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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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基本的に私の世界における世界観で好き勝手書いているので注意。(特に後書きのおまけ)


 人とは飢える者である。それは食、己を構成する肉体を維持するためのエネルギーを獲得する食への飢えだけに非ず。例えば知恵、物語を、世界の真実を、様々な多種多様の知を、あらゆる可能性を、あらゆる全ての物事を。例えば欲求、眠りに、食に、性に、三大欲だけに足らず血を求めることもまた欲求であり、人を欲し物を欲し楽を欲する。例えば人、友、母、子、想い人に家族、その形式は問わずとも人と関わらず生きる者は少なく、多くの者は己に関わる人を求める。それらすべては結局のところ全て求める欲に値するのだが、決してこれは強欲に非ず。それは暴食。すべてを貪るように欲し喰らい続け自分の糧とする、強欲に等しい暴食である。


 物を、知識を、欲求を、様々な物を求め、様々な物を集め、それらを使い、知り、読み、喰らい、己の糧として、貪り喰らい続けた者がいる。それに価値は無きにも等しく、たとえどれほど求めようとも自身に留めるしか出来ぬそれはただ己の中に集積するだけの意味しかない。その欲求を人、他者に向けなかったのはある種の救いだろう。場合によっては人が死ぬこともあり得たのだから。もっとも、その結果そこにあったのはただ自分が満足するだけで済ませてしまっているただの人間一人だった。いや、満足はしていない。まだまだ彼は求めている。新たな情報を、新たな欲望を、新たな世界を。知り、発散し、遊び、読み、楽しむ。ただそれを目的に自分だけで生きる、ただ貪るためだけに生きている者。その欲求は飽くなきものであり、どこまで行っても足りることはない。それこそ世界のすべてを飲み干したとしても。


「初めまして、倉谷公也さん」

「……………………誰? どこから入ったの?」


 暗い部屋の中、その部屋よりも暗く黒い、しかしその暗闇の中浮き出るように肌が白く鮮やかに見える女性が、その暗さの中でパソコンの明かりの前で画面に向かっている男性に対して声をかける。

 倉谷公也。暗い部屋の中その暗さで生活しパソコンを行っている不健康な男性の名前である。行動が不健康なら見た目の印象もあまり健康的とは言えない。眠りも食も、彼にとっては満たすべき時に満たすだけであり、その乱雑さゆえに体調はあまりよろしくない。暴飲暴食している割に体重が増加せず、眠りを結構取っているのに眠り方の問題があるのか目に若干隈がある。着ている服装も割と雑で、脇に積まれている既に着ただろう服は畳まれて放置されている。


「別に誰でもいいでしょう……と言ってもあなたは満足しませんね。暴食者。世界の知を貪るのでしょうから」

「…………答えは?」

「ええ、答えましょう。私は俗に邪神と呼ばれている存在です。まあ、それが私の在り様であり、性質その物ですが。神の在り方を語るのはあなたは満足しそうですが、それはそれで話が逸れるので戻しましょう。私はあなたに用事があってきたのですから」

「…………用事?」

「はい、用事です」


 にこりと笑う邪神を名乗る女性。暗い中でもその暗い中に浮き出るように見せる肌は白く、はっきりと見える。肌色がはっきり白というわけではないが、暗闇の黒への対比か白に見えるわけである。笑う口は赤い、口の中は黒ではなく赤のように、色絵のようにはっきりと色づいて見える。あるいは黒が赤く見えているように感じているだけかもしれない。いや、そういった見え方はどうでもいいだろう。彼女の言った用事、それに関して彼は疑問を浮かべる。

 そもそも、いつのまにか邪神を名乗る女性が入り込んでいたというだけで異常事態である。彼の家の玄関は鍵がかけられており人が入ってくることは難しい。仮に鍵を開けて入ってきたにしても、彼の所に来るまで音もたてずに入り込むのはまず無理だろう。窓から入るにしても、扉から入るにしても、音は出るし光も入ってくる。今は昼、部屋は暗くとも外は明るい。つまり、彼女は部屋の中に唐突に現れたということになる。それは異常事態だ。この世界の人間ではあり得ない、本当に彼女が名乗るような神のような存在、あるいはこの世界の存在ではない者でなければあり得ない、そんな出来事だ。

