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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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「空間魔法だと……」


 捕縛のために使う縄を公也が空間魔法を使い取り出すのを見てネクロマンシーの男は驚いたような声を出す。別にそれほど厳しい魔法でもないが、維持が面倒くさいという点では空間魔法は扱いにくい魔法であるといえる。そんな魔法を使っている公也の実力に対する驚き、あるいは嫉妬や羨望なども混ざっているかもしれない。そんな複雑な眼でネクロマンシーは公也のことを見ていた。

 そんな視線を気にせず公也は男を縄で縛り捕まえる。捕まえると言ってもぐるぐる巻きにして完全に行動を封じるという意味合いではなく、ただ腕の手首で縛り動きやすく運べるようにする程度の話だが。当然ながらそんな捕縛で行動を制限できるものではない。魔法使いはそもそも詠唱すら本来は必要なく魔力のみで魔法を行使できる。そもそも多少拘束したところで魔法を使えなくするのは不可能だ。もっとも通常魔法使いが魔力のみで強力な魔法が行使できるほど魔法も楽ではない。消費する魔力が詠唱する時としない時では大きな差がある。詠唱が一切なく魔法を使うのをばれないようにするのは公也ほどと行かなくともかなりの魔力がいることに間違いない。ネクロマンシーの男はそこまでではなく、詠唱さえ気を付ければそれほど注意する必要もない。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………油断したな! 死ねいっ! 悪霊ども仕事をしろっ!」


 もっともそれは普通の魔法使いであり、また新しく使う魔法に関して。既に使われている魔法を封じることは魔力の源である魔法使いから離すか、魔法自体をどうにかする必要がある。そもそも維持する魔法の多くは公也が使う空間魔法のようにその維持状態を確認できるようなものではない魔法、バックグラウンドで行われているような表に出ず認識できない補助的なものが多い。

 そしてネクロマンシーの場合、死者を従え操る魔法は一度行使した後はそれほど魔力を消費しないようなタイプの魔法であり、特に単純に従え操作するだけの霊体を使役するような魔法は隠しやすく発見もしにくいと言える。死体を操る場合は流石にばれるが。そしてネクロマンシーの男も霊体のアンデッドを隠しており、そのアンデッドを公也へと放った。公也と歩き、後ろをとり、背後から不意打ちを狙ったものだ。不意打ちを狙うのならば少なくとも言葉をかける必要性はないと思われるのだが、言っても仕方のないことだろう。彼はそういう性格なのだから。

 ネクロマンシーによって操られた霊体のアンデッドが公也へと向かう。既に公也の使う魔法は消えており、先ほどのようにただ剣を振るえば対処できるような状況ではない。ネクロマンシーも一度公也の剣の様子を見て注意していた……のかもしれない。もしかしたらそこまで細かく考えていない可能性もある。ともかくネクロマンシーはそのタイミングを狙って公也へと攻撃を仕掛けた。


「ふははははははははははは! これで私はお前から逃げられる! アンデッドどもに負けるかどうかは知ったことではないが少しでも動きを阻害できればそれで」

「聖なる光よ」


 たった一言。公也が魔法を使うのに長々とした詠唱や呪文は必要ない。公也は高い魔力を持ち、その魔力だけで詠唱すら不要の魔法を扱うことができる。もちろん消費する魔力の問題、発動する魔法の威力の問題など、様々な問題があるが場合によってはそれすら魔力で問題を解消できる。多少魔力を使っていたとはいえ詠唱一つで悪霊に対応することは難しくない。

 一瞬の強い霊体を浄化する光、それに曝され公也を襲おうとしていたネクロマンシーのアンデッドたちは容赦なく消え去った。


「な、何故! なぜ私がアンデッドを使うとわかった!? いやその一瞬で使う悪霊を倒せる魔法は一体……!」

「そもそも魔法使いをただ縛っただけで抑えられるなんて思わないだろ。ただでさえ霊体のアンデッド従えている相手だ。油断するわけないだろ」

「なんだと!」


 魔法使いを捕えたところで油断はできない。仮に捕まえた相手が公也であると置き換えてみれば、物理的な戦闘能力を考慮せず魔法の能力だけで見ても油断できるような相手でないと考えることになるのはわかりやすいと思われる。公也も最初からそれをわかっており、先に念のため対応する準備をしていたのが大きい。そもそも向こうが襲いやすい舞台を作るというのも半ばわざと、と言ったところである。


