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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
三章 群体悪霊
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 戦闘が開始されそれなりに時間が経過し、魔法を付与された剣での攻撃、遠距離からの魔法の攻撃、近距離での魔法使用、様々な攻撃を通し悪霊の群体の総実体はそのほとんどを削り落とされている。特に効果が大きかったのはやはり闇を取り払った後の光系統の魔法によるものだろう。悪霊、霊体のアンデッドは基本的に光には滅法弱い。太陽光、聖光、単純な光だが剣に付与した物、どの魔法も大きく効果を発揮している。その中でも一番は聖光の魔法だろう。もっとも何をもって聖、何をもって邪、何をもって善や悪を語るのかは疑問であり、そもそも悪霊は何が悪なのか。

 そんなずれ込んだ思考はさておき、悪霊の群体はその群体を構成する悪霊の悉くを失い、残りはまだ残っている悪霊と……その繋ぎとなっている、恐らくは後ろにいるネクロマンシーの干渉の多い指示を通すための個体、といったところだろう。悪霊の群体を構成する多くの霊体は膨れ上がるような、半分人の形をして半分人の形から外れているような異形じみた状態であったがその中唯一、元と同じであるだろう少女の姿が残っている霊体がある。それは悪霊たちの中心に在り、揉みくちゃに潰されるような形で存在していた。あるいはそういった状態でも潰されないからこそ群体のつなぎとして存在できているのか。少なくとも現状はその繋ぎになっている少女の霊体にとっては苦痛であるだろう。


「…………………………たす」


 "たすけて"、その言葉のすべてを発することはなかったものの、その言葉を告げようと少女はしていた。かなり削られ外側に存在するものが失われた状態でもまだ話をすることができない、そんな状況なようだ。もしかしたら魔法による攻撃を受けてそれによるダメージがその少女の霊体にもあるのかもしれないので公也はそれを考慮してロムニルたちに指示を出す。


「ロムニル! リーリェ! そっちの攻撃はもういい! 後は俺がどうにかする!」

「本当にそれでいいのかい!」

「ああ!」

「わかった! 後は頑張ってくれ!」


 ロムニルたちはその指示を承諾して公也に後を任せる。


「フーマル、一時的に離れてくれないか?」

「え? いいっすか?」

「ああ。よくここまで戦ってくれたな。とりあえず今はロムニルたちの所に合流してくれ。流石にそろそろ魔法も切れるかもしれないし」

「む。そういうことなら……じゃあ、俺は行くっすね。師匠、頑張ってくださいっす」


 そしてフーマルも一時的に離れる。


「さて……覆い隠すもの、光に満ちて闇にて隠し、姿なきその身を癒す、汝らの存在を維持せん。ブラックカーテン」


 公也は悪霊の群体と一緒に闇の中にその身を隠す。外側は光にて、何も見えないようにしてだ。悪霊の群体は光の中から外れ元気に、活発になる。外から中の様子を見ることはできず悪霊の群体、公也がどうなっているかを知ることができない。


「最初からこうすれば手っ取り早かったんだが、さすがにそれはな……」


 手を横に振るう。ぐわっ、と悪霊の群体を公也の能力が襲った。公也の持つ暴食はこの世に存在するほぼすべての物に作用する。魔法も然り、生物も然り、空気、空間もまた然り。そして霊体のような実体を伴わない存在に対してもまた然り。この能力の作用が及ばないのは今のところ公也が知るところでは魔力くらい。魔力そのものは今のところ公也のその能力で喰らったことはない。魔力総量に関しては生物を食らうことで加算される形で公也の力となっているのだが、魔力にそれが及ばないのは大きな疑問である。

 と、そういった能力の作用に関する話は本題から外れることになるだろう。公也は悪霊の群体に暴食の力を使い、露出している一応はその姿を見ることのできる少女以外の悪霊を食い除いた。見えない状態では少女ごと食らう危険性もあった。一応対象の選別はできるが公也自身認識しきれない状態ではどうなるかもわからない。そういう意味ではある程度悪霊の群体の外側を削りその中に存在する声の主である少女を認識できる状態にする必要があった。

