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公也、ロムニル、リーリェ、フーマル、ヴィローサ。今回一緒に出向いたギルドの職員も含め、悪霊退治に参加した冒険者および魔法使いが集まっている。集まっているのは彼らだけではなく、ギルドマスターやこの街を治める人物……および治める役割を担う側の重要人物たち。理由としては今回の悪霊退治の進捗、成果の報告ということになるがそちらの面では特に問題はなかった。一応見届け人としてついていったギルドの職員からの報告があるし、ロムニルたち魔法使い側の報告もある。冒険者と違ってロムニル達はそういった面では魔法使いとして国側国寄りの立場である。公也の発言の信用性はそこまで高くなく、フーマルやヴィローサも同じでギルドの職員及びロムニル達の発言が信じられるものかどうかの判断となる。まあ、ロムニル達は公也の仲間なので仲間をかばう意図を考慮しなければいけないが、彼らは研究者の研究馬鹿なのでその点に不安はない。もっともそれは彼らのことを知っていればこそだろう。知らないのならばそこまで信じきるのも難しいかもしれないが。
さて、問題とするのはその点ではなく。今回の事柄で最大の問題はネクロマンシーの存在。悪霊を行使していたのがネクロマンシーであった……というのは別に変な話ではなくそこまで大きな問題ではないのだが、その後ろにいる存在が極めて大きな問題となっている。ネクロマンシーから聞き出した、という形で公也が話したネクロマンシーが所属していた裏の組織。国に敵対しているというわけではないが国の考え、意図から外れ地下活動を行う危険な発明を行う組織の存在。ネクロマンシーを引き入れその力を用いて兵器とも言えるような人間に近い存在を作り出す考えを持つその組織の存在はいろいろな意味で困った話になる。
「……それは本当なのかい?」
「俺がネクロマンシーを見つける前にぶちぶち呟いていたのを聞いた。その後倒して連行する途中、聞きだしたこともある。全部は言わなかったが……」
「ふむ……それは信用できる内容か? 事実と言い切れるのか?」
「わかりません。俺はあくまで聞いたことを元に話しているだけです。ですがネクロマンシーのアジトで見つけた物を考慮すれば全く真実を含まないとは思えない内容ではないですか?」
「……ふむ」
机の上に今回の話をするうえである程度の聞き取りや回収できた物品に関しての資料もある。そしてそこに記載されていた事柄などを含めいろいろな情報もまとめてあり、その情報などを確認したうえで考えるならば公也の言うことは信じられないようなことでもないだろう。ただ、それが行われていた場所が少々遠方であったり、またその内容が少々現実味が薄い、今の所実現しているものではない事柄に対する研究であったということなどが信じるには難しい要因となっている。
とはいえ、別にその内容の真偽は重要ではない。仮にそれが真実でないにしても、そのネクロマンシーの所属していたという組織自体の存在が大きな問題になる。内容の真偽、存在の真偽は不明でもその場所、組織に関して調べる必要がある。出てきた物が別に特にこれと言って問題のない内容だったとしてもそれならばそれでいい。まずそれ自体を見つけ調査することの方が重要になる。
そして公也はこのことに関して今回一つの提案をしている。この件に関してギルドやこの街の人間ではなく、これから悪霊退治に出向く可能性の高い国側の魔法使いを要する人員に頼み解決してもらうということである。
「まあ、これに関しては事実かどうかは今の時点での判断は難しい」
「そうだね。しかし、この調査に関しては私たちではなく国に任せると? それはなんでだい」
「今回の事件、国はまだ動いていないが今後も動かないものか? 解決した……と判断し国側から悪霊退治の人員を向けてこないと?」
「ふむ……少なくともこちらから報告しない限りは事実を調べるための人員は向けてくるだろう」
「今はまだ動いていない……と、そんなはずはないね。必要な人員を集めている途中か、あるいは既に送り出したか。一応街道を封鎖されていたんだ。国としても解決に乗り出さなければ何のための国家かね。国が雇う兵士や魔法使いの存在意義が疑われる」