「さて。捕まえた状態でお前はこちらに攻撃してきたわけだが……何か言い分はあるか?」

「なにっ!? ふざけるな! すべてはお前が悪いのだっ! 私を捕え死に向かわせる、地獄を見せようとしているお前がすべて悪いっ! 私はすべて正しい! 私こそこの世の正義であるっ! だから死ねっ! お前は死ねっ! 炎よ球となりて相手を撃て! ファイアーボール!」

「ウインドボール」


 ネクロマンシーは魔法を使い公也に攻撃を仕掛けてきた。ネクロマンシーは別に霊体の操作以外のことができないわけではない。元々は魔法使いであり、アンデッドたちを支配し扱うのもまた魔法によるもの。つまり普通に魔法を扱うことができる。ただ向き不向きの問題もあり、またアンデッドを扱うほうが彼らの場合魔力消費が比較的少ないということが多い。それゆえにアンデッドを使っている。しかしこういった場面で不意打ち的に魔法を使うことで意表を突いた攻撃ができる。もっとも公也はあっさり対応したが。わざわざ詠唱までしている時点で魔法を使ってくるというのがわかりやすいので仕方がない。


「くっ!? まさか防がれるとは……!」

「抵抗はそれくらいでいいか? 俺としてはお前に詳しいことを教えてもらって始末したいんだが」

「そんなことを言われて言うわけないだろう!?」

「まあそれもそうか……仮に連れていかれたとして、話すとも限らないよな。じゃあ、お前はここで終わらせる」

「な」


 暴食の特殊能力がネクロマンシーの首から上、頭部を襲う。一瞬でその命が断ち切られ、暴食の力にて公也はネクロマンシーの頭部、その脳、持ち得る知識記憶から必要なことを知る。ある程度情報の制限、必要として得る情報の制御をしないと無秩序無作為にあらゆるすべてを知るのは公也の情報処理能力を超える。ゆえに普段はあくまで蓄積するだけの情報として取り入れるのみ。その情報から必要な情報を取り出すのは難しい。ゆえに今回のように暴食で食するときに得るべき情報を想定したうえで食し、知識を得る。そえが暴食による知識の取り込みの基本的なやり方だ。


「…………こいつだけじゃないだと? ネクロマンシーじゃないみたいだが」


 得た知識はいろいろな意味で実に面倒な物だった。果たして公也だけで解決できることか、話していいことか。それすらわからない実に面倒な話であった。


「とりあえずこれは証拠として持ち帰る……頭部がないからわからないかもな。まあ、正体を示すうえで少しはなにかの役に立つだろう。これを運ぶのが少し面倒だな……」


 ネクロマンシーの死体は持ち帰り見分してもらわなければいけない。それだけが少し面倒な状況と言える。もっとも対峙し倒した者として、そのネクロマンシーから情報を得た物としてその証拠ともなるネクロマンシーの残した死体は持ち帰らなければ行けないだろう。死体は重く持ち帰るのは実に面倒くさいと言える。少し考え、公也は別に空間魔法を使いそちらに死体をしまうことにした。生物ではない死体なら多少空間魔法で持ち運んだところで害はないゆえに。




※異空間を作成する魔法は空間が作られている間は常に魔力を消費する。つまり異空間を作成した後その維持をし続けるだけの魔力を持っているということになる。そのうえで様々な魔法を行使するのは魔力的におかしいレベル。

※なお空間魔法自体一般的な魔法ということでもないので少なくとも冒険者の中に使用者はまずいない。前述の消費の問題もあるし。魔法使いでもそう使えるものでもないので全体的な使い手は少ないほうである。魔法を使用するというだけならばできないわけではないかもしれないが。

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