 しかし、そういったことが存在しないとされる常識に生きる彼であるが特に気にしなかった。そういうこともあるのか、と新しい常識、常識を打ち破るような事実を楽しみ、嬉しく思い、その知を得る。


「あなたは暴食者。全てを食らおうと、すべてを自分の物にしようと、あらゆる全てを欲する者」

「…………それは強欲じゃないの?」

「あなたのそれは強欲とは少し違いますよ。欲しいと思った物を全て欲する、強く欲するものとは違います。物も知識も、心すらも、あらゆるすべてを己の生きるための糧とする。燃料とする。それがなければ生を維持できない。欲したものを持ち続ける必要はない。満たされればそれで終わり、それ以上は必要ない。持ち続けることはいいが、別に離れたところで構わない。欲し続けている場合は離すことは許さないかもしれませんが、あなたの強欲さはその程度。生きるために全てを糧に、糧を食らいそれらを生きる目的に燃やし生きる、だからこそ暴食」

「……………………」


 邪神の言う通り、炎のような存在。求めるのは結局のところ己という生き方、その火を絶やさぬように燃やし続けるため。己の中に燃料となるものを求め、満たし続けることで彼は生き続けられる。

 もし、彼が欲しなくなった時、彼は生きる目的を見失う。ただ生きたいというだけでは生きられない。彼はあらゆるすべてを欲するがゆえに生きている。欲し、自分の物とし、自分に満たし、そうして今度はまた別の物を。強欲とは違う。彼のそれは食欲に近い。彼は足りなくなったから欲する。彼は生きる力を満たすために欲する。あらゆるすべてを貪り己の物とする。貪り喰らう。ゆえに暴食の呼び方で彼女は呼んでいる。


「それで?」

「そうですね、用事を告げましょう。異世界で、私の力を授かり好き勝手に生きてみませんか?」

「……………………」

「否定はない、いいえ、できませんよね? この世界で生きるには、あなたを満たす知も欲も身近なものでは足りなくなってきているのですから」

「………………」


 彼は無言で邪神を名乗る女性を睨む。この世界には様々な物がある。様々な知識がある。様々な体験がある。様々な人間がいる。彼はその気になればもっと多様なもので自分を満たすこともできるだろう。しかし、それは一時的にだ。今の生き方でこれ以上得られる物は少なく、新たな生き方を模索するにはこの世界は生き難い。そもそも、真っ当に生きる人間が得られる限りのものを得たところで、専門分野や真っ当でない生き方の知や物を得るのは難しく、そちらに入ろうとするならばかなり難しい様々な条件がいる。それこそ身代を切り、今の生活を捨て、当たり前の社会で生きる事を諦めなければいけないほどに。そんな生活でどれほどの知が得られるか。彼を満たし続けるほどの知や欲を得るのは難しいだろう。今はまだ、多くの知らぬ物語で欲を埋めているが、いずれまた足りなくなる。満たすために、新しいものがいるのは事実である。

 邪神を名乗った女性はそれを彼に提供する、新しい世界という舞台で。そして、彼女の加護、力を与えたうえで。そういった提案をしてきたのである。この提案が真実か、まるで悪魔の契約のようなやり口ではないかと思うところでもあるが、しかしそれはかなり魅力的な提案だった。


「詳しい話を頼む」


 彼はその話の詳しい内容を聞き、それで決めようと思った。もっとも、この時点で八割ほど彼女の提案を受けるつもりではあったが。

※余計な話をする項。無駄話、こぼれ話、適当な話、ネタばらしなど。

※生きるとは燃えること。命の炎を絶やさぬように、常に燃料を注ぎ続けなければならない。求めるもの、欲するもの、暴食者の糧はすべてその火を絶やさぬようにするためのもの。食らい、己の糧としてすべてを燃やし続ける。ゆえに強欲者ではなく、暴食者。

※邪神は自分側の存在を集めるのに熱心。神側、善側、正義側の存在は自然に増えるので自分たち邪神側、悪側、闇側の存在は自分で増やさなければいけない。不公平だと思います。しかも一部は普通にこちらに逆らう人たちばかりなのが特に困ることです。特に最近生まれたあの幸福の神はかなり面倒くさい子でしょう? うちの子が抑えに入ってますが、それでもまだ好き勝手しています。そちらの責任でしょう。早く引き取ってください。

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