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4.ヒーローに休息はない

「んー、こうかな、いやここがちょっと長いか、うーん」


 シャキン、シャキンと小気味よい音を立ててハサミが髪を切り落とす。切れ味がいいハサミは違う。ニート時代床屋が嫌いで髪が伸び放題になった時、母さんが髪を切ってくれたハサミは、俺が幼稚園の頃から使い続けた工作用のハサミだったから、もう切れないのなんのって。四苦八苦しながらも切ってくれた母さんに感謝だな。


「あの、トウマ様?」


「ん?」


「そこまで短くなさるのでしたら、バリカンをお持ちしましょうか?」


「え? ああっ!?」


 うおーー!!! しまった、回想に耽って適当に切り進めてたら昔のマンガに出てくる野球部員みたいな髪型になっちまった!! 俺バリバリインドア派だぞ。野球少年だった過去なんて0.1ミリもねーぞ……。


「もうよろしいのですか?」


「うん……。もう、なんでもいい」


「よくお似合いですよ。トウマ様の精悍なお顔がよく映えます」


 精悍ンン~? なんだこいつは、俺はおだてりゃなんでもすると思ってるのか? クソニートのご尊顔が精悍な訳がないだろう、バカ。


「……」


 心の声の聞こえているはずの人工知能はなんだか諦めたような顔で目を伏せた。フォローのしようもなくなったと見える。


 先ほど取った食堂での食事は悪くなかった。彼女の言った通り非常食といえど、普段食べていたものとさほど変わらない。ツバサも喜んで食べていた。三十人の研究者が一ヶ月生き延びられるだけの非常食と、長期保存の出来そうな缶詰もいくらか残されていたから、しばらくは食事の心配はいらない。いざとなったら、栄養点滴もあるらしい。それはできれば御免被りたいが。


「トウマおニイちゃん」


 ツバサの声で我に返ると、そのツバサが両手を広げて近づいてくる。何をしたいのかわからなかったが、どうやら切ったばかりのこの髪に触れたいらしい。


「よしよし……」


 脇に手を入れて抱え上げ、椅子に座った膝の上に抱え上げてやる。存分に触れと頭を差し出すと、ツバサは遠慮なくグシャグシャと俺の髪をかき回した。そしてイヒヒと歯を見せて笑う。満足そうでなによりだ。


「もうよろしいのでは?」


 人工知能の無機質な声が聞こえて、ツバサの肩越しに机の上の鏡を見ると、鏡の中でそいつと目が合う。いつも通りの表情というには、すこしキツい目をしていた。


「なんだよ、お前そんな顔も出来たんだな。メイコはそんな不機嫌な表情しなかったぞ」


「私はあなたが勝手に作り出した幻とは違いますっ!」


「!」


 こいつ、こんな風に怒ってみせることも出来るのか……。少し面食らう。怒らせるつもりなどなかったからなおさらだ。


「お、落ち着けよ。何か気に障ったなら謝る」


「何が悪いかも理解せず無責任に投げかけられる謝罪など無価値です」


「お前なあ……」


「トウマ様は私のことをしょせんただのプログラムと思っていらっしゃるのかも知れませんが、人工知能にはれっきとした感情があるのですよ」


「いや、それはわかってるけど」


「わかってない。──わかって、おられません」


 そこまで言うと、悲しく目を伏せた人工知能は踵を返した。


「……新しいスーツと武器を確認します」


 ツバサの一件でうやむやになっていた、新しい武器の選別をするらしい。スーツも右腕が飛んだと同時にちぎれたままだ。腕は再生したがスーツは元通りにはなっていない。


「わかったよ……」


 なんなんだ、人工知能の感情って意味不明だ。


 ツバサを抱え上げて、彼女のあとを追った。腕の中で不安そうな顔をするツバサに大丈夫さと告げる。カッコつけてはみたものの動揺を隠しきれず、誰に言い聞かせてるのかわかりやしなかった。



「新しいスーツはこちらです。全く同じものですので、操作方法は変わりません。それから、武器はこちらからお選びください」


 並べられた武器は千差万別だった。今度は間違えないように、彼女が一つ一つ説明してくれる。


「左から順にレーザーガン、マシンガン、火炎放射器、スタンガン、バズーカ砲です。近接武器がお好みならば剣型、槍型、斧型、棍棒型、様々そろっております。それから、その一番端が文鎮です」


「文鎮はもういいかな。なんでこんな紛らわしいとこにインテリアの文鎮置いとくんだよ。……さて、やっぱり遠距離が便利だよなあ。見た感じ、バズーカ砲はデカすぎて持てない気がすんだけど」


「身体強化スーツを着ていらっしゃるので問題なく持てますよ」


「あ、そうか。んで、これがスタンガンだっけ? 俺のイメージだとスタンガンって手のひらサイズなんだけど、隣のマシンガンと同じくらい大きさあるぞ。そもそも銃の形をしてないか?」


「はい、電気を利用した武器ということでスタンガンと呼称しましたが、実際には気絶スタンではなく絶命させる威力を持っています。あくまで人間相手の場合であって、宇宙人に試した者はまだ一人もいませんが。従来のスタンガンのイメージとは異なり、雷並みの電圧をまっすぐ前に打ち出す武器です」


「それもうスタンガンじゃねーな……」


「そうですね。正式名称では『エレクトリック・ガン』といいます」


「なるほど、そのまんまだがわかりやすいネーミングだ」


 エレクトリック・ガンを手に取る。気に入った。電気属性の武器ってなんかカッコいいと思う。炎とか氷に比べりゃちょいトリッキーで、暑苦しい主人公でもクールぶったヒーローでもなく、ちょっとデキる奴! 感が演出できる気がする。


「俺、これにするよ」


 黒いメタリックのボディもいい感じだ。大きすぎず小さすぎず扱いやすそうだし。


「では、そちらで。次はまたいつ襲撃があるかわかりませんから、とりあえずそのスーツを着替えてきてください」


「はいよ」


「トウマおニイちゃん、おテツダいするよ!」


 ツバサが元気よく手を挙げたが、さすがに犯罪臭が半端じゃないと思って辞退した。部屋から出て、扉のすぐ横で着替える。すると、突然けたたましいアラームが鳴った。


「え? なに?」


「トウマ様敵襲です。研究所の前まで敵が来ています! ご準備を!」


 部屋の中からメイコモドキが飛び出してくる。……やれやれ、ヒーローに休息はないらしい。背中に薄く冷や汗がにじんだ。


 ぐっと顎の下までジッパーを上げて、部屋からエレクトリック・ガンを持ち出す。部屋を出るとき不安そうな顔をしているツバサに目線を合わせて、頭をなでてやった。


「大丈夫さ。トウマお兄ちゃんが全部やっつけてきてやるからな」


 俺の手は震えていないだろうか。能力未知数のロボットの、この子に悟られていないだろうか。柄にもなく、幼い笑顔が曇ることが怖いと思った。……ツバサは俺の言葉に、こくんと頷いた。


「うん。ヤクソクだよ、おニイちゃん」


「ああ、約束だ」


 指切りをすると、ツバサはふわりと破顔した。


「いってらっしゃい!」


 笑顔に見送られながら俺は再び死地に向かう。

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