされるか慰み者にされるか実験台にされるか。いい未来なんて考えられない。
妖精の時はこんな未来なんて考えなかったのに。今も妖精だけど、考えが人間寄りになっているのは捕まえられて妖精としての力を奪われたからかしら。近しい姿、近しい存在の人間の精神性が強くなったからかしら? もう、そんなことはどうでもいいけれど。
このまま私は彼らの手で、誰かに売られてしまう。私は自分で逃げ出すことができない。誰か……誰か、私を助けてはくれないかしら。そんなふうに、こんな場所で思ってしまう。そんな希望なんてありえないのに、私はその希望に縋るしかない。そんなことがあるわけない。あったら実に都合がいい。私にとって都合がいい……でも、もしそれがあったなら、それは私にとって素晴らしいことなんだろうと思う。運命だと思う。
ああ、たぶん、私はもう壊れている。妖精から外れた妖精になっている。壊れた妖精に。
だからそんな事を思うんだろう。誰か、助けてください。誰か、助けて、私の王子様。
「ここか」
公也は盗賊のアジトに到達する。襲ってきた三人のうち、生き残った二人を尋問……いや、拷問して得た情報……いや、もともとは暴食によって得た情報を元にそこに到達した。拷問はそもそも目的が拷問ではなく掴まえた盗賊を利用した人間観察でしかない。一人は体の中身を覗き、一人は行為に対する反応を観察する。人間がどのようなときにどのような反応をするのか、感情の動きなどを確認すること。人間が生きたまま解剖され、生きている間の体内の動きを確認すること。そういったことを目的としたものだ。実にマッドサイエンティスト的な行為だと言えるような内容である。
まあ、そういったことは彼の生きるうえでの充実を満たすうえでのついでの行いである。実際には暴食により得られる情報、知識の確保の方が目的としては大きい。あとは肉体を糧とすることや、魔力や生命力も理由ではあるが。結局のところ、盗賊たちから得られるだけ全てを得ることが目的である。特に服や防具、武器なんかは得るうえで大きな価値があるだろう。公也はそういった代物を一切有していない。彼らの服はそういう点では大いに利用価値がある。まあ、多少ボロボロで匂いや汚れで着られたものではない可能性はあるし、そもそも他人で悪人が着ていた服を着るのはどうか、とも思うが。そこは暴食を利用した洗浄……に近い汚れ除去ができるのでそれをうまく活用してもいいものかもしれないが。
ともかく、いろいろと物品の回収もしているが回収した情報の方も重要である。盗賊のアジト、公也を襲おうとしていた彼らが根城としている場所が彼らの知識から判明している。そこに公也は向かい、そこを襲おうとしている。盗賊などは犯罪者であり、どれだけ容赦なく叩き潰そうとも特に問題はない。裏社会に関わりのある盗賊だと面倒ごとになりかねないし、国に広がっているような盗賊グループとかならば報復とかもあるかもしれないが、公也の得た情報によると彼らはそういった大規模だったり面倒なものではなく、単に日冒険者が結託して盗賊となったような形だったため、特に問題ないと判断された。
この世界では冒険者のような存在があり、それらの中には荒くれ的な素行の悪いものもいる。そういった者は冒険者としての仕事に慣れず、あるいは失敗し盗賊のような犯罪者となることはままある。それが一人二人ならばそこまで大きな面倒もないが、複数のグループが結託した結果小さいながらも盗賊団のような形となった。もちろん人数は全員で十人前後でしかなく、盗賊団と言ってもとても小さなものである。ゆえに森に迷い込んだような旅人を襲い殺して追いはぎをするような集団となっている。
「………………騒がしいな。まあ、バレにくくなるのはありがたいかな?」
公也は盗賊のアジトにこっそりと入る。特に罠もなく、見張りもなく、盗賊という割にはセキュリティが甘い。まあ、結局その程度の盗賊ということだろう。そもそも公也のような存在に襲われることを考えているわけでもないようである。まだ見つかっていないし、活動場所を森の中だけに限定しているからだろう。それでも普段は少し警戒しているのだが、今回は少し大きな捕り物をしてその成果が良かった。そのため中にいる仲間で宴会のようなことをしているわけである。ちなみに外にいた三人はまだ戻っていないため省られていた。別に仲間ではないわけではないが、忘れられていたというか、無視されていたというか、実に悲しい話である。まあそんな事を想うことはもうないわけだが。
「よし、とりあえず……下手に姿を見せて戦うとかせず、普通に暴食で殺してしまおう」
面倒な戦いはしない。ただ、己の力を振るうだけでいい。それでこの戦いは終わり。盗賊は全滅し公也はそのすべてを奪うことができる。それで十分、戦いの経験はあったほうがいいが無駄に経験し消耗する必要はない。多少魔法に慣れたかったという本心はあるが、それくらいは別の機会もあるだろう。そう思い、公也は暴食の力を使い、中にいる盗賊たちの頭を一瞬で刈り取った。
※妖精が行う人間的な思考。元々の資質に加え妖精としての力が抑えられ妖精分が少なくなったことが要因。それが後々悪い影響をもたらすことになる。
※頭部は暴食での攻撃対象として最もいい部位。知識の吸収も行えるし即死させることもできるため。