 悪霊の群体を魔法によって削っていた理由の一端はそれだ。他にもフーマルの修行、魔法効果の検証、新たな魔法開発、霊体のアンデッドの性質や反応の調査などいろいろな目的もあったわけだが。ともかく、周りにいた悪霊を全て取り払い中にいた少女を取り出すことができた。


「初めまして。お前が俺に声をかけてきた、助けてと言っていた子だな?」

「あ…………は、い………………」


 何かに耐えるように、少女は公也の言葉に答える。


「…………私、全部話すことはできない」

「……ネクロマンシーか?」

「…………私、操られてる、から……………………だから、たすけて、としか、言えなかった」


 少女の後ろ、今回の悪霊騒ぎの後ろにはネクロマンシーの存在がある。予測はできたことであるが霊体のアンデッドとして悪霊の群体の繋ぎにされていた少女の証言でそれがはっきりとわかる。


「そうか……」

「あり、がとう………………たすけてくれて………………」

「…………助けたというほどの物でもない。結局お前を救うことは俺にはできない。俺たちにできるのはアンデッドを倒すこと、この世から消すことだけだ」

「それでもいい………………もう、これ以上、人を襲わない。潰されるような痛みが、ない。それだけで十分だよ」


 少女は今ネクロマンシーの支配に抗っている。少女はネクロマンシーのせいで霊体になった存在であるが、その霊体、アンデッドとしての才能は高かったようだ。それゆえにここまでその意思を持たせることができ、またネクロマンシーの支配に抗うことができている。本人に言わせればいらない才能だったわけだが。しかし、それがここにきてネクロマンシーに対するカウンターになり得る。


「お前はネクロマンシーの存在を知ってるか?」

「…………私を、使ってる…………操ってる……でも、今は耐えてる」

「どこにいるか、知っているか? 話せるか?」

「………………わかる。でも…………話せない…………………………話せないようにされてる」

「……そうか。知ってはいるんだな」


 ネクロマンシーも少女を支配しきれない、操りきれない……だが自分のことは流石に言わせないようにしている。だが公也にとっては知っていればそれだけで十分である。少しだけ、心苦しいものではあるが。


「俺はお前の代わりにそいつに復讐しよう。その代わり、お前は今の自分を、霊体であるとはいえ生きている自分を失うことになる。それを望むか?」

「…………………………復讐は望まない、けど…………悪いことをするのは、ダメ。だから…………いいよ」


 なんとなくであるが、少女は公也が自分を殺すつもりであることを察する。失う、という言い方だが結局それは死を意味するものだろう。お前を殺し、代わりに復讐を。お前は復讐をすることができなくなるから。そういう意味合いだ。そもそも彼女ではネクロマンシーに支配されている弊害もあり殺害に向かうことはできないだろう。相手の方が霊体に対する能力は上でもある。公也が代わりをするというのは悪いことではない。しかし復讐ということは少女の望むところではなかった。

 だが、少女はネクロマンシーの悪行を止めて欲しいとは思っている。今この場で少女が消えればネクロマンシーは逃走し、どこかでまた同じようなことをするだろう。その時の犠牲者はどれほどになるか、公也のような実力者がいなければ被害は広がることになる。少女のような繋ぎとなる誰かがまた生まれることになる。それはよくない、それでは救われない、それは許されない。だから、少女は自分を犠牲にしても、誰かのためになることを選ぶ。


「……………………すまない」


 暴食の力で、公也は少女を食らう。その知識を、その記憶を得て、ネクロマンシーに迫るために。




※まだネクロマンシーの存在は確定していないのだけどいる前提で語られているような……

※空間そのものは暴食でも食らっていないような気がする。

※悪霊に対して攻撃していたのは根本的には悪霊の群体を退治するため。主人公はそれを悪霊の群体を削ぎ声の主を探す、露出することに利用。仮にその存在を発見できなかった場合普通に倒していた可能性もある。

※主人公のキャラ崩壊中。普段の主人公っぽくないけどどうした。

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