「仮に動いていれば……すべてこちらで解決したというのはメンツの問題になる。こちらがあちらの立場を潰すのは今後の関係を考慮してもあまりよくない。そういう意味では彼らに活躍の機会があるこの提案は決して悪いものではないだろう」
「うちに来たばかりの新入りが提案したというのが気に入らないがね。ま、その情報に関してはこちらで利用させてもらおうかい」
公也の提案はそれ自体は決して悪いものではない。仮に国側が動いていない場合でもギルド側から人員を差し向けることができる。街は流石に遠方、関係のない場所であるので差し向けるようなことはない。いろいろな意味で動かすという点ではこちらに来たここの存在ではない国側の人間がいいが、それがいないならいないでギルド側でどうにかするしかない。そういう点では動いてもらった方がありがたい。
しかし実際どうなるかは不明だ。ゆえにある程度早めにどうするかを判断しなければならない。
「それなんだが、俺はその場所を聞きだしている。もちろん資料にも載せたが、現地の案内は必要にならないか?」
「あんたがどこまで知っていると言うんだい? そもそもそこまで案内できると? 怪しいねえ」
「……む」
公也の能力、暴食による知識の確保はかなりの特異的な事例。それによる情報収集は普通に考えれば認められるような事柄ではない。すべての事柄について語れば怪しまれるのが関の山だ。公也は少々話しの出し方を間違えたと言える。
「……ま、うちとしては使える人材がいない。あんたでも差し向けられればギルド側から人員を出したという形にできる。あんたに利用価値がないというわけじゃないだろう」
「…………………………」
「いろいろな意味であんたは気に入らないが。いいだろう。そっちが望むなら使ってやってもいいよ? どうだい」
「…………今回のことは参加してみたいという欲求がある。だから参加したい。その案内に俺を使ってもらえるだろうか」
「ああ、いいとも。まあ国が相手だからあんたに碌な報酬は出ないよ。それでもいいかい?」
「…………………………わかった」
フーマルは少々不満そうに師匠、勝手に決めないでくださいっすという表情をしているが他は概ね不満はないだろう様子である。まあ、フーマルに関しては後で公也がどうにか納得させるしかない。公也としては余計な労働の対価はお金でフーマルに払ってもいいだろう。それはそれでフーマルは納得しなさそうではある。そもそもフーマルとしてはどういう判断を公也にしてもらいたいのか、自分の扱いをどうしてもらいたいのか公也は微妙にわからない。師匠と弟子という立場だが、ある意味仲間内で一番フーマルが扱いに困るともいえる。まあ、その代わり一番対処しやすいのもフーマルだったりもするが。ただそれは頭を押さえつけるというような形で無理やり言うことを聞かせる形で、になる。そうならないように意識をしていかなければいけないと公也は考えるが、なかなかうまくいかない様子である。
まあ、そんな仲間内の事情はともかく。ロムニルたちは未知の魔法も関与している研究に触れられるという点で不満はなく、ヴィローサは公也のすることに従うのみ。フーマルも納得はあまりしていないが話自体は受け入れ、問題なくネクロマンシーの所属していた組織のアジトへと向かうことが決定した。ただ、国側からの人員が来なければ動けないという問題もある。そのためその人員が来るかどうかの確認、調査を行わなければいけないしまた来ない場合でも人員を送らなければその組織が残る問題がでてくる。なので一応の人選もしなければいけないと基本的にはしばらく待つことになったのであった。
※主人公の扱いが悪い気がするが一般余所者冒険者は大体扱い悪い。そもそも冒険者でもちゃんとした信頼ができるのはCランクから。地元冒険者ならまだそれなりに認識はあるかもしれないが。
※ぶちぶち。ぶつぶつではない? ぶつぶつぐちぐちつぶやくでぶちぶち?
※いろいろやって兵士とか魔法使いと送り出したのにもう終わってました、何の成果もありませんでした、はあまりよくない。今回の悪霊退治は終わったが裏で関わっている黒幕の存在を示唆しそちらの対処に出向く、という形で成果を渡すという話。めんどい。




